両作品ともに、鈴木さんの経験が色濃く反映されている。
文章表現も巧みだ。
鈴木涼美,2023,浮き身,新潮社.(5.31.24)
ドラッグとセックスにまみれ、アンニュイにただよう主人公の造形が良い。
村上龍の『限りなく透明に近いブルー』や、山田詠美の『ベッドタイムアイズ』、『ソウル・ミュージック・ラバーズ・オンリー』を想起させる内容だが、セックス、ドラッグ&ロックンロール(R&B)のうち、ロックンロール(R&B)の部分がなく、登場するのは日本人だけだ。
主人公の、ひたすら気だるく暗い心象風景の描写が続く。
本作に登場する男たちは、「黒髪」、「顔長男」、「細眉」、「ボーイ」等々、名前をもたない。
女がみな固有の名前をもつのと対照的だ。
鈴木さんが、はなっから男を見切っていることがわかる。
男の欲望を内面化しない女、そのありようがとてもクールで清々しい。
十九年前、私たちは浮くようにそこに居た。実体験を元に描く慈しみの物語。彼らが女を商品のようにしか扱えないのと同じで、私は彼らを子供を産ませる男か身体を買う男に峻別することしかできなかったーー。十九年前の、デリヘル開業前夜の彼らとの記憶に導かれ、私はかつて暮らした歓楽街へ赴く。酷い匂いの青春はやがて、もうすぐ子供が産めなくなる私の、未来への祈りとなる。新たな代表作!
もうすぐ子供を産めなくなる私は、恋人と深刻な喧嘩をした翌日、かつて暮らした歓楽街へと赴く。その地に近づくにつれ、デリヘル開業を目指す若者たちと過ごした「十一階の部屋」の記憶が、強烈な匂いを伴って私の脳内に蘇る―。セックス・ドラッグ・バイオレンス+フェミニズムを描いた新境地!
鈴木涼美,2023,グレイスレス,文藝春秋.(5.31.24)
かつてアダルトビデオに出演していたことがある鈴木さんの経験がよく生かされた作品だ。
主人公は、ポルノ女優の化粧師であるが、男の性幻想を充たし、性欲を処理する商品、消耗品として扱われる女たちの描写が秀逸だ。
デビュー小説『ギフテッド』に続き、芥川賞候補に選ばれた鈴木涼美の第二作。主人公は、アダルトビデオ業界で化粧師(メイク)として働く聖月(みづき)。彼女が祖母と共に暮らすのは、森の中に佇む、意匠を凝らした西洋建築の家である。まさに「聖と俗」と言える対極の世界を舞台に、「性と生」のあわいを繊細に描いた新境地。
ポルノ女優たちに化粧を施す仕事をしている「私」森の中に佇む邸宅での祖母との静かな暮らし。あまりに対極的な二つの世界が交錯する。アダルトビデオ業界に生きる女の倫理観とは?「性と生」のあわいを繊細に描いた鈴木涼美の新境地。第168回芥川賞候補作。