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本と音楽とねこと

ブルースだってただの唄

藤本和子,2020,ブルースだってただの唄──黒人女性の仕事と生活,筑摩書房.(1.4.2023)

 丹念な生活史の聞き取り、それは、語り手の人生が過酷なものであるほどに、聴き手と読み手に深い感銘を与える。
 人種差別は、その平板な言葉においてではなく、語り手である黒人女性の人生が、貧困と排除、暴力被害のただなかを生きてきた一回性の物語として再生されるとき、その過酷さがリアルに伝わる。黒人女性が、人種差別だけでなく、男性による搾取と暴力被害を受け続けてきただけに、なおさらその一回性の経験が読み手に響く。
 いちばん印象に残ったのは、自堕落な夫の愛人を刺殺し懲役に服した女性の物語であった。壮絶な人生の記録の数々にただただ圧倒される。

1980年代、アメリカに暮らす著者は、黒人女性の聞き書きをしていた。出かけて行って話を聞くのは、刑務所の臨床心理医やテレビ局オーナーなどの働く女たち、街に開かれた刑務所の女たち、アトランタで暮らす104歳の女性…。彼女たちは、黒人や女性に対する差別、困難に遭いながら、仕事をし、考え、話し合い、笑い、生き延びてきた。著者はその話に耳を澄まし、彼女たちの思いを書きとめた。白眉の聞き書きに1篇を増補。

目次
第1章 たたかいなんて、始まってもいない
おれたちはまっ裸よ。それなのに、そのことに気づいてもいないんだ
大声でいうんだ、おまえは黒い、そして誇り高いと
離婚したことが、あたしを支えてきたのよね
わたしはもし自分が五倍くらい黒くなれるなら、どんなことだってすると思ったものだった
じつをいえば、白人がそれほどたいした人たちだと思ったことはなかったのね
討論 たたかいは終わっただなんて。まだ始まってもいないのに!
第2章 あんた、ブルースなんていったって、ただの唄じゃないか―刑務所から外を見る
刑務所の仕事―臨床心理医としてのジュリエット
女たちの家―刑務所をたずねる
あたしはあたしの主になりたいんだから!―ブレンダの物語
牢獄は出たけれど、わたしの中の牢獄をまだ追い出すことができない―ウィルマの物語
エピローグ そして、わたしを谷へ行かしめよ―ある黒人女性の百年の生
特別収録 十三のとき、帽子だけ持って家を出たMの話

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