日本では報道が少ないがパキスタンでパンジャブ州(州都ラホール)の知事を務める政治家、Salman Taseer氏が2011年1月4日暗殺された。Taseer氏は少数派の宗教に寛容な立場をとっていたことから、「狂信的な」人々に暗殺されたとされる。犯人は護衛にあたっていた警官だった。
Salman Taseer サルマン タジール
"Salman Taseer's murder deals a huge blow to liberal Pakistan"in The Economist, Jan.8, 2011, pp.12, 23-24
"Pakistan's fight against the Taliban"in The Economist, Jan.15, 2011, p.27
1984年10月のインデイラ・ガンディー(Indira Gandhi 1917-1984)暗殺を想起するという意見がある。ガンディーの場合はシク教のインド・パンジャブ州の分離独立派と対立してシク教の聖地を武力で攻撃するという弾圧策を強行(1984年6月 死傷者500人以上の惨事になった)して、シク教徒の恨みを買ったという問題がある。つまり宗教的には強硬策でTaseerとガンデイは正反対だが、護衛する警官により暗殺された点や宗教問題が背景にあることは共通している。
インド・パンジャブはインド北部でパキスタンと領土を接するところだから、インドとしては神経質にならざるを得ないのだろう。パンジャブはインドとパクキスタンにより分離されたところで、宗教的には、ヒンズー、シク、イスラムの3宗派にわかれる。
この事件はしたがって、パキスタンだけでなく、インドにとっても、無関係ではない。また政治家が簡単に暗殺されてしまう社会は、民主主義が根付いた社会とは言い難い。
2008年11月27日にムンバイで起きたテロ事件が象徴的だが、パキスタンやインドのテロ事件について、私たちはもっと関心を払っていいのではないか。
(ムンバイ事件の続報(2008年12月)によれば、生き残った犯人の国籍をパキスタンとインド側は断定したが、パキスタン側は確認を拒否しているとのこと。少なくともインド側はパキスタンから不法に入ってきたテロ集団が事件を起こしたとみているようだ。インドでテロを起こすイスラム過激派が、パキスタン、バングラデッシュ、ネパールなど隣国で不法集団により訓練を受けて送り込まれているとの解説(フォーリンアフェアーズ2008年11月号)がある。他方でインド自身も、スリランカに対してテロ集団を送り込んだことがあるとされる。)
今回のTaseer氏暗殺を、パキスタンで起きた政治家の暗殺事件として2007年12月のベナジール・ブット(1953-2007)暗殺と重ねる人もいる。ベナジール・ブットBenazir Bhuttoは米国での生活経験があり、英国のオックスフォードで学んでいる。ブットはアフガニスタンでタリバンを支援していたとされる。インドと軍事的に対立しているパキスタンとしては、アフガニスタンにパキスタンの傀儡政権を樹立することに利害があり、そのためにタリバンを支援したという説がある。ブットの暗殺では銃による狙撃のあと、犯人が自爆。死者20人という惨事になったが、犯人や周辺の人物が死んでおり、動機や背後関係、殺害時の詳しい状況は解明されていない。
今回のTaseer暗殺事件では、どこまで背後関係が解明されるだろうか。そこも興味深い。
日本で起きた政治家刺殺事件としては1960年10月に起きた社会党浅沼委員長刺殺事件がある。これは前年の浅沼訪中団訪中時に北京で発表した「アメリカは日中共同の敵」なる発言が、犯人の右翼少年を刺激して生じたとされる。件の少年は逮捕後、自殺した。
近年も、2002年10月に民主党の石井絋基議員(成城学園中学高校から中央大学に進み そこで自治会委員長のあと早稲田大学院 さらにモスクワ大学留学 奥さんはロシア人と本人の経歴はユニーク。その後は政治の世界に入っている)が自宅前で刺殺される事件が起きている。これは石井議員の国会での質疑や追及が関係しているとされる。その原因についての解明は不十分だが、言論封じであることは間違いがない。インドやパキスタンの事件をまったく他人事といえる状況でもない。
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