Entrance for Studies in Finance

誤発注問題での東京地裁判決(09年12月4日)について

2009年12月東京地裁、東証の重大な過失を指摘
 2009年12月4日、東京地方裁判所は2005年12月8日に発生した誤発注問題(株数と売値を取り違えた 注文から1分25秒後に気付いて取り消そうとしたが、システム不備のため大量の売買が成立、約10分で400億円を超える損失が出たという事件)について、東証の責任を認める一方、みずほ証券側の責任も一部認める判決を下した。61万円で1株の売りという顧客の注文を、1円で61万株の売りと誤入力したとされる。
 発行済み株数の3倍を超える売買が成立したあとさらに95秒経過後、つまり誤発注後約7分経過後について損害約150億円についてのみ東証側の重大な過失を認めた。また、みずほ側の発注管理体制の不備も認めた。過失割合は7対3とされた。東証に約107億円の支払いを命じた。
 この東京地裁の判決は、3倍超になったあと(注文取り消し操作から約4分後)は東証側は売買停止を立案すべきで、さらに95秒後(誤発注後約7分経過 注文取り消し操作から約5分30秒経過)には売買停止が可能だったとするが、これらの数値の根拠は明確でない。みずほ側の主張は、誤発注のあと注文取り消し操作をしてから(1分25秒後)以降について、東証は注文の取り消し処理義務などを怠った(東証側に損害の賠償責任がある)とするもので賠償請求総額は約415億円だった。
 この判決に対して東証は12月14日に控訴しない方針を発表した。しかし415億円の損害賠償を求めていたみずほ証券側は、12月17日に、過失の範囲、過失割合の判定に納得できないとして、控訴する方向であることを明らかにしたとされる。
 この問題をめぐっては、誤発注をしたみずほ証券の責任をどうみるかで意見が別れている。私自身は、誤発注は日常的に起こるという前提で、売買システムは本来設計提供されるべきではないかと考えるので、みずほ証券側の主張に賛成である。

2008年の東証:頻発したシステム障害
 東証の売買システムは2008年に日立から富士通にシステム業者が変更されてからシステム障害が目立っている(このほか約定成立の速度の問題、注文を受けてられる容量の問題など、これまでも問題指摘が続いている)。
 容量(処理可能件数)につては、2006年1月にシステム能力の問題で全銘柄売買一時停止措置。コンピューターで自動売買するアルゴリズム取引の普及で、内外からの注文件数が急増している。株式注文件数は平均で700万件程度、多い日で1,150万程度。処理可能件数は2008年7月には2800万件(2300万件)。これを2009年秋に5000万件に。そして後述する2010年1月の新売買システム以降後は、迅速に処理能力の拡張が可能になり、1日1憶数千万件程度まで拡張できることになる。

 しかしこうした明るいニュースの反面、2008年7月22日 東証でシステム障害が発生した。障害は2008年に入って3回目(2008年2月8日 2008年3月10日)。復旧には4時間以上かかった。
 停止したのは、先物、指数オプション、国債先物オプションなど(TOPIXや個別の株式を対象にした先物、オプション取引など)と一部債券の現物取引。原因は注文状況を表示するためのソフトの設定ミス。国債先物の売買が止まりヘッジ取引ができなくなった。通常なら国債に投資するとき国債先物を東証で売るなど。結果として投資家は国債で大きなポジションをとれなくなり、新発国債の現物取引がほとんど成立しなくなった。株式では東証株価指数先物の取り引きも止まったが、皮肉だが(競合する大証の)日経平均先物など代替手段があるので影響は限定的だった。
 システム障害の多発と取引停止時間の長さは問題である(もちろん海外の取引所での障害も時折報道があるので、障害の根絶はむつかしいといってよいだろう)。市場の役割を考えると本来あってはならないことが安易に繰り返されている印象は否めない。

 2008年2月8日に東京証券取引所では、東証株価指数先物取引システムでシステム障害が発生した。TOPIX先物の一部で取引停止。東証における大規模なシステム障害は2006年1月にライブドアショックで、処理能力の限界があるとして全銘柄の取引を停止して以来のこと。問題はこのシステムが2008年1月15日に取引開始したばかりもので、2009年稼動予定の新株式売買システムの試金石と位置付けられていたことにある。もともとの稼動予定を3ヶ月ずらし万全の準備のはず。2月12日の発表では原因はプログラムミスだという。
 2008年3月10日にも現物株2銘柄が午前中、システム障害のため売買停止となっている。
 現物株取引については2005年11月1日には午前中の現物株取引が全面停止という障害もかつて発生している。
 このような足元の問題をまず改善すること(再発させない体制作り)は大事なことに思える。東証ですべてに優先するのはIT先進国にふさわしい取引所システム(売買執行速度の最速化 安全性・安定性・拡張性の確保など)、そして先進資本主義国の市場にふさわしい透明性の確保(不正取引・不正企業の排除)ではないか。

富士通は全力を傾けているのか
 わからないのは東証の売買システムを日立に代わって請け負った富士通という会社の姿勢である。現状は富士通というブランドの危機だと思える(逆にいえば成功した場合のプラスの効果は大きい)のだがなぜ東証への対応で抜本策を取らないのだろうか。富士通の総力をあげればこんなみじめな結果を繰り返すことはないと思うのだが。
 そもそも富士通は東証では現物株の売買システムに続いて2008年からはデリバティブの売買システムで日立に代わって納入業者となった。また2009年の新売買システムの開発業者選定でも日立に競り勝った。問題はそれにもかかわらずデリバの売買システムがシステム障害を繰り返していることだ。
 今日のシステム開発では、チェックすべきところが膨大化しており(バグの発生は不可避であり)、最終的なチェックは契約した側の経営者の責任だという建前の議論がある。しかし、ITの技術者でない導入側のトップの経営者(システム設計についていえばただの老人である)に責任があるとするのは形式的な議論であり、より高い技術的知識をもっている納入側の責任が重いというのは誰もが感じているところだ。
 つまり表面的に責任は東証に、しかし実際にはシステムを納入している富士通の責任があると多くの人は感じている。だとすれば富士通は総力をあげて責任を果たすべきだろう。

2010年1月東証での新売買システム稼働と新たな懸念
 なお東証では2010年1月から現物株の注文成立を高速化する(これまでより注文処理を200倍以上速める 注文受付通知のレスポンスを10ミリ秒以下 既出来の約定通知のレスポンスを数10ミリ秒以下とする 注文処理に要する時間は2-3秒から0.005秒程度に短縮)ため、システムを全面的に刷新する(次世代株式売買システムarrowheadを導入する)としている(2010年1月4日稼働)。
 外資系証券のコンピューターを使った高速の自動売買取引を取り込む。欧米では市場の6-7割を占める。
 ここで再び障害の多発が懸念されよう。市場の信頼を高めるはずの措置が逆効果にならないように、十分な準備を求めたい。

取引所名処理速度*
東証2000ミリ秒→40ミリ秒
LSE10ミリ秒
NYSE数ミリ秒
NASDAQ1ミリ秒

*注文を出してから取引完了までの時間(08/01現在) 東証は2010年1月稼働の新システムで40ミリ秒まで改善する なお2006年2月から大証で稼動している新売買システムの処理速度は約2ミリ秒。この点で大証は東証に先行し機関投資家の支持を集めている。参照
大証の新売買システム

Originally appeared in Aug.12, 2008.
Corrected and reposted in Dec.20, 2009.

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