地味だけど、良い本だと思う。
金融危機後の「オキュパイ・ウォールストリート」運動は、ジョセフ・E・スティグリッツが、グローバル経済の進展は世界を1%の富裕層と99%の貧困層に分断すると指摘した事実と共振するものであったが、富裕層やグローバル企業の「租税回避」がそうした分断を加速しているという批判も、EU諸国を中心に活発に展開されてきた。GAFAやマイクロソフト、スターバックス等への租税回避批判も強まり、実際に追徴課税が実現した事例も増えている。
たとえば、グローバル企業Aが、ケイマン諸島にペーパーカンパニーBを登記し、日本で得た事業収入を譲渡する。Bは、資産を投資ファンドCに移転し、Aは、Cより「融資」を受ける。こんなばかばかしい租税回避が、「優秀」な、税理士、弁護士、銀行員等により仕組まれてきたのも、ひとえに、グローバル経済に適合する会計基準の確立が、「守秘法域」擁護を唱えるネオ・リベラリズム勢力により阻まれてきたからである。
グローバル企業Aの収益は、土地、オフィス、労働力により成り立ち、道路、鉄道、上下水道、配電といったインフラ、公共財なしではこれまた成立しない。また、労働力は、公教育あっての社会資源であるし、モノではないわけだから、ときには、医療や社会保障も必要とする。したがって、租税回避のフリーライダーが許されるはずもない。
リチャード・マーフィー等による「タックス・ジャスティス・ネットワーク」が、グローバル会計基準の策定に向けて果たしてきた功績は大きい。わたしたちも、一消費者として、グローバル企業が最低限の納税義務を果たしているか、厳しく監視していくべきだろう。
目次
第1章 タックス・ヘイブンの物語
第2章 秘密主義の問題
第3章 タックス・ヘイブンとは何か
第4章 タックス・ヘイブンの世界
第5章 タックス・ヘイブンのコスト
第6章 タックス・ヘイブンに立ち向かう
第7章 タックス・ヘイブン後の世界
タックス・ヘイブンでの秘密取引による公正な競争の阻害が非効率を生み、経済発展を損なわせる。脱税より恐ろしい秘密主義の弊害が本書で今や明らかに。パナマ文書の暴露を受け、課税当局の動きもある中、独自調査による秘密度指数ランキング、金融資本主義の実態を見据えた提言は必見。
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