にわかに「本を置かない図書館bookless library」が現実味を帯びてきたのではないか。
この2010年5月に計画を明らかにしたのはスタンフォード大学の工学部図書館。以下のレポート記事、で工学部の学生たちが、紙の本に未練を感じていないとの記述は衝撃的だった。
"Stanford University prepares for amazing bookless library," Mercury News Com., May 19, 2010
"Stanford University Library going bookless library," Blogs Sacbee Com., May 21, 2010
2009年に図書館界で話題を呼んだのはCushing Academy(in Massachusetts)というprep schoolの図書館Fisher Watkins Libraryがbookless化を宣言し実行したことだった。読書に親しんでよいprep schoolでたかだか2万冊程度の本さえも放逐してしまったというお話なので少し疑問を感じないではない。
Say good bye to the books, Boston Com, Sept.9,2009 これはcushing academyで起きた事態についての詳細なレポート。本が学生によって利用されていない実態や、学生がこの措置を批判していないこと、学校側が経費をかけて学習センターを整備したことを紹介している。この学校の学生のレベルが、問題なのかもしれない。
これに対して以下はCushingに批判的な記事を載せている。資料のオンライン化のプラス面(アクセスの容易さや原資料を傷めないこと)の反面、オンライン化では多くの情報が失われることと、多くの人がなお紙の本を好むことなどを指摘している。しかし他方ではCarnegie Mellon University LibraryでレファレンスブックにeBookを購入していることも記しており、著者の立場ははっきりしないが、バランスの取れた記事といえる。Carnegie Mellon University Library going to online@your library, Nov.17, 2009
なおアメリカでは紙の書籍の売上が落ちるなかで電子書籍売上が急上昇している。2009年の売上高(米出版社協会AAP)は書籍全体が238億5500万ドル(2%減)に対して、電子書籍は3億1300万ドル(2.8倍約290億円)。iPADの登場で電子書籍が2010年に劇的に増加することは間違いない。
日本も、傾向は同じである。書籍・雑誌の推定販売額(出版科学研究所 2009年)は1兆9356億円(4.1%減)。書籍は8492億円(4.4%減 返品率は40.6%)。雑誌は1兆864億円(6.9%減)。電子書籍市場は464億円(2008年度 2007年度の355億円に対して1.3倍)で漫画が中心で大半は携帯電話経由であり、米国とは少し内容が違っている(インプレスR&D調べ)。
日米とも今後、電子書籍市場の急激な拡大があるとみてよいだろう。確かに紙の書籍は一度に無くなるわけではないが、急速に減ってゆくことはすでに見えている。また電子媒体を通じた情報が急激に拡大している。すでに電子媒体を通じてしか得られない情報も増えている。図書館は、この事態に対応する必要があると私は考える。つまりbookless libraryの登場は、このような状況を先取りするものでlibraryの一つのあり方として実はなんの問題もないと考える。
ただし紙の本の生産販売がなお続いており、多くの図書館は、紙の本と電子媒体情報の両方のサービスを提供するhybrid libraryの方向を目指すことが当面現実的ではないか。紙の本の比重がどれほどのスピードで減少するかは判断がむつかしいが、紙の本が減少してゆくことは間違いない。紙の本にしがみついてこの変化に対応しない図書館が生き残ることはむつかしいだろう。
電子化と図書館
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