故郷を追われて避難するひとびと
ウクライナから避難するひとびとの数が、日増しに増えています。着の身着のままという姿です。
駅の地下に2週間逃げ、それから隣国へ脱け出したという母子連れもいました。兵士の父と泣きながら別れる幼い子もいました。
どの家族にも歴史があるのです。これからもその歴史が続いていくのです。残酷な出来事がその間に割り込んできたのです。情け容赦もなく。
小川未明の「戦争はぼくをおとなにした」を読みました(青空文庫)。
戦争で焼かれた町や家、そして人。悲惨な情景を淡々と描いていますが、ウクライナから脱出するひとびとと重なります。
一部だけ引用します。
戦争はぼくをおとなにした 小川未明(おがわ みめい)
「戦争が悪いのだ!」
かれの口から、しぜんに、この言葉が、ついて出ました。かれは、空想にふけりながらあちこちと、道を曲がって歩くうち、いつしか電車の通る、幅の広い路へ出たのでありました。
あの夜、ここを通ったのだ、かれは、逃げた日のことを思い出しました。小さな弟を負っている母に手をひかれて、燃え狂う、火に追われながら、この道を、通ったのでした。
やはり、町から郊外へのがれる、人々の群れとまじって、逃げたのでした。
「もう、ここまでくれば、だいじょうぶだ。」
小高い丘のようなところへたどりつくと、みんなは、こういって休みました。
一方では、火のむちで打たれて、狂うように、烈しい風が、暗く、青ざめた、夜の空を苦しそうな叫びをあげて、吹いていました。風は、すこしの間、一息いれると、その後は、かえって、すさまじい勢力をあらわしました。そのたびに、たんぼのむぎや、まわりにしげる木立の枝が、いまにもちぎれて、闇の中へさらわれそうにみもだえしたのです。焼けくずれる町では、花火のごとく、火の粉が高く舞い上がり、ぴかりぴかりとして、凱歌(がいか)を上げるごとく、ほこらしげにおどっていました。
人々は、あちらの木の下に、一かたまり、こちらのやぶ蔭に、一かたまり、いずれも押しだまって、ただ目だけを、赤く焼ける町の方へ向けて、おそろしいありさまを見守っていました。そのうちひとりが、ちがったところを指すと、みんなが、その方を向きました。へびの舌のように、紅い炎が、ちろちろと、黒い建物の間から、上がりはじめたばかりです。
と思ううち、見る見るすそをひろげて、一方の火と合し、たちまち、あたりは火の海となってしまいました。
「もう、さっきから、どれほど焼けたろう。」
「さぞ、人がたくさん死んだろうな。」
こんな話し声がきこえました。清吉は、いくらがまんしても、からだがふるえて、ぞくぞく寒けがしました。かれは、こんないくじのないことでどうしようと、自分をはげましました。
どのような記憶をウクライナの小さな子どもたちは刻むのでしょう。平和を返してくださいと、切にせつに祈ります。
●ご訪問ありがとうございます。
小川未明は、児童文学作家です。けれど、このような辛い作品も書いています。詩でも、子どもの傷を描いています。戦争の悲惨さが伝わってきます。
避難する方々の思いをほんの少しでも想像しようと、自分に言い聞かせています。