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本と音楽とねこと

精読 学問のすゝめ

橋本治,2019,精読 学問のすゝめ,幻冬舎.(9.16.2020)

 あまりに説明が懇切丁寧で、少し感激した。これも一つの橋本節。
 なぜ、「学問」は必要なのか?橋本さん、『学問のすゝめ』を深く深く掘り下げる。

西洋の諺ことわざに「愚民の上に苛(から)き政府あり」とはこのことなり。こは政府の苛きにあらず、愚民のみずから招く災いなり。愚民の上に苛き政府あれば、良民の上には良き政府あるの理なり。ゆえに今わが日本国においてもこの人民ありてこの政治あるなり。

 福沢は、「愚民」を徹底して嫌っていた。だからこそ、おせっかいで上から目線の「学問のすゝめ」を書いたのだ。「愚民」ばかりであれば、当然、「愚民社会」のできあがりだ。

第二 主人の身分をもって論ずれば、一国の人民はすなわち政府なり。そのゆえは一国中の人民悉皆しっかい政をなすべきものにあらざれば、政府なるものを設けてこれに国政を任せ、人民の名代として事務を取り扱わしむべしとの約束を定めたればなり。ゆえに人民は家元なり、また主人なり。政府は名代人なり、また支配人なり。譬えば商社百人のうちより選ばれたる十人の支配人は政府にて、残り九十人の社中は人民なるがごとし。この九十人の社中は自分にて事務を取り扱うことなしといえども、己おのが代人として十人の者へ事を任せたるゆえ、己れの身分を尋ぬればこれを商社の主人と言わざるを得ず。またかの十人の支配人は現在の事を取り扱うといえども、もと社中の頼みを受けその意に従いて事をなすべしと約束したる者なれば、その実は私にあらず、商社の公務を勤むる者なり。いま世間にて政府に関わることを公務と言い公用と言うも、その字のよって来たるところを尋ぬれば、政府の事は役人の私事にあらず、国民の名代となりて一国を支配する公の事務という義なり。

 いまだに、地域ボスの系譜をひく「おらがまちの先生」を、代議士として国会に送り出し、閣僚、総理大臣にでもなれば、「郷土の誇り」として持ち上げ、万歳三唱する。「桜を見る会」にでも呼ばれて首相のだれそれと写真を撮れば、親族、近隣住民に大威張り。あるいは、インスタに投稿し、セレブ気分。そういや、某学校法人の理事は、安倍とケータイで話せることを、わざわざその場で電話かけて自慢してたとか。
 まこと、この国に、民主主義が成立したことはない。いまだ、明治初期、いまだ国会さえ成立していない時代、福沢が『学問のすゝめ』を世に問うた「愚民社会」のままである。

「天は人の上に人を造らず」の有名な書き出し。『学問のすゝめ』なのに、なぜこんな一文から始まるのか?諭吉が挙げた学ぶべき5科目の説明が、あっという間に終わるのはなぜなのか?それより膨大に費やされている話は一体…?明治初期に刊行され、20万部のベストセラー、日本が太平洋戦争で負けた後に再び読まれ、いまも売れ続ける名著の謎をズバリ解く。全十七編のうち、すべての肝は初編にありと見抜いた著者が、その一文一文を噛み砕き、時代背景から文章の飛躍の意味まで懇切丁寧に解きほぐしてしまった型破りな解説本。

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