粗茶淡飯

中国・台湾・日本のお茶に関する色々。執筆者・徳田志保。

緑茶の産地で作られる紅茶…宜興紅茶⑧

2016-08-30 15:00:33 | 紅茶(中国茶・台湾茶)

やっと最終の乾燥のお話しになります。


↑台湾の乾燥機

工夫紅茶の乾燥は熱風乾燥を採用する。
一般的には2度乾燥(✳︎)させ、間に1度広げて冷ますようにする。
1度目の乾燥は高温(110〜120°C)で速やかにやること。目的は迅速に酸化酵素を破壊し、酸化発酵の動きを止めることにある。その際は茶葉を薄めに敷き、7〜8割程度乾燥したら乾燥機から取り出し、茶葉を冷ます。これは葉内の水分の分布を1度落ち着かせ、2度目の乾燥効率を高めるためである。
2度目は低温(90〜100°C)でじっくり行う。この時点で葉内の水分は既に大分少なくなっているので、温度を低めにし、香気を高めることができる。この時茶葉は1度目の乾燥時より少し厚めに敷くこと。茶葉の色が黒く潤ったような色合いになり、香りが上がってきたら完成。この時、茶葉の水分は6%前後になり、保管が可能となる。

その後茎取り等、状況に応じて分別の作業に入る。

1度目の乾燥後の冷ます作業ですが、その時に工場に専用の場所を作り、床に広げることがあります。その時の床の材質にも注意してください。

(✳︎)の、2度乾燥させる…ですが、その工程は「烘干&烘焙」「毛火&足火」など地域によって呼び方が違います。これは各地の方言を標準語読みし、現場で使用しているからなのですが、資料によって使用されている単語がまちまちなので、1度目、2度目…という記載にしました。

この基本理論は条索状の烏龍茶と同じです。
2度の乾燥を適切に出来るかどうかで、お茶の香気がガラッと変わります。改めて、こうして読み直してみると、中国の緑茶(炒青緑茶、釜炒り茶)も同じ道理であることがわかります。が…日本の釜炒り緑茶は、各工場で機械の設置の仕方が違い、原理原則から外れたお茶づくりをしてしまっている工場も少なくありません。生産者の口から出る「釜炒り茶は香りが良い」という言葉、私はやはり怪しいなと思います。実際、上質な中国緑茶と比べれば、日本の釜炒り茶は香気がイマイチです。



さて、なが〜いお話になりましたが如何でしたでしょうか?幾つかの資料を出し、それらの内容をまとめながら翻訳しました。

資料として使っていただけるとは思いますが、数字等はあくまでも目安であり、原葉や環境が違えばそんなものは簡単に変わります。固執されない方が無難でしょう。実際に作っている方は、自分の五感と第六感!?を駆使して、自身での感覚やノウハウを蓄積されることをお勧めします。

ブログに以前書いたように、私もここ数年、日本の茶生産者を台湾や中国の優秀な工場へ引率しますが、とにかく良質なお茶を作る現場を、1度はしっかり見ることです。(と言っても、優秀な工場はそう多くないことも確かです。)

そして…赴く時は大勢で行かないこと!自費で行くこと!人数が多くなれば、先方も細やかな対応は出来ませんし、どこかにお金を出してもらうような企画は臨機応変が出来ないので、突発的に勉強になる良いネタが現れても、身動きが取れません。

日本の国産紅茶の未来が生産者、流通関係者、ユーザー全てにとって明るいものであるよう、私も出来る限り協力させていただこうと思っています。




緑茶の産地で作られる紅茶…宜興紅茶⑦

2016-08-25 09:00:20 | 紅茶(中国茶・台湾茶)



発酵室


④ 発酵について

以下「✳︎」マークは各書籍より抜粋し翻訳したものです。

✳︎発酵は、実際には揉捻が始まり葉の細胞が破壊されたその瞬間から始まると考えるべきである。よって葉温等を考慮すると発酵も揉捻の段階から環境への配慮が必要である。工場の気温は25°C前後、湿度も高め(90%以上)であるのが理想である。夏季〜秋季にかけては揉捻機の周囲にまめに水をまき、環境温度を下げつつ加湿すると良い。

✳︎発酵の工程で最も重要なポイントは、温度、湿度、通気の条件である。揉捻によって茶葉の細胞が破壊され、酸化酵素を含んだ成分が空気に触れて活性化すると酸化発酵が起こる。
そこで、発酵には豊富な酸素(通気)が必要となる。茶葉の発酵促進中は、葉温が上がる。その際葉温は通常、気温より2〜6°C高めになる。

✳︎通常の室内で気温や湿度の調節が難しい場合には発酵室を設ける。その空間は直射日光を避け、湿度を保つための蒸気が均一に巡回し、充分な酸素量を確保するため、充分な容積と通気に留意すること。壁や床はセメントが好ましい。床の四隅に水を排出させるための溝を作っておくと良い。

✳︎発酵時に気温が高くなりすぎると葉内の内含物の反応が過剰になり、出来上がった製品は味わいが薄くなったり、香りの発揚が弱かったり、外観に艶がなくなる。逆に気温が低過ぎると、発酵の時間を延長せざるを得なくなり、各種の化学反応が不均衡になりやすくなる。

✳︎カレイ等に茶葉を広げる時は、芽の大きさ等で厚みを決めるが、一般的には10〜20㎜の範囲内に置くこと。工場の温度が低い時は少し厚めに、高い時は薄めに。芽が細かい時は薄めに、大きめと時は厚めに。これらを念頭に各自茶葉を見ながら適宜調整すること。ふんわりと置き、途中1、2度上下を返し、茶葉を均等に空気に触れさせること。


一般的にはこの工程で紅茶の香り、味わい、水色等が決まる…と言われていますが、産地の現場の人達は、
「発酵は正常な萎凋、揉捻工程が出来てこそ可能な作業だ。」
と断言します。
また、熟練した作り手の中には
「紅茶の製造は8割は萎凋で決まる。」
と言い切る人がいます。
また、高度な技術を以ってしても、やはり原葉が良くなければどうしようもないと皆一様に話してくれました。これは緑茶も他のお茶も同じだと思います。

では紅茶にとって最高の原葉とはどのようなものなのでしょうか?

品種の選定、施肥(過剰な投与も良くなければ、無施肥も完璧ではありません。施肥の内容も重要で、有機であれば何でも良い訳ではないと思います。)…日本の紅茶はまだまだ改善の余地があると思います。













緑茶の産地で作られる紅茶…宜興紅茶⑥

2016-08-24 06:25:54 | 紅茶(中国茶・台湾茶)

(日月潭紅茶。揉捻後。)


数日開きましたが、
前回に続き揉捻のお話からです。

③ 揉捻(CTCは対象外)

揉捻の加圧は軽く→重く→軽くが原則である。
葉の表面をきちんと壊しつつ、外観は細く、締まった美しさを保つこと。揉捻するとその葉の一部がくっ付き、玉状になることがあるが、必ず解すこと。そうでないと葉温が安定せず品質にムラが出る。発酵は揉捻が始まった時に事実上始まっていると考えて良い。そのため、必ず揉捻作業をする環境を、低温高湿にすること。必要に応じて水を撒くなどの対策が必要。

まだ日本の多くの生産者が、葉をちぎって揉めば水色が赤くなる…と思っていて、揉捻機にパンパンに茶葉を入れますが、必ずそうしなければいけないということはありません。葉の表面組織を傷つければ水色は変わります。そして、水色が赤いことも必要ですが、茶湯の透明度も大切です。これは中国紅茶だけでなく、他国のものも同じだと思います。

日本国内ではまだ緑茶仕様の揉捻機を使用して紅茶を作っているところがほとんどです。それでも大きな問題はありませんが、様々な工夫が必要です。紅茶は緑茶と違って1台の揉捻機上で長く揉みますので、ステンレスの上で葉と機械が長く摩擦をすると品質(味わい、水色など)に悪影響が出ることがあります。ヒルを増やすとか、機械そのものの素材を交換する方法等ありますが、まずは機械にインバーターを付けて回転数を変化させること、そして、揉捻機の圧のかけ方を工夫することでかなり改善されますので、生産に関わる方々には是非試していただきたいと思います。



緑茶の産地で作られる紅茶…宜興紅茶⑤

2016-08-19 10:35:18 | 紅茶(中国茶・台湾茶)



さて、この地域の紅茶の製造方法のお話です。
宜興紅茶の資料はなかなか良いものがないので、これとほぼ同じ作り方をしている越紅工夫紅茶(浙江省)など複数の資料も引用し翻訳。そして私が見聞きしてきたことも加筆をしていきたいと思います。

①摘採

ご存知の方が多いと思いますが、まだまだ手摘みが多いです。最近は可搬のも時折見られるようになってきました。今後は可搬を増やさざるを得ない時代がやってくるでしょう。

②萎凋

50年代までは晴天の日は日光萎凋や室内萎凋をメインにしていたようですが、こちらでは60年代から奨励され始まった萎凋槽を使用したものをご紹介します。

・萎凋槽の使用・操作において重要なのは
温度、風量、萎凋槽に敷き詰める原葉の大きさや厚さ、葉を返すタイミング、萎凋の時間などである。

・萎凋槽の風は一般的に35°C以内。春は加温するのが望ましい。(葉面が雨水や露で濡れている時は先に常温の風で葉の表面の水分を飛ばした後に加温。)

・萎凋槽に生葉を敷き詰める時は
「小さな柔らかい芽は薄く」「大きめの芽は厚く」が原則である。(日本茶の場合は後者のパターンが多いと思います。)

・生葉を萎凋槽に敷く時は、厚みを均一に、静かにふんわり置くこと。

・萎凋中は何度か上部の葉と下部の葉を返すこと。

・萎凋が完成すると、葉が萎縮し、柔らかくなり、茎が折れ難くなり、手で握ると一瞬塊になり、手を緩めると自然に解れる。葉面の光沢は消え、暗めの緑色。青味臭は消え、独特の爽やかな香りを感じることが出来る。

(注意)

時々日本で緑茶の生葉コンテナの周囲に囲いをし、それを萎凋槽として代用する生産者を目にしますが、そのままでは良質な紅茶はできません。

(続く)

緑茶の産地で作られ紅茶…宜興紅茶④

2016-08-16 00:10:26 | 紅茶(中国茶・台湾茶)



さて、当時の「蘇紅」は主に紅砕茶(CTC或いはLTP)であったことは前回お話ししましたが、この時期宜興の紅茶はどんな問題あったのでしょうか?

当時の記録を探すと…
・この地域の茶樹は小葉種又は中葉種で味わいが薄かった
・紅茶に向く品種の開発が必要
・製茶機械の性能
・温度と湿度のコントロールの必要性
という文面が見られます。

幾つかは今の和紅茶の現状と被るところがありますね。

蘇紅は、上記を解決したことで60〜80年代初頭まで、紅砕茶の輸出が盛んだったそうです。

そして、紅茶の製造に興味がある方々にとって注目すべきはこの当時から「温度と湿度のコントロール」が行われ始めていたことではないでしょうか。確かに宜興は温度や湿度に関しては、決して理想的とは言えない時期があります。品種も今だに緑茶品種の栽培が主体です。その環境化でどんなことが行われているか、興味ありませんか?

この温度と湿度のコントロールに関しては、私は宜興でその作業を何度か見せてもらっていますが、まだ宜興紅茶と関連した確かな文献を見つけることが出来ていません。

そこで、ここからは敢えて紅砕茶ではなく、ホールリーフで作られている今時の宜興紅茶の製造技術に近い、越紅工夫紅茶(*)の製造に関する情報を翻訳・記載し、宜興で撮影した画像と併せてご紹介したいと思います。

長いと疲れますね。(苦笑)
次回に続きます。