膨大なデータを駆使して、20世紀後半期以降のアメリカ社会における、政治参加、市民活動、社交等の衰退と、その原因、21世紀のアメリカ再生を期した提言を付す。文句なしに充実した内容の本である。社会学のいちばん新しい「古典」といっていいだろう。
ただし、私生活中心主義の蔓延があってこその生活防衛型の社会運動の展開、電子コミュニケーションを駆使した「架橋型」のネットワークによる政治参加等、見逃せない潮流についても詳説してほしかった。伝統的なリベラルコミュニタリアンゆえの限界なのだろうか。
目次
第1部 序論
米国における社会変化の考察
第2部 市民参加と社会関係資本における変化
政治参加
市民参加 ほか
第3部 なぜ?
時間と金銭面のプレッシャー
移動性とスプロール ほか
第4部 それで?
教育と児童福祉
安全で生産的な近隣地域 ほか
第5部 何がなされるべきか?
歴史からの教訓―金ぴか時代と革新主義時代
社会関係資本主義者の課題に向けて
本書はハーバード大学教授である著者が、米国における「社会関係資本」の衰退について論じた書である。
「社会関係資本」とは、市民が自発的にコミュニティーを形成、あるいは参加し、金銭的・物質的な見返りを求めることなく活動する社会的絆を指す。経済行為に関わる「物的資本」や主に高等教育に関わる「人的資本」とともに、豊かな社会づくりには不可欠の財だが、「社会関係資本」を体系的に論じた研究者、書物は欧米でも極めて少なかった。
善意の米国市民が育んだ「社会関係資本」は、宗教団体や労働関連組織からPTAや社交クラブといったものまで社会の隅々に根を張り巡らしてきた。ボウリング場には誰でも参加できるリーグが存在し、ともにゲームに興じれば人種や年齢、職業を超えた絆が生まれ、“愛他主義”に基づく互助活動が行われていた。今ではそれが失われ、黙々と「孤独なボウリング」に興じる市民が増えたと著者は憂える。
本書では様々な統計を読み解きながら、「善意のコミュニティー」の生成と崩壊の歴史を丹念に追う。伝統的な家族構造の衰退や、企業の巨大化、グローバル化の影響を負の要因として挙げるなど、日本の社会にとっても、見過ごせぬ教訓を提示している。
日経ビジネス 2006/05/29
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