言わずと知れたベストセラー、『銃・病原菌・鉄』。
歴史学には、先行研究に新たな資料解読による知見を加えた、手堅い実証研究も必要であるが、本書のような、多少粗っぽくとも、人類史を鳥瞰する壮大な試みも必要だ。歴史学の専門家でもない者にとって、後者の方がおもしろいことは言うまでもない。
上・下巻合わせると、そうとうなボリュームとなる本作品の白眉は、16世紀、ピサロ率いるわずか168人のスペイン軍隊が、圧倒的な武器により、4万人余のインカ兵士を一方的に大量殺戮し、皇帝を捕虜にした(のちに殺害)くだりにあるが、歴史のふしぶしにおいて、侵略者がもち込んだ「病原菌」が免疫のない原住民を大量死させていった史実の数々を、新型コロナウィルス蔓延する現在に重ね合わせて、再認識させられた。
新型コロナウィルスの蔓延は、そのパンデミックの規模と持続性という点で、これまでの伝染病とは異なる。もし、それが終息不可能なものであれば、かつて村上泰亮が予見したX文明、端的に言えば、ライフラインを維持する産業以外では、遠隔サービスを基本とし、農林漁業・製造業・建設業ではさらなる機械化、産業ロボットによる省力化がはかられ、コミュニケーションや余暇の享楽も、ソーシャルディスタンスを保ったそれに置き換わっていき、知識や知恵の価値がさらに上昇する、現時点では漠然としているが、そうした異種文明への置換が進んでいくのではないか、とこの壮大な人類史を追体験しながら思った次第である。
目次
(上)
ニューギニア人ヤリの問いかけるもの
第1部 勝者と敗者をめぐる謎
一万三〇〇〇年前のスタートライン
平和の民と戦う民の分かれ道
スペイン人とインカ帝国の激突
第2部 食料生産にまつわる謎
食料生産と征服戦争
持てるものと持たざるものの歴史
農耕を始めた人と始めなかった人
毒のないアーモンドのつくり方
リンゴのせいか、インディアンのせいか
なぜシマウマは家畜にならなかったのか
大地の広がる方向と住民の運命
第3部 銃・病原菌・鉄の謎
家畜がくれた死の贈り物
(下)
第3部 銃・病原菌・鉄の謎(承前)
文字をつくった人と借りた人
発明は必要の母である
平等な社会から集権的な社会へ
第4部 世界に横たわる謎
オーストラリアとニューギニアのミステリー
中国はいかにして中国になったのか
太平洋に広がっていった人びと
旧世界と新世界の遭遇
アフリカはいかにして黒人の世界になったか
科学としての人類史
概要
(上)
アメリカ大陸の先住民はなぜ、旧大陸の住民に征服されたのか。なぜ、その逆は起こらなかったのか。現在の世界に広がる富とパワーの「地域格差」を生み出したものとは。1万3000年にわたる人類史のダイナミズムに隠された壮大な謎を、進化生物学、生物地理学、文化人類学、言語学など、広範な最新知見を縦横に駆使して解き明かす。ピュリッツァー賞、国際コスモス賞、朝日新聞「ゼロ年代の50冊」第1位を受賞した名著、待望の文庫化。
(下)
世界史の勢力地図は、侵略と淘汰が繰り返されるなかで幾度となく塗り替えられてきた。歴史の勝者と敗者を分けた要因とは、銃器や金属器技術の有無、農耕収穫物や家畜の種類、運搬・移動手段の差異、情報を伝達し保持する文字の存在など多岐にわたっている。だが、地域によるその差を生み出した真の要因とは何だったのか?文系・理系の枠を超えて最新の研究成果を編み上げ、まったく新しい人類史・文明史の視点を提示した知的興奮の書。ピュリッツァー賞・コスモス国際賞受賞作。朝日新聞「ゼロ年代の50冊」第1位。
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