なにより、痛烈な、文科省による高等教育施策への批判に、おおいに肯いた。
達成目標があらかじめ開示された場合に、子どもたちの学習努力は大きく殺がれます。教育のプロセスをまじめに観察したことがある人間なら、誰でもわかることです。「勉強するとこんないいことがある」とか「勉強しないとこんなひどい目に遭う」というようなことをあらかじめ子どもに開示すると、子どもたちの学習意欲はあきらかに減退する。というのは、努力した先に得られるものが決まっていたら、子どもたちは最少の学習努力でそれを獲得しようとするに決まっているからです。」(p.198)
大学のなかには、シラバスに、学生を主語として、「(この授業を履修すれば)○○できる(ようになる)」という書式の「到達目標」を書かせるところがある。まったくもってバカバカしい限りであるが、内田さんが指摘するように、大学教育を受ける者を、機械学習で進化するAIか、アンドロイド程度の非人間としてしか考えていないのだろう。あるいは、文科省の役人は、自分たちより「優秀な」財務省官僚に嫉妬しながら、自らの劣等感情を、ひたすらペーパーテストの成績を上げる程度のことにしか眼中になかった自分たちの貧困な知性を若者におしつけることで慰撫しているのかもしれない。
シラバスだけではない。FD、PDCA、ポートフォリオ等、新自由主義の旗印のもとで虚業をのさばらせてきたコンセプトを、大学教育へもち込む動きも急だ。上記の文科官僚に加え、嘘八百をしたり顔で並べたてる詐欺師でしかないコンサルタントと、少子化と教職不人気をまえにした教育学部の「改革屋」たちが、デビッド・グレーバーのいう、「書類穴埋め」、すなわち「形式的な意味しかない書類をつくる仕事」を大学の現場にもち込んでいる。それをありがたく受け入れる大学人の見識のなさをこそ、もっとも憂うべきであろう。
「今さえよければ自分さえよければ、それでいい」という“サル化”が進む社会で、人口減少問題からAI時代の教育まで論じた快著。
目次
1 時間と知性
2 ゆらぐ現代社会
3 “この国のかたち”考
4 AI時代の教育論
5 人口減少社会のただ中で
特別対談 内田樹×堤未果 日本の資産が世界中のグローバル企業に売り渡される―人口減少社会を襲う“ハゲタカ”問題
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