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本と音楽とねこと

平等主義が福祉をすくう

竹内章郎・中西新太郎・後藤道夫・小池直人・吉崎祥司,2005,平等主義が福祉をすくう──脱<自己責任=格差社会>の理論,青木書店.(9.16.2020)

 骨太の論考5本が収められた専門書。
 生活保護世帯における稼働世帯率は、高度経済成長期、1960年代から急減しており、このころからすでに、日本社会における最低所得保障は、憲法第25条を空文化し、選別的なそれに舵を切っていたことがわかる。(高度成長期、厚みのある新中間層が形成されたが、一方では、炭鉱労働者の失業、旧中間層の没落等があり、貧困問題が解消されたわけではない。)
 同時期より、障がい者、女性の(生殖についての)自己決定権の保障をもとめる社会運動が展開され、実際にそれが実を結ぶようになったが、1992年のバブル経済崩壊、さらに1997年のアジア通貨危機を経て、増大する非正規労働者、(低賃金長時間労働の)名ばかり正社員等、ワーキング・プア、生活困窮者の問題も、自己決定とセットで使われるようになった自己責任、この言葉で済ませられるようになった。
 自己決定=自己責任論は、すべての者に、ケイパビリティを高める機会がじゅうぶんに保障され、自らリスクを引き受けることができる状態にあって、はじめて有効となる。とはいえ、そのリスクをおよそ自らの命や全生活をもって贖わなければならない社会は、もはや社会権が保障されているとはいえない。
 ワーキング・プア、生活困窮者の社会権を擁護しない社会は、売春や代理母ビジネス、臓器売買をも、自己決定=自己責任の枠内におしこめてよしとするそれと同根である。「2008年」のみで、貧困問題を一過性の社会問題の流行として終わらせるような社会には、底知れぬ絶望、不信、怨嗟が渦巻くだけである。

強靭な思考が“不平等”を撃つ福祉国家日本への現代的模索。新自由主義による福祉・社会保障の切り捨て、若者だけでなく広がる階層格差…。日本の現状をリアルに把握し、社会・思想の根本的な転換をめざす。

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