Entrance for Studies in Finance

JIT, TPS, セル生産について

Hiroshi Fukumitsu

1.大量生産mass productionの時代 Fordism
 製造の取扱い単位量を意味するlotあるいはbatchが大きいものは大量生産mass productionになじむ。大量生産(同種のものを大量に生産すること)における生産のあり方は連続的continuousである。また生産される商品は標準化されておりstandardized、普及商品(commodity)化している。普及商品の競争competitive dimensionでは、品質に大きな差がないので価格price(cost)が重視される。なおcompetitive dimensionには、priceのほかquality, time, flexibility等の面がありlotが小さくなるほど、price以外の面が注目される傾向がある。
 競争が起きるのは、その製造への参入entryが可能だということを意味している。
 大量生産mass productionに適した生産のありかたに組み立てラインassembly lineと流れ生産flow productionがある。そこでは労働者の作業内容は分業によって単純化deskilling(熟練技術が解体)されている。こうした生産の在り方をHenry Ford(1863-1947)の自動車工場がモデルだとしてFordismということがある。それはまたFrederic W.Taylorのscientific managementと結びつけて理解されてもいる。
Fordismでは労働者へのインセンチブは賃金で与えるという考え方が強かったと思われる。労働者は怠業を好むというTheory Xといわれる労働者観である。そこでインセンチブとしては、出来高給や成果主義賃金がよいと考えられたのである(time based payからperformance based payへ)。
 またこのような大量生産とともに、それを大衆が消費する時代が到来する。月賦販売やクレジットなど大衆が高額商品(ミシン、自転車、やがて自動車、家電製品など)消費を可能とする仕組みも登場する。19世紀後半から20世紀の初頭が、まさに対応する時期だといえる。

2.ポスト工業化社会post industrial society
しかし生産の飽和とともに、生産で重視されることの内容が変化してゆく。たとえば品質qualityがより重視されるようになる。
 おそらく過剰生産的な不況が現れるたびにこうした品質重視の議論はくりされてきたはずだ。1920年代末の大恐慌にいたるところもそうだろうし、あるいは1980年代に至るところもそうだろう。
 品質の重視については生産管理上の問題がある。欠陥を出さないことが生産の効率改善につながることが一方で強調されるようになる。また他方では品質の改善が、高い消費者の満足度、消費者の支持につながることが明らかにされてゆく。
 このようなゼロデフェクト論(品質管理論)は、Philip Crosby, W.Edwards Deming, Joseph Juranなどの名前と結びついている。彼らはいずれも生産の現場を良く知る技術者として、高い水準での生産管理が顧客満足度の改善という企業の最終目標につながることを明らかにした。
 また生産の現場では、労働者の自発的な生産性改善への関与が重視されてゆく。労働者の中に蓄えられた知識や経験が生産性に大きな関係があることも明らかにされてゆく。
 こうした中で賃金のあり方について、労働者の能力をベースにするべきだという考え方knowledge based payが広まってゆく。
 さらに背景には、産業構造の変化もある。製造業中心の社会からサービス業など知識労働者intelectual workersが中心の社会に社会全体が変化したことがある。製造業においても、技術・ノウハウ・特許など知的な財産が競争力の決め手になることが明らかになってきた。それをポスト工業化社会(後期工業化社会)ということもできるだろう。
 また労働者は組織の目標に関与できるなら積極的に労働に参加し、創造的に仕事をする意欲を本来もった存在である(Theory Y)とか、あるいは労働者はそもそも集団で働くことを好み、その中での経験や規範を重視する存在である(Theory Z)といった労働者像が意識調査により発見されている。このような労働者像が、本来の労働者像だとすればそれを前提にして、労働者のモチベーションをどのように生かして企業の生産性を上げるかは、依然として今日の企業社会の課題だといえる。
 
3.JIT, TPS, cellular manufacturing
 生産の飽和とともに、品質だけでなくコストや時間についての顧客の要求もシビアになってゆく。それに対応しえたものが勝利者として生き残ってゆく。
 時間については、在庫があればすぐに解決するが、在庫は生産コストの一部である。企業の立場からすれば注文を受けて生産すれば(MTO:make to order注文生産あるいは受注生産BTO:build to orderにすれば)無駄な在庫はないが、在庫がなければ顧客は待たなければならない。顧客は待ってくれるだろうか。それは販売機会を喪失することにもつながる。予備在庫(buffer or safety stock)があれば客を待つ必要はなくなるがそれは経費を増やす。顧客満足度を維持しつつ在庫を最小限にするにはどうすればよいだろうか。当初は利益を最大化する最適在庫量を計算するということが行われた。しかしそれは顧客のニーズから出発した発想ではなかった。
 そもそも在庫には生産過程におけるものと、流通過程におけるものがある。Fordismの発展として成立したのが生産過程における在庫を最小限にするlean or just-in-time(=JIT) productionという手法である。これはトヨタ生産方式Toyota production system(TPS)ともいう。
 そしてこれを流通=消費者(顧客)の面にまで広げたものがsupply chain systemである。このシステムは、販売情報を電子的に集めて(electorical point-of-sale system)、在庫管理・配送の最適化するというところから出発したが、現在では、どのような顧客がどのようなニーズをもっとえいるかを発見することで、新たな商品開発・サービスの展開することに活用されている。このような顧客との相互関係の中で、顧客満足度を高める経営を行うことをCRM:customer relationship managementといい、電子情報を利用してそうした関係を創出することをとくにeCRMという。
 なおこのような電子情報を利用した顧客関係の構築開始は1990年代からとみてよいだろう。
 ところで消費の飽和とともに、普及品(commodity)では高い付加価値をつけて販売できなくなっている。そこで必要になっているのは、国内で生産するものはターゲットにする消費者を明確にしてその消費者の求めに応じた情報・加工を加えることで、購買意欲を高め付加価値を高めることである。それは多品種少量生産を意味する。当然生産lotは小さくなる傾向がある。
 そこで登場した生産の在り方がセル生産方式cellular manufacturingである。そこで労働者は、多様な生産に対応できる多能工であることmulti-skillingを求められる。
 このセル生産は、仕事を貯めて一括処理してゆくバッチ処理batch productionとよく似ている(情報処理作業では一定期間データをためて一括処理することをバッチ処理=一括処理と呼ぶ)。一連の作業をそのユニットで連続処理する。
 セル生産は一人あるいは複数の作業者が、ひとつの作業スペース(O型 U型など細胞と呼ばれる)で最初から最後までの組立作業をする(作業を完結させる、全工程を行う)ところに特色がある。移動・待機などの時間と空間が最小化されている(作業スペース 在庫の節約 仕掛品が発生しない)。反面では労働者は受け持つ作業は広くなっている(多能工化)。ライン生産は同種のものを大量に作るには適しているが、同じラインで異なる商品をつくるには、ラインを止めて対処したり、あるいはそのためのラインの新設、つまり大規模な投資が必要であったりする(設備投資額小額化)。セルはこうした問題に柔軟かつ低コストで対応できる(柔軟な生産変更)。
 またライン生産は、ラインの途中で発生する不具合(ボトルネック)にライン全体が制約を受けるほか、作業者の責任が不明確で不良品の発見が遅れる問題がある。セル生産はひとつずつのセルが独立しているので、作業者の責任が明確。このため作業者の自覚が高まり不良品を減少させ、作業者の熟練によって生産性を高度に上げてゆくこともできる(不良品の減少 作業者の自発性促進)。多品種少量生産という現代の生産の在り方にも対応している。
 もちろんこのほかに、作業の流れから無駄な動きを省略したり部品の配置位置を工夫することや、部品のモジュール化(複合部品化)により工程数を減らすこと、などが組み合わされている。
 反面、セル生産は作業者の高度の熟練が要求され、ラインからセルへの移行によって却って生産性が落ちることが多いことはよく知られている(求められる作業者の熟練度の高さ)。また在庫圧縮と生産性改善のためには、部品のモジュール化の推進とセルのスピードに応じた小ロットでの部品の迅速な供給が必要で、セル生産では部品メーカーとの協力関係が必要である(求められる部品メーカーとの協力関係)。
 他方で部品など価格への要求がシビアな分野も依然存在する。これを小ロット生産では割高になる。この矛盾を解決する方法にoutsourcingがある。こうした分野ではむしろ生産するものを標準化し大量生産してコストを下げることが基本になる。
 そのとき労働資源が低廉な海外へのアウトソースももちろんあるが、国内であってもoutsourcingに意味があるのは、生産のlotを拡大することで請負企業では規模の経済economics of scale(生産量が増えることで生産コストが下がるなど)が働くからである。なおoutsoucingはそれを請け負う企業側からみると、とくに資本提携・業務提携などの形をとった場合は、水平的統合vertical integrationといってよい。請負企業では業務を請け負うことで、規模を拡大し規模の経済の実現を目指すことになる。分野により程度の差はあるが、価格で競争する企業は大規模化の道を歩むことになる。


以下を参照せよ
能力主義か縁故主義か
経営学・教育論
6σ(シックスシグマ)の議論の詳細は以下参照
6シグマとし6シグマレベル
アウトソースを活用している企業の事例研究
船井電機、ミスミ、JT


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