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本と音楽とねこと

愛という名の支配

田嶋陽子,2019,愛という名の支配,新潮社.(10.7.24)

どうして私はこんなに生きづらいんだろう。母から、男から、世間から受けてきた抑圧。苦しみから解放されたくて、闘いつづけているうちに、人生の半分が終わっていた。自分がラクになるために、腹の底からしぼりだしたもの―それが“私のフェミニズム”。自らの体験を語り、この社会を覆い尽くしている“構造としての女性差別”を解き明かす。すべての女性に勇気と希望を与える先駆的名著。

 1992年初出の再々本。

 約30年ものあいだ、読み継がれてきたのは、TV芸人としての知名度ゆえもあろうが、けっしてそれだけではないことは、叙述内容からわかる。

 男が、細身で髪の長い女を好むのは、略奪し奴隷化しやすいからなのか。
 この説は初耳だ。

 その後、何千年も何万年もたって文化が発展するにつれて、じつに複雑な婚姻の儀式や形態ができあがるとしても、まあ、少なくとも女と男の最初の出会いは、こんなふうな掠奪からはじまったと、私は、想定してみます。そう考えると、現在、女性の置かれている状況がいろいろと説明しやすくなるからです。
 さて、これは余談ですが、男が女を掠奪しに行くとき、どういう女がさらいやすいかと言うと、やっぱり自分たちより小柄で、体重の少ない、華奢な女のほうが軽くてさらいやすい。そのうえ、ウエスト八十センチの女より五十八のほうが抱えやすいし、さらいやすい。また、髪の毛は、短いよりできるだけ長いほうがいい。なぜなら、長いほうが逃げられても捕まえやすいし、相手がおとなしくなるまで髪の毛をもって引きずりまわしていたぶることもできるし、捕まえたあと、髪の毛をつかんで引きずって帰ることもできるからです。いまでも男の人が、小柄でほっそりした、髪の毛の長い女の人を見ると、胸のあたりがキュンとしたりするのも、この遠いむかしのえも言われぬ掠奪の快感が遺伝子のなかに記憶として組みこまれているせいかもしれませんね。
(pp.56-57)

 ハイヒール、パンプス、スカート、ワンピース、着物・・・女性の靴や衣服は、略奪と性搾取、奴隷化のためにあつらえられてきた。

 ところが、女たちは子産みの道具としてガレー船の船底に閉じこめられたわけですから、自分たちの意志とは無関係にむりやり妊娠させられ、身重になれば、いくら頑強なからだと武術があっても、妊娠まえのようには戦えなくなります。戦ったにしても、負けて殺されるか、反逆者として以前よりもっとひどい扱いを受けることになります。
 こうして、毎年、むりやり妊娠させられ、つぎつぎと子どもを産ませられているうちに、女たちの体力は衰え、歯も骨もボロボロになって、逃げることさえむずかしくなります。
 それでも、自由を求めてあきらめない女たちがいました。母親があきらめても、その娘たちは自由な世界にあこがれました。かつて女の国で誇りたかくおおらかに生きてきた母たちの伝統を受け継ぐ娘たちは、屈辱的なドレイ状況にあまんじている母の姿を見るに見かねて、くり返し何度も逃亡を企てます。
 そこで、男たちは、なんとかして女たちを逃がさないように、いろいろと工夫をこらします。まず、歩けないように女の足に細工することを考えます。アンデルセンの『赤い靴』のように女の足を切断してしまえばいちばんいいのですが、それではかえって足手まといになります。そこで、逃げられない程度に小さくしたのが、中国の纏足です。
 さらに服装で女のからだを拘束します。キモノやスカートがそれにあたります。同時に、モラルでも女のからだや心を拘束します。〝処女崇拝〟や〝貞操〟の観念も、そこから生まれています。つぎに、結婚制度で女を拘束します。そのうえ、結婚制度に喜んで囲いこまれたがるメンタリティをもった女たちをつくります。それが「女らしさ」という社会規範です。こうして、女は男のドレイにされるべく、肉体的・精神的・社会的にありとあらゆる束縛をうけてがんじがらめにされていくのです。
(pp.60-61)

 結婚制度とは、生活無能者の男に、稼得無能者の女を分配する奴隷制度である。

 結婚制度は、ひとつには、男たちが女同士を分断するために考えだしたものです。女ばかりをいっしょにしておいたらなにが起こるかわかりません。団結して逃亡を企てるかもしれません。そこで、女のからだを拘束しただけではまだ安心できない男たちは、植民地支配の鉄則のひとつ、「分割して統治せよ」で、主人一人にドレイ一人、男一人に女一人を割りあてたのです。これが美名に隠れた結婚制度の基本にある考え方です。女は、結婚して相手を〝主人〟と呼ぶかぎり、自分は男の子分であり、ドレイであるということです。このドレイ船を漕ぐ女たちを、私は〝主婦ドレイ〟と呼んでいます。
 私のように結婚を拒否した女は〝逃亡ドレイ〟です。甲板の上でハイレグをはいたり、巨乳を強調したり、はだかに近い格好をしたりして、お色気で男を支配しているかのような女の子たちは〝快楽ドレイ〟です。男社会から見たら、どの女もドレイであることにかわりはないのです。若い女の子は、若さだけでちやほやされているので、結婚するまで自分たちがドレイであることには気づきません。気づいたところで、結婚しなければ女は食べていけないような社会をこれまで男たちがつくり上げてきたので、女はどうしようもなかったのです。
 はっきり言って、いまの制度としての結婚は、法律をはじめ、さまざまな面で男よりも女に不利にできています。結婚制度とは、男が女ドレイを、あるいは子分を、終生、一人ずつもてるシステムですから、私は差別の制度化だと言っています。女は結婚すると、自分の名字を捨てて他人名義になります。自分の産んだ子どもにも自分の名字ではなく、夫の名字がつきます。朝昼晩、掃除して手入れをしている家も夫名義の家です。日本ではまだ夫婦別姓は認められていません。
 結婚すると女は、家なし、名なし、子なしになります。女にとってこんなに不利な制度はありません。女はドレイ扱いされているのとおなじです。ドレイとは、「モノとして主人に役立てられる道具」であり、生殺与奪の権はいっさい主人が握っていて生かすも殺すも主人の自由ということです。
 もし、ほんとうに男女が対等で、法律のうえでも平等だと言うなら、この結婚制度は民主的ではないし、憲法違反でさえあると思います。ただし結婚制度にはいった女は、男社会を助けますから、それなりに法律では守られていますが、でもそれは、人間としての自由の代償において、あくまでも男性に有利な制度の範囲内で守られているだけです。
(pp.61-63)

 私生活、家庭生活におけるあしもとの搾取、差別、不平等を見ずして、外社会に正義を訴えても、それは、自己欺瞞でしかない。

 この「良妻賢母」ということばをよく見ると、そこには妻と母はあっても、自分がいない。「妻」と「母」とは社会的な役割です。女は妻と母の役割を完璧に果たすことは期待されていますが、自分をもってはいけないということです。ドレイ船の船底に閉じこめられて、自由のないところで自分をしっかりもっていたら苦しくてやっていけません。だから自分を殺すことになります。自分を殺し、自分の人生を犠牲にして、家のため、夫のため、子どものために尽くします。尽くすために必要なだけの自分は残していても、それは過剰適応そのものです。
 ところが、過剰適応してしまった「良妻賢母」たちは、「自分」をなくしたのですから本音でものを考える習性をなくしていきます。ひたすら社会規範に従います。社会規範は、そのときどきでアドバルーンを上げます。あるときには銃後の母を、あるときには戦争反対を、またあるときにはエコロジーを。そして、先ほど見たように、自分は夫と上下関係をなす非民主的な家庭をいとなんでいるのに、外で、PTAで、民主主義の大切さを説きます。また、みずからドレイになって女の価値をおとしめているのに、外では女性蔑視はいけないと、女性解放運動をはじめたり、エコロジー運動をはじめたりします。でも、家庭のなかでの、自分と夫との上下関係には気づくことさえありません。
 これではだめなのです。女はますますバカにされます。見ている人は、いちいち理屈では言えなくても、直観的に、その矛盾に気づいているからです。だから、〝PTAのオバサン〟と言って、その偽善性・欺瞞性が揶揄されるのだと思います。
 もし女性蔑視をなくしたかったら、家事は家族みんなでやることです。それが時間的に不可能な人は、人を頼んで、きちんとお金を支払うべきです。自分の子どもでも、労働が過剰になったら、アルバイトとしてきちんと支払うべきでしょう。女はもう「女らしさ」や「かわいさ」など演じてはいけないのです。演じれば演じるほど、あなたの、そしてひいては、女全体の価値をおとすということです。
(pp.213-214)

 田嶋さんはフェミニズムの専門用語は使わない。

 反搾取、反差別、反抑圧のスタンスから、ただただ、絞り出すように、言葉を紡ぐ。

 フェミニズムが苦手な人にこそおすすめしたい一冊である。

目次
第1章 気づいたときからフェミニストだった
第2章 女はドレイになるようにつくられる
第3章 小さく小さく女になあれ
第4章 ペニスなしでどこまで人を愛せるか
第5章 抑圧のファミリー・チェーンをどう断ち切るか
第6章 ただのフェミニズムを求めて


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