豊田正義,2001,DV(ドメスティック・バイオレンス)──殴らずにはいられない男たち,光文社.(8.7.24)
本書には、四組のDV当事者夫婦が登場する。
すべて、夫が加害者、妻が被害者である。
DV被害者の経験については、数多くの記録があるが、加害者の自らの暴力への意味付けについては知るよしがなかったところ、本書では、加害者の夫、被害者の妻双方から、自らの経験について聴き取っており、そこでの齟齬から、DV加害者の異様な認知の歪みがあぶり出されている。
自らの暴力を正当化する男の語りは、吐き気をもよおすほど、不快だ。
胸くそ悪いことこのうえない。
DV男に共通するのは、以下のような性格特性だ。
女性との関係において、つねに自分が優位でないと気が済まない。
収入、学歴、知性等、なにか劣るところがあれば、キレる。
「男はつねに女より優位でなければならない」という家父長制的観念に取り憑かれている。
また、こういう男は、つねに権力ゲームの序列で上位を目指そうとする傾向があるが、とくに、職場で、覇権競争に敗れ、その鬱憤を女性との関係で晴らそうとする。
どう考えても、暴力は論外の行為であるのに、自らの加害者性については自覚していないことが多い。
それどころか、「自分は暴力をふるわざるを得ないよう追い込まれた」と、被害者面することも多い。
女を殴ったあと、DV男がよく言う台詞。
「おまえは(おまえを殴った)このこぶしがどれだけ痛いかわかってるか?
俺のこころは傷つきズキズキ痛んでいるんだぞ。」
「仕事をしているときに、上からもうひとりの自分が見ているんですよ。白衣を着て患者さんの介護をしている自分に、そいつはこう言うんですよ、『おまえはそうやって患者さんには感謝されているけど、白衣を脱いだら何者なんだ。家の中では奥さんを殴りつけている最低な男じゃないか。おまえなんか、偽善者だ』ってね。白衣を脱いで家に帰るときも、急に虚しくなるんですよ。『ああ、今日もまた殴ってしまうかもしれない』って考え込んでしまって。どうしようもないですよ。ほんとに始末に負えないですよ。豊田さん、この苦しみわかってもらえますか?」
彼は顔をあげて私を見詰めた。目が充血していた。私は取材ノートのペンを止めて溜息をついた。
「あまり無責任なことは言いたくないから、『わかる』とは言い切れないですけど、苦しみはすごく伝わってきますよ。本当に苦しんでいるんだなって心底思いますよ」
「でもね、いくら苦しんでいても、どうしてもやめられないんですよ。衝動が高まってきたら、まるでダムが崩壊したように衝動が一気に流れ出すんです。その流れの行き先というのは、いつも決まって家内なんです。いちばん身近な弱者に向かっていくんです。ほんとに卑怯なことと自分でもよくわかっているんですけど、やめられない。最低ですよ、自分は」
「奥さんは、どう言ってるんですか?」
「家内はね、ありがたいことに、『あなたがいつか良くなってくれることを私は信じている』って言ってくれるんですよ。あんなにボコボコに殴られているのに、よくそんなことを言ってくれるなと思います。いつもそのあと、『ありがとう、ありがとう』って涙が出てきてしまうんです。いったん謝罪の心理になると、フキンやスリッパひとつ見ても、愛しくなりますよ。家内がピンと伸ばして干したフキンとか、きれいに並べてあるスリッパとか、とにかく家内の温もりを感じさせてくれる物ならすべて愛おしくなるんです。『こんな細かい心遣いをしてくれるのに、僕はなんて子供っぽい衝動で彼女を殴ってしまったんだろう』って反省するんですけど、でも、いつもいつも繰り返す。ぜんぜん学習しない。だから両極端なんですよ。ほんとにどうしようもない男だなといつも思いますよ」
(pp.5-7)
ここにも、被害者面するDV男の本性が表れている。
「暴力をふるってしまうことを後悔、反省するかわいそうな自分」を演出して、同情を惹こうとする、この浅ましさと図々しさよ。
自らの加害者性を反省できる人間が暴力などふるうわけないだろが。
「年齢がひと回り以上離れていることや女性ということを考えると、どうしても『黙ってついてこい!』という気持ちになるんですね。それはもちろん、これからいっしょに生活していく中で、いろんなことが起きる中で、まず男として大事な女を守るということです。それをするには、どんなことでもやる覚悟でした。『どんなことがあっても心配するな』『一生かけてもおまえを守っていく』『かならず俺が幸せにしてやる』という気持ちでした」
「そういう男らしいのが彼女には抑圧だったんじゃないかと思うのです」と私は言った。
「まあ、こんな男の能書きなんて彼女は信じないですからね。具体的に今やっていることを取り上げて、それが先にこうなるとは思えないと彼女は理詰めで指摘するんですよ。それをひとつひとつ言われたら、やっぱりね、『やかましい!黙ってついてこい!』と言いたくなりますんでね」
(pp.53-54)
寄る辺ない「男らしさ」への固執。
滑稽をとおりこして、恐怖さえ感じる、「俺についてこい」、「おまえを守る」、「おまえを幸せにする」という台詞。
自らの資質、能力を顧みず、女より優位に立とうとして、それが果たせず、キレて暴力をふるう。
DV加害者には、暴行罪や傷害罪等の刑事罰を課し、DV加害者更生プログラムの履修を義務づけるべきだ。