根拠なく、ダウンサイジングする社会の未来が必ずしも暗いものではないことを主張するのではなく、経済・人口指標をきちんとおさえながら、手堅い将来予測を行っている点を評価したい。しかし、ゆたかな「人口減少社会」の展望は、経済・社会政策を誤れば、階層間・地域間格差が止めどなく拡大し、絶対的貧困に苦しむ者が急増する悪夢へと転化する。著者の政策提案が堅実なものであるだけに、政策を誤った場合に予測される、一部はすでに深刻化している問題がよけいに心配になった。
「人口減少社会」のあり方を研究する著者は、今後仮に出生率がかなり向上したとしても、人口の減少、特に労働力人口の大幅な減少は避けられないと指摘する。しかしこの傾向は、「経済規模のわりには貧しい国民生活」という日本が抱えてきた根本問題を解決する好機であると言う。
人口減少社会の下では、生活者は自分自身で生涯を設計し、それに基づいて消費と貯蓄、労働と余暇の計画的配分を心がけるという新たなライフスタイルへ移行すると指摘。そのために我々は何をなすべきかを論じていく。
まずは冷静に現状を分析する。これから半世紀で日本人の人口は4000万人減少するという予測や、労働人口の構成比の推移などを示し、経済成長率が最低となる時代を具体的に描く。しかし、これらを見越したうえで「人口減少経済」のメカニズムを理解すれば、企業や地域社会が生き残る方策は必ずあるというのが著者の主張である。キーワードは「スリム化」と「多様化」だ。生産の機械化などによる省力化は根本解決にはならないとし、必要なのは売上高の拡大ではなく、多様な付加価値を、多様な個人に提供できる「付加価値率の向上」であるとする。政府や地方自治体に対しても、早急なスリム化の必要性を訴えている。
(日経ビジネス 2004/07/12)
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