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コンテクストのなかで「言葉」の真意をくみとろうとせず、強い「言葉」だけを浮き上がらせてとらえ、それがみごとにことを言い当てているものだから、脆弱な自尊感情が傷つき、「反論があれば、どうぞ」と「理想的発話状況」がつくりだされているというのに、真正面から異議を唱えることはせず、ピーチクパーチク、バカッターで「炎上」させ、親をもまきこんで「権力」を召喚する。こんな、ジョージ・オーウェルも真っ青の、思想、言論、表現の自由が抑圧されたディストピアのなかで、言葉の奴隷であることをかえりみるだけの心情と知性さえない、20歳前後の若者とその親とが、気色悪い思想警察、言論警察、表現警察として跳梁跋扈するなかにあって、かつて、こんなにも、自由で、権力を嘲笑のなかで無毒化する、生き生きとした言葉の戯れがあったこと、そのことを懐かしく思い出す。
本書が出版されたのは、わたしが大学生のときだ。毒気はあるが、人を感化し、哄笑をもたらす言葉の球粒が、これでもか、というほど、繰り出される。例えば、こんな具合だ。
今みたいな時期がいいんじゃないよ、今みたいな時期逃したらいつ女子高校生は妊娠すんの?一年なら「ヤアネ、あの人」、二年なら「遊んでるウ」、三年の一学期なら「あの子就職すんの?」、夏休み前なら「夫婦きどり」、十月過ぎれば「計算間違いかア」、冬休みなら「淫乱!」、三学期なら「ノイローゼ?」よ。今以外にいつしたらいいのか教えて欲しいわ。夏の太陽は伊達に黄色かったんじゃないのよネ。こんな大ッピラに”ヘマ”が”あやまち”に転嫁されるのは夏休みをおいて他にないじゃないよ。
圧巻なのが、「瓜売小僧(ウリウリぼうや)」。わたしは、大学生のとき、「ボーイズ・ラブ」に夢中な同級生たちを不思議に思っていたのだが、若いときに、この男子高校生どうしのプラトニック・ラブ譚を読んだら、とてもきゅんきゅんしただろう。多くの人が、噴き上がる哄笑とともに、きゅんきゅんきゅんきゅんするにちがいない。畏るべし、とびぬけてゆたかな知性と感性をあわせもった女子高校生、男子高校生になりきる橋本治のこのすごさ。
時代はすっかり変わった。どいつもこいつも「安倍晋三」もどきになりやがって、言葉の奴隷、権力の奴隷になり下がり、それでいながら、「人権」という言葉を、自分の都合がいいときだけ、錦の御旗のように振りかざす。醜悪である。
エットオ、あたし、榊原玲奈でェす。学校は都立で、団地暮し、モチ非処女。マ、平均的女子高校生なワケ。モロ受験生を真面目にやるか、つっぱって売春やるか、ンな凡庸な青春はたえらンない!! ――現代高校生の風俗をイキのいい毒舌体で捉え、猥雑のきわみに不逞な抵抗精神をのぞかせる異才のデビュー作。
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