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ジョインベスト証券の行政処分(2008年11月12日)

 野村證券系のネット証券であるジョインベスト証券が2008年11月12日に金融庁から行政処分を受けた。事件の概要は以下のとおりである。

 日経平均が大きく上げた10月14日(月)の取引では値幅制限の上限に達した銘柄が多数生じた。このようなストップ高の場合、比例配分という形で受け付けた注文の一部が執行される。そこで多数の顧客がその比例配分という形での株式の取得を期待して買い注文を出してきた。ところがジョインベスト証券ではその手続きに手間取った。顧客に対しては、<失効>と表示された。多くの顧客にとりこの表示は売買の不成立と誤認識させるやり方だった。
 売買成立の連絡は10月15日(火)深夜になったと伝えられる。結果として多数の顧客は売買成立の認識がないまま10月16日(水)となった。ところが16日に今度は株価が大きく下げた。その結果、ほとんどの顧客が高値つかみをした結果になり損失を抱えることになった。
 当然のように生じた顧客からのクレームに対して、ジョインベスト証券は約定の取り消しを拒否した。同社のHP上で失効表示の意味を説明したというのが弁明だった。またネット上に現れた同社を批判する書き込みを何者かが削除して回ることまで続いた。
 問題が発生してから10日以上経った10月25日(土)になってようやく同社は方針を転換。約定の取り消しに応じるとともに、顧客の売買代金の返還に応じるとした。対象となる取引は225銘柄、件数で1000件超とされる。このようなジョインベスト証券の対応は同社とその親会社である野村證券に対する信頼を著しく損ねた。
 2008年10月18日付けブログ記事

 2008年10月14日について他のネット証券が問題を起こさずに乗りきったところを見ると、ジョインベスト証券の内部体制が極めて貧弱だったのかもしれない。またそれ以上に問題だったのは事件後の顧客対応のまずさである。この点で弁解の余地はないだろう。ジョインベスト証券は巨額の赤字垂れ流しを続けた末に野村の評判を落とす結果を残して、2009年11月23日、野村證券に統合された。
 この事件を起こす前の2008年6月に手数料の値上げをやや急に実施して顧客の不満を招いていたことが下地にある。同社は2006年5月に1年以上の準備期間を経て営業を開始。業界最低水準の手数料を売り物にしていた。しかし財務的には、巨額の赤字を抱え、その赤字を小さくするため手数料引き上げに走ったのだった。その上で起こしたのが10月14日のトラブルだった。
 社長の福井さんは東京工業大学の経営工学を1980年に卒業。大学院を経て野村総研。そこからジョインベスト証券社長という転身だった。研究所から社長業への転身というのは準備期間があったとしても大変だったのではないだろうか。

 ジョインベスト証券が手数料値上げ 発表2008年6月13日 実施2008年6月30日 
金融庁による行政処分 2008年11月12日
 金融庁処分についてのジョインベスト証券の告知文(2008年11月12日)
 ジョインベスト証券による福井正樹社長の退任(2009年3月31日)の発表(2009年3月12日付け)
ジョインベスト証券について 4期連続赤字(2006/03, 2007/03, 2008/03, 2009/03)
 事件から1年後、ジョインベスト証券は野村證券により統合されることになった。発表2009年9月18日。合併2009年11月23日。

originally appeared in November 16, 2008.
corrected and reposted in December 15, 2010.

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