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BNPパリバ(東京支店)への行政処分(2008年11月28日)

2008年のアーバンコーポ倒産とは
 アーバンコーポレーションは2008年6月26日BNPパリバを割当先とする300億円の転換社債型予約権付き社債の発行で資金調達をすると発表した。調達資金は短期借入金など債務返済に使うとされていた。実際にはスワップ取引(株式が下限価格に達するまでは転換した株式の評価額の9割を逐次入金する)とセットだったこの資金調達計画について、パリバはスワップ取引とその内容を開示しないことを求めた。
 その結果、投資家は300億円の資金調達が行われたと判断したが、実際にはアーバンはパリバに300億円をすぐ払い戻し(名目上は保証金として差し入れ)、最終的にアーバンに払われたのは転換された株式の一部売却益91億円に過ぎなかった。
 パリバはスワップ契約を市場に秘密にした上で、アーバンの株を空売りした。その目的はこの2つあったと考えられる。アーバンについての内部情報を利用して空売りして株価を下げて儲けること、そして、スワップ契約にある下限価格より下まで株価を押し下げて、契約に従い支払を免れることだった。これはインサイダー取引そのものだ。パリバの支払はとまりアーバンは8月13日に民事再生法の適用を申請し倒産した。
 金融庁や証券取引等監視委員会がこの証券会社をどう扱うか注目されたのは当然だ。金融庁は2008年11月28日 BNPパリバ証券に対して金融商品取引法に基づく業務改善命令を出した。

パリバ証券東京支店の名前がほかでも頻出
 BNPパリバ証券は2002年にも他社株転換社債の販売をめぐって、顧客保護に反する点があるとして業務改善命令を受けている。このアーバンの事件と同時期に駒澤大学を相手に金利スワップ取引で、駒澤大学に多額の損失を与えたほか(2008年11月19日各紙報道)、サイゼリアを相手とする通貨スワップ取引(07年10月には78円で、また08年2月には69円90銭で、それぞれ豪州ドルとの円通貨スワップ 08年11月で140億円の評価損)で、サイゼリアに対して多額の損失を与えた(2008年11月21日同社発表)。なぜBNPパリバの名前だけがほぼ同時期にこれほど頻出したのか。同社の営業の考え方に基本的な間違いがあったとの疑いをぬぐいえない。
 金融庁の処分を受けて、パリバ側では安田雄典代表が退任した。安田氏は1970年に東京大学経済学部を卒業。日本航空に入社後、ハーバードビジネススクールを1978年に卒業。日本に帰国後、しばらくして、BNPパリバの日本代表に就任した。20年余りトップの座に君臨したということは、この間のパリバ東京支店の一連の不祥事への責任は否定できないだろう。

強い疑問が残る日本証券業協会の対応
 アーバンコーポ事件の顛末はパリバの外部検討委員会が明らかにした(2008年11月11日)。なおこのとき外部検討委員会の報告をまつことなく日本証券業協会は、現行ルールには違反していないとして早々と協会として処分をしない方針を明らかにしたが、この方針決定は早計であり世間感覚とずれた決定だった。その後、金融庁は11月28日 BNPパリバ証券に対して金融商品取引法に基づく業務改善命令を出し、協会は自主規制団体としての面目と立場を完全に失った。失態といえる。
 日本証券業協会は現行ルールには違反していないとしてBNPパリバへの処分を見送る方針を極めて早い段階で出したが(2008年10月7日報道 この段階でパリバの外部検討委員会が立ち上がっており、決定はこの委員会の判断を待たずにできるだけ早めに判断しようとしたものとみられても仕方がない)、この決定にみられる証券業協会の世間感覚とのズレは驚くべきものでかつ決定が早過ぎた。これほど騒がれた問題で処分がないままとすれば、協会は、自主規制団体として機能しているとはいえない。結果として1年後に協会は処分を決定するのだが、この決定は今度はあまりに遅過ぎた。これは業界内の感覚で、処分を考慮したことが反映しているのではないか。
この問題に関連して、郷原信郎氏は以下のように述べているが賛成である。
 「経済社会における不正な行為をいちいち具体的に規制することは不可能であり、市場の公正を確保するためには本条(金融商品取引法第157条)のような包括規定を活用してある程度柔軟に対応する必要がある」郷原信郎「アーバンコーポ/BNPパリバ取引 疑惑の核心」『金融財政事情』08/11/24, p.29.
 ルールのあるなしではなく、不正があったか、あるいは公正に対する侵害があったかを判断基準とすべきだった。
その後さらに1年近い時を経て日本証券業協会は2009年10月13日に至って、その後の情報を踏まえ、パリバに対する日本証券業協会会員権の6ケ月間停止と1億円の過怠金、そして日証協会員権の6ケ月停止を規律委員会で内定することになった(同月10月21日の自主規制会議で正式決定)。

2009年10月に再び問題が表面化 再度の行政処分(2009年10月23日)
 2009年10月15日、朝日新聞が証券取引等監視委員会が、パリバ東京支店がソフトバンク株について、取引終了間際に大量の高値の買い付け注文をだし、意図的に売買の成立を遅らせるなど「作為的相場形成」を行った疑いを調査中との報道を流した(2008年11月5日に市場取引が終わる15分前から計20回にわたり計1350万株の買い注文を出し、取引を意図的に発生させない作為的相場形成を行った。『金融財政事情』2009年11月2日号, 8)。
 委員会は10月16日に金融庁に対して行政処分を勧告。金融庁はこの勧告を受けて、2008年に業務改善命令を受けたことと合わせて、2009年10月23日、パリバに厳しい行政処分として、すなわち株式・派生商品取引部門の2週間(10営業日)業務停止 法令順守など内部管理体制の再構築などの業務改善命令を出した。

Written by Hiroshi Fukumitsu. You may not copy, reproduce or post without obtaining the prior consent of the author.
Originally appeared in Dec.10, 2008.
Corrected and reposted in Oct.27, 2009 and Dec.16, 2010.

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