桐野夏生,2017,顔に降りかかる雨(新装版),講談社.(12.27.24)
親友の耀子が、曰く付きの大金を持って失踪した。被害者は耀子の恋人で、暴力団ともつながる男・成瀬。夫の自殺後、新宿の片隅で無為に暮らしていた村野ミロは、耀子との共謀を疑われ、成瀬と行方を追う羽目になる。女の脆さとしなやかさを描かせたら比肩なき著者の、記念すべきデビュー作。江戸川乱歩賞受賞!
探偵、村野ミロが活躍するシリーズもの、第一弾小説。
桐野さんは、女性を主人公とするミステリー小説としての展開のなかでも、男の粗暴さ、暴力性をさり気なく描き出すことを忘れない。
女、男に限らず、人間の底知れぬ悪意についても。
東京-冷戦終結後のベルリン、ネオナチ、SM、ネクロフィリア等々、ストーリーのなかに散りばめられたモチーフもアクセントして効いている。
桐野夏生,2017,奴隷小説,文藝春秋.(12.27.24)
長老との結婚を拒んで舌を抜かれた女。武装集団によって拉致された女子高生たち。夢の奴隷となったアイドル志望の少女。死と紙一重の収容所の少年…人間社会に現出する抑圧と奴隷状態。それは「かつて」の「遠い場所」ではなく「今」「ここ」にある。何かに囚われた状況を炸裂する想像力と感応力で描いた異色短編集。
出口のない被抑圧、奴隷状態に置かれた人々の過酷な運命と絶望とを描き出す短編小説集。
寓話としての性格が強い作品集であるが、どれも、世界に現として在る悲惨と地続きの内容であり、読後、重い絶望感に打ちのめされる。