両作品とも、病んだ母をもつ娘の物語である。
2000年代以降、母と娘の葛藤を描いた文学作品が散見されるようになったが、1990年代以降の、アダルトチルドレン、機能不全家族、毒親等への関心の広がりを思うと、当然の成り行きだろう。
母と娘の共依存問題は根深い。
『かか』では、病んだ母の呪縛に苦しむ主人公の「うーちゃん」が「おまい」に奇妙な方言の混じった幼児語で語りかける。
『くるまの娘』では、病んで暴れる母を軸に、主人公の「かんこ」、DV男だった父、壊れかけた家族から逃げた兄と弟が、それぞれの葛藤をぶつけ合う。
たとえ母が病んでいなくとも、多くの娘にとって、母はどこまでも自らに依存、干渉してくる厄介な存在なのだろう。
しかし、女性にケア役割が期待されている分、娘がそんな母を捨てることは難しい。
両作品とも、優れて今日的なテーマで描かれた良作だ。
宇佐見りん,2019,かか,河出書房新社.(10.16.24)
19歳の浪人生うーちゃんは、大好きな母親=かかのことで切実に悩んでいる。かかは離婚を機に徐々に心を病み、酒を飲んでは暴れることを繰り返すようになった。鍵をかけたちいさなSNSの空間だけが、うーちゃんの心をなぐさめる。脆い母、身勝手な父、女性に生まれたこと、血縁で繋がる家族という単位…自分を縛るすべてが恨めしく、縛られる自分が何より歯がゆいうーちゃん。彼女はある無謀な祈りを抱え、熊野へと旅立つ―。未開の感性が生み出す、勢いと魅力溢れる語り。痛切な愛と自立を描き切った、20歳のデビュー小説。第56回文藝賞受賞作。
宇佐見りん,2022,くるまの娘,河出書房新社.(10.16.24)
車で祖母の葬儀に向かう、17歳のかんこたち一家。思い出の景色や、車中泊の密なる空気が、家族のままならなさの根源にあるものを引きずりだしていく。