木曜日。
同期の三島くんと、会社近くの定食屋でお昼を食べた。
タイミングが合うと、お昼食べたり飲みに行ったり。
三島くんは、職場の同期で気の合う男友達でもある。
明日の金曜日はバレンタインデー。
彼はカツ丼、私は親子丼をぱくつきながら、話すことはどうしてもバレンタインのことになる。
「もう明日じゃない。今年は貰えそう?去年は何個貰ったんだっけ?」
負けず嫌いの三島くんを、ついからかってしまった。
去年、義理チョコばかりで不貞腐れてた彼は、とたんに不機嫌になる。
「コンビニの義理チョコ配るだけの中野に言われたくない」
ブスッとして口を曲げた同僚に、すかさずスマホを突きつけた。
大きな画面には、手作りトリュフチョコの画像。
「残念でした!手作り本命チョコあげるんですぅ」
ヤツは画面を見て目をまんまるく見開いてから、逸らした。
「…中野、去年あんなに懲りたって言ってたのに…また本命いるのか」
あ。
やっぱり言われちゃった。
去年のバレンタインのこと…
去年、同期のみんなとよく行ったコーヒーショップの店長に一目惚れしたのだ。
覚えて貰いたくて、毎日通った。
それで巻き込まれたのが、同じ課の三島くん。
毎日のように付き合わされて、文句たらたらだった。
毎日ランチを奢って、どうにか一緒に行って貰ったんだ。
顔も覚えて貰って、なんとなくいい感触を感じて、バレンタインは手作りチョコを準備した。
でも、それは渡せなかった。
だって、直前に店長の奥さんが子連れで店に現れたんだもの。
そんなこと、一言も言ってなかったじゃない!って、店を出てから三島くんに八つ当たりした。
そしたら、
「大体、結婚してるかって聞いたのか?」
って言われたんだった。
それで、来年は義理チョコ配りまくってやる!ってまた八つ当たり。
だから、三島くんの言葉は耳が痛い。
でも、また本命が出来ちゃったんだもの、しょうがないじゃない。
「いいじゃない。去年は去年よ」
「…それで、誰にあげるの?」
「…萩原さん」
「あぁ…あの人か…ていうか、なんで?」
「あぁって何よ。同じ島になったら、すごく面倒見がよくて、スマートなんだもの。とにかくイケメンでカッコいいの」
聞かれたから正直に話したけど…
三島くんは、こんなこと言ったらバカにするだろうなあって分かってた。
去年だって、ちゃんと確かめろって怒られたんだから。
三島くんをそっと見ると、口をきゅっと結んで黙ってる。
「あの…どうしたの?なんか、怒ってる?」
「…なんでもない。まぁ、今度こそうまくやれよ」
…こんな話をしたことを、思い出してる今は金曜日。
午後の給湯室に私はいる。
なんでこんなところにぐずぐずしているかって?
顔を出すとチラッと見える廊下の端。
俯いたアイツに、チョコを渡そうとしてる1つ後輩のかわい子ちゃん。
今出て行ったら、二人の邪魔をしちゃうじゃない。
それに、成り行きが気になるし。
2人とも顔を赤くして可愛い。
貰えて良かったねって、明日からかおうと思ってたのに…
「ごめん、受け取れない」
チョコはまた、アイツの手から彼女へ。
何言ってるの?
昨日、本命チョコ欲しがってたじゃない。
「どうしてですか…やっぱり、迷惑ですか?」
か細い声の後、ボソッと聞こえた声。
「好きな人が、いるから」
…好きな人?
初めて聞いた、そんな話。
昨日は、そんなこと一言も言わなかったよね?
「ごめん、じゃあ…」
ボソッと言うと、俯いたままの彼女を残して行ってしまった。
入社した時の研修からの付き合いの三島くん。
遠慮がなくてなんでも言いたいことを言い合える、気のおけない同期だ。
だけど、恋バナなんてしたことなかったな。
好きな人、か。
誰なんだろ。
言ってくれたら良かったのに。
私だって昨日、初めて萩原さんのことを言ったくせに、そんな勝手なことを呟いていた。
その日、帰り際に萩原さんを引き止めた。
チラッと見るとデスクの上には高そうなチョコの箱がいくつか…
もう先客がいたみたいだ。
でも、萩原さんはチョコを受け取ってくれた。
「手作りなの?ありがとう」って笑顔で。
本命ですって伝えるのを忘れるほど余裕無かったけど、大丈夫かな…
翌日から、三島くんはランチや二人での飲みの誘いをして来なくなった。
お昼になるとさっさと先輩と外に出てしまうし、飲みも皆での飲み会しか声を掛けて来ない。
何でって不思議だったけど…
一応本命がいると宣言したし、気を
使ってくれてる?
でも、なんかちょっと寂しい…
同期なんだし、別に誤解とかされないと思うし…
あ。
三島くんの好きな人から誤解されたくないの…?
そっか。
そりゃ、そうよね。
ただの同期だもんね。
同期の三島くんと、会社近くの定食屋でお昼を食べた。
タイミングが合うと、お昼食べたり飲みに行ったり。
三島くんは、職場の同期で気の合う男友達でもある。
明日の金曜日はバレンタインデー。
彼はカツ丼、私は親子丼をぱくつきながら、話すことはどうしてもバレンタインのことになる。
「もう明日じゃない。今年は貰えそう?去年は何個貰ったんだっけ?」
負けず嫌いの三島くんを、ついからかってしまった。
去年、義理チョコばかりで不貞腐れてた彼は、とたんに不機嫌になる。
「コンビニの義理チョコ配るだけの中野に言われたくない」
ブスッとして口を曲げた同僚に、すかさずスマホを突きつけた。
大きな画面には、手作りトリュフチョコの画像。
「残念でした!手作り本命チョコあげるんですぅ」
ヤツは画面を見て目をまんまるく見開いてから、逸らした。
「…中野、去年あんなに懲りたって言ってたのに…また本命いるのか」
あ。
やっぱり言われちゃった。
去年のバレンタインのこと…
去年、同期のみんなとよく行ったコーヒーショップの店長に一目惚れしたのだ。
覚えて貰いたくて、毎日通った。
それで巻き込まれたのが、同じ課の三島くん。
毎日のように付き合わされて、文句たらたらだった。
毎日ランチを奢って、どうにか一緒に行って貰ったんだ。
顔も覚えて貰って、なんとなくいい感触を感じて、バレンタインは手作りチョコを準備した。
でも、それは渡せなかった。
だって、直前に店長の奥さんが子連れで店に現れたんだもの。
そんなこと、一言も言ってなかったじゃない!って、店を出てから三島くんに八つ当たりした。
そしたら、
「大体、結婚してるかって聞いたのか?」
って言われたんだった。
それで、来年は義理チョコ配りまくってやる!ってまた八つ当たり。
だから、三島くんの言葉は耳が痛い。
でも、また本命が出来ちゃったんだもの、しょうがないじゃない。
「いいじゃない。去年は去年よ」
「…それで、誰にあげるの?」
「…萩原さん」
「あぁ…あの人か…ていうか、なんで?」
「あぁって何よ。同じ島になったら、すごく面倒見がよくて、スマートなんだもの。とにかくイケメンでカッコいいの」
聞かれたから正直に話したけど…
三島くんは、こんなこと言ったらバカにするだろうなあって分かってた。
去年だって、ちゃんと確かめろって怒られたんだから。
三島くんをそっと見ると、口をきゅっと結んで黙ってる。
「あの…どうしたの?なんか、怒ってる?」
「…なんでもない。まぁ、今度こそうまくやれよ」
…こんな話をしたことを、思い出してる今は金曜日。
午後の給湯室に私はいる。
なんでこんなところにぐずぐずしているかって?
顔を出すとチラッと見える廊下の端。
俯いたアイツに、チョコを渡そうとしてる1つ後輩のかわい子ちゃん。
今出て行ったら、二人の邪魔をしちゃうじゃない。
それに、成り行きが気になるし。
2人とも顔を赤くして可愛い。
貰えて良かったねって、明日からかおうと思ってたのに…
「ごめん、受け取れない」
チョコはまた、アイツの手から彼女へ。
何言ってるの?
昨日、本命チョコ欲しがってたじゃない。
「どうしてですか…やっぱり、迷惑ですか?」
か細い声の後、ボソッと聞こえた声。
「好きな人が、いるから」
…好きな人?
初めて聞いた、そんな話。
昨日は、そんなこと一言も言わなかったよね?
「ごめん、じゃあ…」
ボソッと言うと、俯いたままの彼女を残して行ってしまった。
入社した時の研修からの付き合いの三島くん。
遠慮がなくてなんでも言いたいことを言い合える、気のおけない同期だ。
だけど、恋バナなんてしたことなかったな。
好きな人、か。
誰なんだろ。
言ってくれたら良かったのに。
私だって昨日、初めて萩原さんのことを言ったくせに、そんな勝手なことを呟いていた。
その日、帰り際に萩原さんを引き止めた。
チラッと見るとデスクの上には高そうなチョコの箱がいくつか…
もう先客がいたみたいだ。
でも、萩原さんはチョコを受け取ってくれた。
「手作りなの?ありがとう」って笑顔で。
本命ですって伝えるのを忘れるほど余裕無かったけど、大丈夫かな…
翌日から、三島くんはランチや二人での飲みの誘いをして来なくなった。
お昼になるとさっさと先輩と外に出てしまうし、飲みも皆での飲み会しか声を掛けて来ない。
何でって不思議だったけど…
一応本命がいると宣言したし、気を
使ってくれてる?
でも、なんかちょっと寂しい…
同期なんだし、別に誤解とかされないと思うし…
あ。
三島くんの好きな人から誤解されたくないの…?
そっか。
そりゃ、そうよね。
ただの同期だもんね。