Entrance for Studies in Finance

マツダ、東芝、富士通(09-01-18)

 マツダと東芝は、それぞれフォード、サムソン電子の動きによって、自らの戦略見直しをせまられた。戦略見直しの主導権は、このようにこちらにいつもあるわけではない。だとするとこのような予期しない変化に対応するには、企業は戦略の変更余地を常に残す必要があるのだろう。

フォードのリストラにより自立を迫られたマツダ
 2年にわたり赤字で、大幅なリストラを展開中の米フォードが傘下のマツダの株式の売却を検討を始めたことから(08年10月11日報道)、フォードとの相乗効果を前提にした事業展開・商品化を行ってきたマツダは戦略の見直しを迫られるようになった。

フォードは1979年にマツダに初めて出資。1996年には経営危機にあったマツダに33.4%を出資。工場閉鎖や人員削減により06年3月期には累損を解消した。マツダとフォードは売上ではマツダが4分の1。しかし利益では、フォードが08年4-6月期で86億ドルを超える巨額赤字。これに対して09年3月期のマツダの見通しは1100億円の黒字になり数字の上では両者の関係は逆転している。フォードはこの間、手元資金の流出に苦しみ、傘下のジャガーやランドローバーをインドのタタ自動車に売却しているがさらにマツダ株処分に至った。傘下のボルボについても売却の観測が流れている。

 株式の売却交渉のあいては、デンソー、住友商事、伊藤忠商事、損保各社など。
 しかしマツダはもともとトヨタやホンダ(36%)に比べて自己資本比率が低い(08/06末26%台)。自力でその増強は可能か。
 また欧州・タイなど新興国で好調だったマツダの成果はあくまでフォードとの相乗効果だった。フォードから離れてどうなるか。
2008年11月18日にマツダが発表したところでは、フォードは保有株33.4%のうち20%程度を約520億円強で売却する。マツダが6.87%を取得(179億円)。残りを取引先(広島銀行 日本生命 三井住友海上 三井住友銀行 損保ジャパン 山口銀行 住友商事 伊藤忠商事 丸一鋼管 日本興亜損保 中国電力 パナソニック デンソーなど)が引き受ける。フォードは筆頭株主として業務提携関係を維持するというもの。
 フォードとマツダは米国と中国で合弁生産を行い、フォードの小型車戦略の要がマツダの関係。マツダは、フォードとの提携維持を優先したことになる。フォード抜きで海外展開が可能か。自己資本の充実はどうするかなど課題は多い。
2008年12月1日 フォードは傘下の高級自動車事業ボルボ(スウエーデン)の売却の検討に入ったことを公表した。米政府から金融支援を引き出す上で、自助努力の姿勢は不可欠(その後12月8日にフォードは短期のつなぎ融の要請はしないとして短期の資金繰りには問題がないことをアピールした)。

半導体価格急落にゆらぐ東芝の半導体死守戦略
 他方、東芝(半導体の世界売上高4位 NAND型フラッシュメモリーでは世界2位27.5% 08.4-6)は韓国のサムソン電子(世界の半導体で2位 NAND型フラッシュメモリーでは42.3%で世界首位 08.4-6)が、米サンディスク(東芝にとって99年以来の友好的関係 資本提携先にして顧客 NAND型フラッシュメモリを使うメモリーカードで世界首位29.6% 2007)に買収提案を行った(08年9月58億ドル)ことから(08年9月17日 1株26ドル 総額58億5000万ドル 背景にはIT株の株価低下がある )、サンディスクのとの合弁事業である三重県の工場設備(東芝の四日市工場内 形式に両者の折半所有)の一部買収を決めた(08年10月18日報道)。設備の買収割合は、当初7割以上と報道されていたが、結論では65%。金額は1000億円超(08年10月22日合意)。
 これはサムソンによるサンディスク買収成功に備えて四日市工場死守の姿勢を示したもの。しかし反面、市況が崩れているときに巨額の支出となる。しかし合意はサンディスクがサムソンへの抵抗意思を表明したともいえる。

 サムソンにしても、半導体市況の急速な悪化(半導体メモリーは08年10月までの1年間に5分の1から7分の1に低下)を背景に、業界の再編に乗り出したとみられるため、この東芝の動きは意味は大きいのかもしれない。ただ狙いとしてサンデシィスクへの技術使用料を節約する狙いとも伝えられる。

 2007年から2008年にかけてサムソンの半導体、液晶パネル、携帯電話などが軒並み業績が悪化しているため、サムソンの台所は厳しく買収の実現を疑問視する声もある。サムソンによるサンディスク買収は、サンディスク側が過小評価として拒否しなお交渉は続いた。
 2008年10月22日、サムソン電子は買収の撤回を発表した。

 背景にはウオン安や株安の進展がある。

 ①08年6月末で6兆3800憶ウオンの現金は当時のレートでは58億5000万ドル。しかし10月22日のレートでは14億ドルもの差損発生。自己資金だけでは実行できなくなった。
 ②10月24日発表のサンディスクの7-9月期決算 1億5500万ドルの赤字。企業価値が低下している。
 ③四日市工場設備の一部の東芝に売却するなど抵抗姿勢を示している。
 ④10月24日発表のサムソン電子の7-9月期決算。主力の半導体メモリー。液晶パネルで市況悪化。営業利益1兆200億円(前年同期比50%減1兆200億ウオン)

 DRAM、フラッシュメモリーとも2008年初から9月末までに約4割値下がりしている。販売が思ったほど伸びないなかで次世代商品開発の投資が膨らんでいる。

08年9月29日の発表によると東芝は09年3月期の半導体事業の営業損益を900億円の黒字から650億円の赤字へと1550億円も下方修正したが、09年1月に入ってからの見通しでは赤字は2000億円を超える状況になっている。

東芝08年12月16日までに四日市工場でのNAND型フラッシュメモリー生産の減産。年末から1月にかけての北九州工場、大分工場、四日市工場の稼動停止を発表した。投資規模の大きな半導体工場の操業停止は異例で、今回の需要低迷が極めて深刻であることを示している。減産に先立って東芝は、生産コスト引き下げのため、08年10月までに、老朽化した四日市のLSI旧生産ラインの閉鎖し、大分工場への生産の移管。半導体組み立て工程の海外生産比率を現在の3割から1年以内に6割にまで引き上げること、などを決めている。


東芝は2008年12月26日の西田厚聡社長の記者会見のなかで2009年春に着工を予定していた四日市新工場の着工、岩手県北上市の新工場の着工の延期を明らかした。

他方で東芝は富士通のHDD事業買収で富士通(小型HDDのシェア16%)との交渉を急いでおり、09年1月内の合意が予想されている。
これにより東芝(17%)は小型HDD分野で優位(33%)に立てる(現在の首位は日立23% 米ウエスタンデジタルは22% 08/1-9)。

電機メーカーの間では採算が悪化するなかで大量生産でコストをさげることを狙った業界再編が続く。

富士通は企業向け情報システム事業へシフト
之より先に富士通は、ウエスタンへの売却交渉の断念を明らかにしている(08年12月26日)。HDD事業分野は成長しているものの次世代技術の開発負担が重く、富士通は同事業の売却をかねて望み、2008年10月にはウエスタンと交渉中であることを認めていた。

富士通は、半導体事業部門の収益悪化を見越して内外で情報システム事業への経営資源集中を進めており、03年には業務用プリンター事業をフジゼロックスに譲渡。05年には液晶パネル事業をシャープに、またプラズマパネル事業を日立に売却するなど事業の選別、再構築を急いでいる。

他面で富士通は、ドイツシーメンスとの欧州コンピュター合弁事業を5億ユーロをかけて富士通の完全子会社にすることでシーメンスと合意した(08年10月末)。低価格サーバーの開発拠点も欧州に動かすとのこと。採算の悪化している個人向けパソコン事業からの撤退する一方、海外で企業向けコンピュータ販売へ特化する戦略とみられる。

Written by Hiroshi Fukumitsu. You may not copy, reproduce or post without obtaining the prior consent of the author.
originally appeared in Dec.4, 2008
reposted in Jan.18, 2009

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