筆者は、この世の「悲惨」を描かせたら右に出る者はいない、悲劇語りの名手。「鬼畜」の親により子どもが殺害された事件三件を扱った本書にも、その力量はいかんなく発揮されている。
もちろん、「子殺し」がなくなった方が良いのは当然だ。しかし、「人間」として「壊れている」者も、妊娠・出産し、あるいはそうさせる。ここ30年近くの間に、児童相談所に寄せられる虐待相談(通報も含む)件数はたしかに急増してきたが、それは、児童虐待防止法の成立と、改正にともなう法令の実効性の強化、虐待事件の報道等により、「子ども虐待」が「社会問題」として広く認識されてきたことを意味するだけで、実際に子ども虐待が深刻化していることを示す根拠はない。また、アメリカやロシア等の家族と人間自体の崩壊がより進んでいる国々と比べると、日本はまだましである。伝統的に、口減らしのための子殺し、子捨てを容認してきた文化的背景を考えると、ずいぶんと子どもの人権が尊重されるようになったものだとさえ思う。
とはいえ、本書で描かれているような、凄惨な子殺しにはやはり平静ではいられない。児童相談所の職員数をさらに増やす等、行政は子殺しを防止する責任を十全に果たすべきだとは思うが、それでもこのような事件は起こるだろう。
起こったことを的確に把握し記録に残すこと、このジャーナリズムの原点を思い起こさせてくれる本書の価値は大きい。
目次
1 厚木市幼児餓死白骨化事件
地獄絵図と化したアパート
親子三人
夫婦喧嘩ほか
2 下田市嬰児連続殺害事件
伊豆半島の南
母子一族
結婚ほか
3 足立区ウサギ用ケージ監禁虐待死事件
荒川裁判―二〇一四年
家族の肖像ほか
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