文句なしの名著。
ヒトラーおよびナチスドイツの「アーリア人」健常者至上主義は、一方でユダヤ人やロマ族、スラブ人、他方で障がい者や難病罹患、長期入院患者等のジェノサイド、大量殺戮を帰結した。「生きるに値しない存在」のドイツ挙げての「安楽死」施策をT4作戦と呼ぶ。
ナチスドイツ成立以前から、ドイツに限らず、とくに障がい児の生命を絶つ行為は広く黙認されていたし、ヒトラーが障がい者抹殺指令を取り下げたあとも、障がい児・者の殺害は、医師たちによってひそかに続けられた。その際の、殺害の主な方法は、薬殺、射殺、遺棄(による餓死)であった。
なぜ、障がい者たちは、ナチスドイツにおいて、「灰色のバス」でガス室に運ばれ大量殺害されたのか。それは、ユダヤ人殺戮と同様、そちらの方が「効率が良い」からである。また、医師や看護師は自ら手を下すよりも良心の痛みを感じなくてもすむ。
筆者自身が車いすを利用する「障がい者」であり、T4計画の全貌を明るみにするだけでなく、広く世界を席巻した優性思想の罪を、加害者、遺族、そしてT4作戦に果敢に異議を唱えた聖職者が残した声をとおし、深く問いなおす。
社会福祉学、障がい学、生命倫理学等の領域においては、必読の文献といえるだろう。
2016年7月26日に相模原市の障害者施設で起きた殺傷事件の容疑者が「ヒトラーが下りてきた」と言ったことから、事件とナチスの障害者虐殺の歴史の関連が注目を浴びた。T4計画が優生政策の極端な形として現れた社会背景と今回の事件の背景(役に立たないものは生きている価値はないという経済効率主義)は似通っている。国家の強制によるのではなく一人ひとりが自己決定で障害胎児を中絶したり、尊厳死を選ぼとうする新優生学の時代に、改めてこの負の歴史を知ってほしい。
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