第三話
窓ガラスの曇りがとれて、道路の緑もみえるようになってきた。陽が少し陰って、赤味がでてきたら小さなお客さんがやってくる時間になったようだ。さや香ちゃんは、土曜の夕方の常連さんだ。
こんにちは、おじさん、さや香は今日もお利口さんだったって。保育園のワカコ先生が言ってくれたよ。でも、ワカコ先生、お病気みたいでちょっとお休みするんだって。今日がさいごだって。ママ、さや香は先生のこと心配だよ。おじさんも心配でしょ。先生は背が高くて、力持ちっていつも言ってるのに。
こないだね、とっても可愛いお人形を作ってくれて、さや香に内緒だよって、プレゼントくれたの。お人形は、さや香っていうお名前。私と一緒の名前なんだよ。夜にさや香はさや香と一緒におやすみするんだ。一緒にいると安心するんだよ。さや香は、産まれたときからパパがいないし。ママはお仕事大変。だからね、さや香と一緒にいるから。寂しくないよ。ママ、ワカコ先生早くお休み終わるといいね。先生にもうひとり、さや香を作ってもらうってお約束したの。はやく、もうひとりのさや香に会いたいな。おじさんもお祈りしてね。お腹いっぱい。ごちそうさまでした。
ごちそうさまをしながら、小さな体をカウンター席から下ろしたとき、お母さんがさや香ちゃんのバックの口をそっと開いた。中にはさらに小さなさや香ちゃんがいた。優しい顔をした人形が、もうひとりのさや香に会えたらいいね。