筆者が再三ことわっているとおり、富山にスウェーデン型の社会民主主義の精神が根付いているわけではない。むしろ、富山は、福井、石川と同様の「保守王国」、「自民王国」であり、あえてスウェーデンとの共通点を見いだせるとすれば、強固な浄土真宗の信仰基盤により、世俗的な利益追求の志向と平等主義、家族中心主義、そして共同体的相互扶助の精神とが息づいてきた点にある。(あまり知られていないかもしれないが北欧のファミリアリズムは非常に強固である。)
単純化して言えば、コミュニタリアニズムを、家族を超えて、労働組合と社会民主労働党を媒介として、コミューン、そして国民国家のレベルにまで拡張したのがスウェーデンであり、そこから、労組や社会民主主義思想が抜け落ちていて、共同体主義、家族中心主義、平等主義にもとづくソーシャルキャピタルだけが濃密に構築、維持されてきたのが富山である。
「富山型福祉」にも、共同体主義、家族中心主義、平等主義が根底に息づいている。イデオロギーに依らないコミュニタリアニズムの発展形態として「富山モデル」を位置づけることもできるだろう。などなど、いろいろと想像力がはたらく、興趣が尽きない一冊だ。
目次
序章 保守と革新、右と左を超えていくために
第1章 富山の「ゆたかさ」はどこから来るのか
第2章 どのように富山県の「ゆたかさ」は形づくられたのか?
第3章 家族のように支え合い、地域で学び、生きていく
第4章 危機を乗り越えるために「富山らしさ」を考える
終章 富山から透視する「歴史を動かす地域の力」
富山県は県民総生産が全国三一位の小さな自治体だが、一人当たりの所得では六位、勤労者世帯の実収入では四位に浮上する。背景にあるのは、ワークシェアリング的な雇用環境と女性が働きやすい仕組みだ。さらに、公教育への高い信頼、独居老人の少なさなど、まるでリベラルの理想が実現しているかのようだ。しかし、北陸は個人よりも共同体の秩序を重視する保守的な土地柄とされる。富山も例外ではない。つまり、保守王国の中から「日本的な北欧型社会」に向けた大きなうねりが起きているのだ。一〇年間にわたって富山でのフィールドワークを続けてきた財政学者が問う、左右の思想を架橋する一冊。
最新の画像もっと見る
最近の「本」カテゴリーもっと見る
最近の記事
カテゴリー
バックナンバー
人気記事