第四話
軽トラックが店の前に停まった。荷台からいつものように段ボール箱を抱えながら、長代さんは野菜を持ってきてくれる赤井川の農家さんだ。小樽の老人ホームにいるお母さんに会いに来たのだ。
春遠からじ、ボロなのは俺のわらじ。妙な天気だね。今年も、おかしなことになりそうだわ。気象異常。なんとかなるかね。家も気性が異常の人がいるからなんてね。言わんでね。奥さん、最近ピリピリしててね。そう、息子の大学でさあ。本人が行きたくないなら行かせんでもいいと思ってるんだがね、はっきりせんのよ。行ってなにするか、行かないならなにするかね。それなら大学行かせるほうまだ、ましになるんじゃないかというのが奥さんだけど。4年間だよ。学校行っても、ろくに授業もないらしいしね。でもな。農業もしんどいだけで、異常気象のおかげで、できも悪くなってきた。継いでくれとは言えないよね。今年なんか、北海道で作るものじゃない、内地で作るものに転換しないといけないかも。冬だけ寒いが、夏はずんずん暑くなるし、雨はいっぱい降るし、あずましくないでしょ。そうそう、去年入ってきた佐藤くん、若い方のね。思ったように作れなくて、指導は受けてるけど、作っても作っても買取は最低価格で、もう無理かなって言っていた。応援するから、やろうよと言っているけどね。さ、とうか? なんちゃって。さてと、ばあさんに会ってくるか。例の病気で、会えるときに会っとかないと。また、にんにく持ってくるわ。
後ろ姿は心做しか、背中が丸まってきてる。軽トラックは、エンジンがかかっても、しばらく動かなかった。曇り空から陽がさした。それを待っていたように、ため息のような排気音をふっとはいて、長代さんの軽トラックは一気に坂を下っていった。