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ほいほいとぼとぼ日記・爺爺刻々

小樽のラーメン屋​ 麺亭見晴らし坂ばなし 第一話

ラーメンの湯気で窓ガラスが曇っている。ガラス越しの白の風景に黒い影がひょこひょこ。  波照間さんの旦那は沖縄から小樽のホテルに仕事で来た人。寒いのが嫌いだと言いながら小樽で知り合った奥さんに惚れてそのまま居着いてしまった。その波照間さんが亡くなった。俺のラーメンを奥さんが食べ始めた。 

沖縄だったらお墓って大きいでしょ。知ってる?小樽の人だもん、知らないよね。実は、私も1度も彼の家のお墓に行ったことがないのよ。写真でしかみてないの。つまり、彼の家にも行ってないの。親の顔も知らないのよ。後ろめたさはあったけど、あの人も帰りたくなさそうだったし。沖縄は長男が総取り文化らしくて、三男って、かまってもらえないらしいよ。  そうそう、お墓の話。沖縄のお墓って小樽のお墓の何倍もあるんだって。親戚一同何十人も集まって、お墓で宴会っていうのかな、ご先祖を偲ぶ会をするんだって。シーミー?そうそう、そんなこと言ってた。よく、知ってるね。そんな人が小樽のちっちゃいお墓に入れるのかしらって思ったけどね。そもそも私で、あの人良かったんだろうかね?  そうだ、この店って、なんでみんな来るのかね。あの人が大好きだったもんね。このスープ。いつも来てたから、一番、2人の思い出があるんだよ。家族の思い出もあるんだよ。あんたが、この店を開いてくれてほんとにありがとうね。ホントはお墓に持っていきたいけど麺が伸びちゃうもんね。こんなの食えねえよってあの人は言うよね。だから、この席にあの人の思い出がいっぱいさ。ケンカして2人で食べた思い出もね。寂しい?当たり前でしょ。今日もありがとうねってあの人が言ってるよ。私からもありがとう。 


ひょこひょこした動きに傘のシルエットが。強くなってきた雪に、また窓ガラスにしずくが増えたようだ。滑らずに帰れればいいけど。

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