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本と音楽とねこと

子どもの脳を傷つける親たち

友田明美,2017,子どもの脳を傷つける親たち,NHK出版.(12.9.2020)

 現役の小児精神科医が、最新の脳科学の知見を紹介しながら、マルトリートメントによる脳の外傷(「心的外傷」と呼ぶより被害の実像に近い)について、わかりやすく明快に解説する。
 MRI等でスキャンされた脳の画像が生々しい。
 マルトリートメントにより傷つけられた人間の脳の部位は、変形(萎縮あるいは肥大)する。身体的暴力よりも心理的なそれの方が、脳により深刻なダメージを与えるという知見は、衝撃だ。

一生懸命な親ほど子どもを傷つけてしまう行為「マルトリートメント」とは?
暴言や体罰など、明らかな虐待のみならず、日常、どの家庭にも存在する子どもを傷つける行為が、強度と頻度を増したとき、子どもの脳は物理的なダメージを負うのだという。「マルトリートメント(不適切な養育)」と呼ばれる振る舞いの恐ろしさに、静かに警鐘を鳴らした新書が話題だ。
「『脳科学の視点から子どもの健全な発達を見つめ直す』という研究を紹介していますが、高校生でも読める内容になっています。子育てに対する一生懸命さが空回りして、マルトリートメントをしてしまう可能性は、どんな親にでもあります。ですから本書では、ひとりの母親として、読者と同じ目線に立って書いてくださるよう、著者にお願いしました」(担当編集者)
親子関係をテーマにした本の読者は通常女性が中心だそう。しかし本書は男性読者にもリーチしている。
「NHK出版新書のメインターゲットは40代から60代の男性です。『マルトリートメントで傷つく子どもをなくしたい』という著者のメッセージを、女性だけでなく男性にも届けるべく、あえて新書として刊行しました。親御さんだけでなく、児童福祉や医療に関係する職業の方からも予想以上の反響をいただいています」(担当編集者)
マルトリートメントは親だけの問題ではなく、広く社会で考えられるべき。そんな本書の視点が、多くの読者に響くのかもしれない。
評者:前田久
(週刊文春 2018年04月26日号掲載)
脳が変形していく
『子どもの脳を傷つける親たち』を著した友田明美は、子どもの発達に関する臨床研究を30年近くつづけてきた小児精神科医。彼女によれば、日本語で「不適切な養育」と訳される「マルトリートメント」によって、子どもの脳が物理的に変形することが明らかになったらしい。添付された何枚もの脳の写真が、その悲惨な研究成果を証明している。
問題となるマルトリートメントには、暴力的な虐待だけでなく、無視、放置、言葉による脅し、威嚇、罵倒、そして子どもの前で行われる夫婦喧嘩も含まれると友田は指摘する。これらは子どもがいる家庭ならあってもおかしくないが、強度や頻度が増したとき、子どものこころは確実に傷つく。こころとは脳のことである。脳はマルトリートメントによるストレスを回避しようとし、その結果、変形していくのだ。
傷ついた脳はその後、学習意欲の低下や非行、うつや統合失調症などを引きおこす。大人ですら過度なストレスは脳に大きな影響を与えるのだから、発達過程(乳幼児期、思春期)でマルトリートメントに晒された脳がどうなるか、素人でも理解できる。
では、どう予防すればいいのか、傷ついた脳を回復させる方法はあるのか、脳が傷ついたまま親になっている場合はどう救うのか。友田は愛着形成の重要性を説きつつ、具体的な対策を紹介する。ケーススタディも豊富で、多くの人の参考になるだろう。
〈子どもに必要なのは、安心して成長できる場所です。それを与えることができるのは、われわれ大人だけです〉
この本を読んでいる間、私は何度も亡き両親に感謝した。
評者:長薗安浩
(週刊朝日 掲載)

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