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本と音楽とねこと

未来への大分岐

マルクス・ガブリエル、マイケル・ハート、ポール・メイソン、斎藤幸平,2019,未来への大分岐──資本主義の終わりか、人間の終焉か?,集英社.(5.26.2020)

 対談本にしては、異様に中身が濃い。世界屈指の思想家たち相手に、臆せず、議論の主導権を安易に相手に渡さなかった斎藤幸平さんの手腕がひかる。
 マイケル・ハートの社会運動論については、すでに彼自身の著作群から学んでいたところが多かったので、新奇性は感じなかったが、横つながりの平等な関係性を尊重する、最近では反貧困運動などの、草の根社会運動が、ほぼ例外なく沈滞していったことをふまえ、手段としての階層性、リーダーシップを併せ飲む運動がめざされないといけないな、と思った。
 マルクス・ガブリエルの社会構築主義批判は、日本でのそれがすでにあるので、目新らしくも感じなかった。すべての問題を人々の主観によって社会的に構築されたものとして、価値相対主義の枠組みのなかで忘却していく愚は避けないといけないとは思うが、「新実在主義」という看板を掲げられてもなあ、といういまさら感が拭えない。ユルゲン・ハーバマスの「熟議民主主義」論批判には、なるほどと思った。「熟慮」することに疲れた人々が脱政治化し、トランプやアベが国家のリーダーを務めるなんざ、喜劇なんだか、悲劇なんだか。
 ポール・メイソンの「いかに資本主義をのりこえるか」という議論が、本書でいちばん読みごたえがあった。アマゾン、フェイスブック、グーグル等の、「プラットフォーム資本主義」への批判におおいにうなづく。スローガン的にいえば、「アルゴリズムをわれらのものに!」というところかな。また、インターネットによって構成される情報環境を、「互いに相容れない、バラバラの島宇宙のようなグループに分断し、タコツボ化させる」(p.287)ことで成立する権力支配の構図についても、適切に問題視されている。さらに、AIをはじめとするテクノロジーの急激な進歩に、現体制の刷新を期待する「加速主義」の愚かさの指摘についても同感同感。
 とかなんとか紹介してたら、難しい内容のように思われるかもしれないが、対談をもとにした本なのでとても読みやすい。これもおすすめしたい一冊だ。

目次
第1部 マイケル・ハート
資本主義の危機と処方箋
政治主義の罠
“コモン”から始まる、新たな民主主義
情報テクノロジーは敵か、味方か
貨幣の力とベーシック・インカム
第2部 マルクス・ガブリエル
「ポスト真実」の時代を生んだ真犯人
「人間の終焉」と相対主義
新実在論で民主主義を取り戻す
未来への大分岐―環境危機とサイバー独裁
危機の時代の哲学
第3部 ポール・メイソン
情報テクノロジーの時代に資本主義が死んでゆく
資本の抵抗―GAFAの独占はなぜ起きた?
ポストキャピタリズムと労働
シンギュラリティが脅かす人間の条件
資本主義では環境危機を乗り越えられない
生き延びるためのポストキャピタリズム

利潤率低下=資本主義の終わりという危機は、資本の抵抗によって、人々の貧困化と民主主義の機能不全を引き起こしたが、そこに制御の困難なAI(人工知能)の発達と深刻な気候変動が重なった。我々が何を選択するかで、人類の未来が決定的な違いを迎える「大分岐」の時代。世界最高峰の知性たちが、日本の若き俊才とともに新たな展望を描き出す!

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