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本と音楽とねこと

21 Lessons

ユヴァル・ノア・ハラリ(柴田裕之訳),2019,21 Lessons──21世紀の人類のための21の思考,河出書房新社.(5.25.2020)

 ユヴァル・ノア・ハラリとジャレド・ダイアモンドのどちらが歴史学者として優れているか、もちろん、その答えはない。学術の作法が異なる、この二人の優劣を問うこと自体が馬鹿らしい。ただ、言えるのは、ハラリの思考はおそろしく深い。読む者の思考をつねに先取りし、鋭く深く思索する。そして、安直な結論はくださない。これは、ハラリの、ジャレド・ダイアモンドにはない最大の魅力だ。
 ハイファ生まれのイスラエルの歴史学者、ハラリ。本書で、「ハイファ」についての言及はないが、ユダヤ人の自民族中心主義、ユダヤ教原理主義を容赦なく批判し、返す刀で、キリスト教、イスラム教、ヒンズー教、仏教等、とくにそられの排他的な異教徒排除思想を完膚なきまでに叩きのめす。また、ハラリは、自らがゲイであることをさらりと明示し、宗教的非寛容ともども、セクシュアリティの多様性についての非寛容も、手厳しく批判する。人工知能やバイオテクノロジーについても、人類が安易にそれらを取り入れ、実現するはずもないユートピアを夢想することを戒める、というより、おおいに起こりうるディストピアを明晰に提示する。
 さらに、すばらしいのは、そうした懐疑の眼を、つねに自らにも向けていることだ。知的誠実さとはこのことをいうのだろう。ハラリは、「真実(の追求)」、「他者への思いやり」、「平等」、「自由」、「責任」、これらの公共善を重んじる「世俗主義」を積極的に肯定し、排他的宗教、社会主義および資本主義の教条的イデオロギーを執拗に批判する。その批判の刃の鋭さにおいて、ハラリの右に出る者はいないだろう。
 21のテーマが、ていねいに接続されて、理路整然とした議論が淡々と展開される。そのなかで、ハッとするような、幾多の鋭い問題提起と批判がさりげなく提示される。そして、上述したような、読む者の思考を先読みしたかのように切り開かれる、新たな思索の地平。いやはや、すごいもんだ。歴史学が、なによりラディカルな批判理論となりうることを、ハラリは、本書でみごとに示してくれた。超おすすめの一冊だ。

目次
1 幻滅――先送りにされた「歴史の終わり」
2 雇用――あなたが大人になったときには、仕事がないかもしれない
3 自由――ビッグデータがあなたを見守っている
4 平等――データを制する者が未来を制する
5 コミュニティ――人間には身体がある
6 文明――世界にはたった一つの文明しかない
7 ナショナリズム――グローバルな問題はグローバルな答えを必要とする
8 宗教――今や神は国家に仕える
9 移民――文化にも良し悪しがあるかもしれない
10 テロ――パニックを起こすな
11 戦争――人間の愚かさをけっして過小評価してはならない
12 謙虚さ――あなたは世界の中心ではない
13 神――神の名をみだりに唱えてはならない
14 世俗主義――自らの陰の面を認めよ
15 無知――あなたは自分で思っているほど多くを知らない
16 正義――私たちの正義感は時代後れかもしれない
17 ポスト・トゥルース――いつまでも消えないフェイクニュースもある
18 SF――未来は映画で目にするものとは違う
19 教育――変化だけが唯一不変
20 意味――人生は物語ではない
21 瞑想――ひたすら観察せよ

『サピエンス全史』で人類の「過去」を、『ホモ・デウス』で人類の「未来」を描き、世界中の読者に衝撃をあたえたユヴァル・ノア・ハラリ。本書『21 Lessons』では、ついに人類の「現在」に焦点をあてる―。テクノロジーや政治をめぐる難題から、この世界における真実、そして人生の意味まで、われわれが直面している21の重要テーマを取り上げ、正解の見えない今の時代に、どのように思考し行動すべきかを問う。いまや全世界からその発言が注目されている、新たなる知の巨人は、ひとりのサピエンスとして何を考え、何を訴えるのか。すべての現代人必読の21章。

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