垣谷美雨,2018,老後の資金がありません,中央公論新社.(5.7.24)
かろうじて中流階層に踏み止まる夫婦が、生活困窮の一歩手前まで追い込まれる筋立てだが、最期はハッピーエンドで終わる。
どこの中流階層の家庭でも起こりうる展開だが、凡庸な内容にならず、最後まで読み手を引きつけるストーリーテラーとしての力量はさすがだ。
本作がけっこう話題を集めたのは、もちろん、多くの人が老後の生活資金の問題に不安をいだいているからだ。
2019年に、金融庁が、老後の生活を維持するためには預貯金2,000万円が必要とするレポートを提出したことが、この不安を増長した。
リタイア後の生活設計が難しいのは、きわめてシンプル、人間、いつまで生きるのか、誰にもわからないからだ。
金融庁が示した、月々の生活費の不足を預貯金を取り崩して補うという生活モデルは、いつまで生きるのかわからないという前提からして、不安を鎮めるものではない。
インフレが加速しないことが前提となるが、公的年金の不足を企業年金で補うというのが、現時点でもっとも安心できる対処の仕方であろう。(ボラティリティが高い株式投資、REIT、外国為替取引は、生活リスクの低減策としては、推奨できない。)
金融庁のレポートで採用されている夫婦二人の家計モデルでいくと、公的年金が約19万円。
月々の不足分が約5万円である。
月々5万円の企業年金(終身)を受け取るには、現状、約1,270万円の原資が必要となるので、持ち家確保の資金が4,000万円必要と仮定すると、現役時代に必要な原資は、5,270万円となる。
高額療養費助成制度があることだし、さほど預貯金は必要ないと思うが、余裕資金を700万円程度保有するとすれば、合計約6,000万円となる。
若い人たち、がんばれよ。笑
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