Entrance for Studies in Finance

ハリウッドが描く日本そしてアジア

 ハリウッド映画が日本そしてアジアを描く姿勢が近年変わってきているように感じる。
 Memories of Geisha:Sayuri(2005)はそのことを印象付けた作品。Last Samurai(2003)に続き、ハリウッドの日本理解が進んでいることに脱帽させられた。スピルバーグの製作。ロブ・マーシャル監督(1960-)。ロブ・マーシャルはかなり異色の監督でカーネギー・メロン大学を出たあと、ダンスの振り付けなどで頭角を表し、Chicago(2002)では振り付けとともに監督をこなした。この映画は和服の着こなしなど細かな所に間違いはあるが、全体としては許容できる映像になっている。
 主人公サユリをHero(2002)以来、国際的に評価されているチャン・ツィイー(1979-)が演じている。日本という社会は、江戸から明治、第二次大戦をはさんで戦前から戦後、比較的短い間に価値観の転倒を経験してきた。それだけに私たち自身の過去についての記憶や知識も曖昧になっている。私たちだって第二次大戦前の花街のありかたについてはそれほどの知識はない。なおSAYURI(2005)では渡辺謙、役所広司、桃井かおりなど多数の日本人俳優の活躍も話題になった。
Last Samurai(2003)では史実も取り込まれている。たとえば新政府にたてつく武士集団に外人将校が肩入れして新政府軍と戦う話。これは旧幕府軍にフランス軍将校が肩入れして函館で戦った構図と似ている。また言うまでもなく渡辺謙が演じたKatsumotoは西郷隆盛(1828-1877)とイメージが重なる。そこには何がしかの真実がある。Last Samurai(2003)では渡辺謙(1959-)のほか真田広之、小雪などが活躍した。明らかにそれをベースにSayuriができている。
 そして2006年末に公開された「硫黄島からの手紙」ではハリウッド映画は日本映画としてさらに自然に見えた。もちろん日本家屋の描写を始め細かな誤りや違和感は依然あるのだが、描写は限りなく日本映画に近付いているように思えた。
 かつこの脚本はよく練られており、渡辺謙が演じる栗林忠道中将が戦況を掌握できないまま最後に至った状況がよく伝わった。なお二宮和也(1983-)が演じる西郷も、自然体の演技がすばらしく、普通の若者がそのまま戦場である硫黄島にスリップしている状況を的確に表していた。
 なお戦闘が実際にあったのは1945年の2月から3月にかけての38日間。日本側は将兵20933名。うち20129が戦死。アメリカ側は75000名が参加。戦死21865、負傷6821という激戦だった。ところで硫黄島戦の生き残りである秋草鶴次さんの『十七歳の硫黄島』文藝新書(2006)は、この戦いの精緻な見聞記である。硫黄島での戦いについて、前哨戦も含めて長期間にわたるものであったことや、圧倒的な物量の差が有る中で日本軍が応戦した状況などを描いている。
 この映画で今一つ注目されたのは監督のClint Eastwood(1930-)の年齢だった。もっとも多作だったのは1970年代だろうか。Dirty Harry(1971)のシリーズ(配給ワーナー)が始まり 敏腕刑事のHarry Callahan役がはまり役になった。自身監督したGauntlet(1977)では、市の警察長官相手に立ち向かう刑事Ben Shockley役を熱演した。EastwoodがDirty Harryから30年後なお撮り続けているのである。最近もMillion Dollar Baby(2004)が話題になった。これはHilary Swankが扮する女性ボクサーをEastwoodが演じるトレーナーが育てる話だが、二人がともにアイルランド系であることと、ボクサーにつきものの栄光と肉体への損傷との格闘が物語にリアリティを与えていた。Million Dollar BabyでのEastwoodの相棒となるMorgan Freemanの台詞に以下がある。Sometimes the best way to deliver a punch to step back..but step back too far and you ain't fighting at all. I shouldn't have dropped my hand..I shouldn't have turned. Always protect myself.(from Million Dallar Baby)
 Deep Impact(1998)で黒人大統領を演じたMorgan Freeman(1935-)が、East Woodの事務所manager役で加わっている。Freemanは黒人で米大統領が出るならこういう人かもしれないという威厳をDeep Impactでは表現したがMillion Dollar Babyでもその台詞で印象に残る。Freemanは南北戦争における初めての黒人部隊の英雄的な死闘を描いたGlory(1989)での姿が記憶に残っていた俳優だった。Gloryは当時の戦争が兵士を消耗品のように扱うものだったことを描いている点で記憶に強く残る映画だった。
 ハリウッドの日本映画は、日本のカルチャーを理解しようとする姿勢や日本人俳優の活用といった点で、日本人から見て共感できる仕上がりになっている。逆に日本人が海外を描くとき同じように深いカルチャーの理解、同じような現地俳優の活用に至れるかを反省させられる。海外を描くとき、どのような準備が必要か、どこまで描ければ成功といえるのか、そういった反省をさせられるという意味でも刺激的だ。私たちは海外のことを描くときどうすれば真相にせまれるだろうか。
では日本映画と同じ筋書きをアメリカを舞台に撮るとどういう結果になるのか。おもしろい実験が行われた。Shall we Dance(2004)である。この作品が、日本映画として米国で異例にヒットした周防正行監督脚本の『シャルウイダンス』(1996)のリメイクであることはよく知られている。結論としてPeter Chelson監督(1956-)のリメイクはヒットにはならなかった。
 話のテンポが遅いとか、仕事中毒といった日本的事情が入りすぎているとの批判が行われた。Richard Gere(1949-)、ジェニファー・ロペスが役所広司と草刈民代の役を演じた。日本人の我々がみると以下のセリフは泣けるのだが米国人の感性とは違っているようだ。We need a witness to our lives. There's a billion people on the planet...I mean what does any one life really mean? But in a marriage you 're promising to care about everything. The good things the bad things the terrible things the mandane things...all of it all of the time everyday.(from Shall We Dance?)
 ハリウッドが描くアジア物にもいろいろなものがあるが、もともと歴史的なもののスケール感や情報力、それを映像化する力には、優れたものがあった。最近の日本物は、現地の俳優を使い、現地の言葉で映像化することで、さらにそれが進化していることを伺わせる。
 ハリウッドの力量を示すものとして、たまたまともに1997年に公開されたKundunとSeven Years in Tibetを歴史物の秀作として挙げておきたい。
 「Kundun」(1997)はダライラマ14世(1935-)の半生を描いたものだが、武力を持たないチベットが共産党政権下の中国に併合されたときに起こった悲劇を描いたものだった。これを監督したのはMartin Scorsese監督(1942-)で彼はその後もGangs of New York(2002)やAviator(2004)などの歴史を素材にした大作を撮っている。  Seven Years in Tibet(1997)はダライラマの家庭教師を勤めた英国人の記録によるもの。監督はジャン・ジャック・アノーで、彼はその後、スターリングラード(現在のボルゴグラード 日本ではレニングラード:現在のセントぺテルスベルグと混同する人が多い)の戦い(1942-1943)を描いたEnemy at the Gate(2001)を撮っている。
もちろんこのチベット問題自体については中国政府には別の見方もあるだろうが、2本の映画は極めて抑制した形で、チベットで何が起こったのかを伝えているように感じるのだが。
 ダライ・ラマの言葉には感銘を覚えることが私はありその歩みにも関心をもっていた。たとえばつぎのような言葉が知られる。
 Live a good honourable life.Then you get older and think back you'll be able to enjoy it a second time. Share your knowledge. It's a way to achieve immortality. (from Outlook on Life by Dalai Lama) From the moment of our birth we required love and affection. This is true of us all right up to the day we die. Without love we could not survive. Human beings are social creatures and a concern for each other is the very basis of our life together. (from Dalai Lama Speaking in India)
 Written by Hiroshi Fukumitsu. You may not copy, reproduce or post without obtaining the prior consent of the author.
originlly appeared in May 6, 2008
reposted in Dec.13, 2009


名前:
コメント:

※文字化け等の原因になりますので顔文字の投稿はお控えください。

コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

 

  • Xでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

最新の画像もっと見る

最近の「Cinema Reviews」カテゴリーもっと見る

最近の記事
バックナンバー
2024年
2023年
人気記事