Entrance for Studies in Finance

企業活動と税制 法人税・移転価格税制など

企業活動と税制


経済団体では財政再建に向けての消費税率の引き上げと国際競争力を強化するための法人税率の引き下げを並べて主張している。たとえば経団連は現在約40%の法人税実効税率を国際水準の30%まで引き下げを主張
消費税率については10%台後半かそれ以上が安定財源確保のため必要と主張
経済同友会は35%に引き下げを主張 消費税率については17%まで引き上げるとしていた

消費税の引き上げと復興特別法人税の前倒し廃止の決定(2013年9月19日)
安倍政権は2014年4月からの消費税8%への引き上げ(税収増8.1兆円 厚生年金と国民年金の保険料引き上げも
同時に実施 合わせた国民負担増は約9兆円)を決断(2013年9月19日)。
1997年4月に5%に引き上げられてから17年ぶりに
2014年4月から上げられることになった。これには景気押し下げ要因になるとの批判が
根強い。そこでまず政府内で増税慎重論を議論して過程を経て決断を装うとともに
5兆円超 引き上げの2%分に相当する経済宅策を指示して景気腰折れを防ぐとした。また法人実効税率の引き下げについては2014年度までの3年間 2011-14年度 復興特別法人税10%の上乗せされているものを、1年前倒し廃止を合わせて実施するとしている。これが実行されれば実効税率は35%台に下がる(法人税を支払うのは黒字企業のみ 企業全体の3割28% 資本金1億円超の黒字企業は54% この1億円以上の企業54%で利益全体の6割を稼いでいる 東京に本社がある場合 国税26.08% 地方税11.93% 合計38.01% 復興特別法人税が廃止されれば35.64% 減収は約8000億円とのこと)。
また15年度以降の法人実効税率のさらなる引き下げも検討するとのこと(中長期課題として棚上げの可能性で財務省を説得か?)。なお法人実効税率に引き下げによる減収は1%で4000億円とされる。

法人税率引き下げ論
現在の地方税を含めた実効税率は40%超(40.69%)
米国は約40%で日本と似ている。英国28%、ドイツは約29%。OECD30ケ国平均は26.3% アジア太平洋諸国で27.49%。韓国は20%台前半。中国も20%台
主要国は26%(海外の水準は25%から30%の間 EU野主要15ケ国では1995年から2007年にかけて実効税率が38%から29%に低下)。
この現状を放置しておくと企業・雇用の海外流出(付加価値の流出 税収の減少の悪循環)が避けられないとの指摘。
さらに積極的に外資に来てもらうためにも引き下げるべきとの主張もある。民主党政権下で
 管首相 法人実効税率の5%引き下げを指示(2010年12月13日)
2010年にまとめられた2011年度税制改正。法人実効税率を
現在(当時)の40.69%から5%程度引き下げるとする。他方で減税償却制度や欠損金の繰越控除見直し。
 その後 東日本大震災からの復興のための臨時増税案が入る。減税を先送りする実効税率を5%引き下げたあと、ふたたび2.4%引き上げる案(その後 引き下げ幅を4.5%に圧縮。3年間の臨時特別税。2012-14年度までの3年間の特別措置。法人税額の10%を復興特別税として上乗せに変更。)。この結果 法人税率は30%から25.5%に引き下げ。その10%、2.55%の復興特別法人税が加わり28.05%。
 これに地方税の法人事業税などを加味した実効税率は38.01%.

 2012年度の法人税の税収8兆8000億円(見積もり 1989年度の半分以下)。2010年度に法人税を納めた企業は全体の27%(欠損法人が73%ということ。欠損金があって利益がなければ納税しないでよい。2006年は欠損法人の比率は66%台まで下がっている。その後上昇。2009-2010年度は73%ほど。納税額の65%は資本金が1億円を超える大企業が支払っている。グローバル企業は利益を法人税率の低い国で計上する誘惑が働く。キャッシュフロー確保戦略の一つ。=グローバル・タックスプランニング。連結決算の企業は国内が不振の場合、連結決算の数値がよくても国内で法人税を納めない場合がある。)。

このような引き下げ論は、未来志向型=pre-active typeの政策が不足しているとの議論も背景にある。
プリアクティブ(未来志向型)
リアクティブ(事後対応型)
 
2015年11月までに2016年度(2016年4月)から29%台に引き下げる方針が固まった。その財源としては資本金1億円以上の企業を対象に外形標準課税(既に法人事業税の37.5%について導入。予定の50%ではなく62.5%に引き上げる これにより赤字企業の負担は増し業績好調の企業は減税にして稼ぐ意欲を高める税制になったと説明している)の拡大。そして政策減税の見直し。例 減価償却の定率法適用範囲の縮小。2013年度の法人実効税率は37%。すでに2015年までに5%引き下げ済(現行32.11%)。これを2016年度に20%台(29.97%)にする。(米国40.75% ドイツ29.65% 韓国24.2% 英国20%・・・ドイツ並み)2017年4月から消費税が10%に引き上げられる、合わせて軽減税率)税率除く全食品 外食除く 1兆円規模の財源必要 外食の定義はイスがあえるrこと・・・立ち食い寿司は? 屋台出前は軽減税率か。最初の4年間は簡易課税方式。その後は21年4月からインボイス方式へ)導入。2020年度 基礎的財政収支の黒字化を目標を堅持。
 
売り上げ高5000万以下の企業に対しては、売り上げを推計して納税するみなし納税認める 大きな企業にはインボイス方式導入。
中小企業向け税制 資本金を1億円に引き下げる企業 増える
 
税率がすべてだろうか
しかしどの国で事業活動をするかについてはさまざまな要因がある。税率がその要因の一つであることは間違いないにしても。

法人税の高さと経済活動
法人税率が日本が高いと国際的に業務を展開している企業では、利益を国内に還流させなくなると考えられる。このことは結果として国内投資の減少にもつながる。
なお日本企業の活動は海外では米欧より新興国にシフトしている。米欧の景気減速に加えより新興国の成長スピードが早いことが背景。日本の主要メーカーの間では2008年春には米欧との比較で新興国が逆転したとみられる。

企業は法人税率の低い国で活動する、つまり利益を稼ぐ傾向を強めている。税率の低い国で資金を運用する例(たとえばHOYAはオランダで資金運用していた)。税優遇措置がある国で工場建設。税率の低い海外事業の割合を高めることで税負担率を引き下げている。

海外子会社からの配当の実質非課税化(09年度税制改正)
日本に還流させないことで課税を逃れる(税負担率が結果として下がる。つまり企業は自分で税率引き下げを行える)。企業が利益を国内に還流させないことに対応して、25%以上出資している海外子会社(+株式保有期間6ケ月以上)から受け取った配当の非課税措置が導入された(2009年4月から海外子会社などから受け取った配当の95%を非課税扱いとした)。海外利益が日本の戻り国内投資に振り向けられることを促す。2009年度税制改正で導入。海外で稼いだ資金を実質非課税に日本に還流できるようになった。
国内の設備投資や株主への配当を増やす効果が期待されている。なお円高の進展が見込まれるときは、円高となる前に資金還流させようと企業は還流を急ぐとされている。このような還流は、企業決算を改善する効果がある。

移転価格税制
このような海外利益の国内還流は、税務当局がそもそも課税に熱心でない部分なので問題は少ない。しかし親会社と海外子会社との製品・部品の取引をめぐり、不公正な価格取引のよる所得の移転の有無を問題ではそうもゆかない。
日本の税務当局は海外への所得の移転を、逆に海外の税務当局は日本への所得の移転を問題にする。企業は税率の低い国に所得を移転をさせようと価格を操作していると税務当局はみている。日本では1986年に導入。原則として過去3年分が対象になる通常の税務調査と異なり6年分が更生処分の対象になるため、金額が大きくなる傾向がある。更生通知がくるとひとまず払うため一時的に二重課税になる。日本当局に異議申し立てをするか、日本と海外の税務当局に課税権の相互協議を申請できるが解決には時間が必要。
独立企業間価格であったかどうか。
arm's length price(独立当事者間価格 独立企業間価格)
親会社と子会社の間の研究開発コストの負担。親会社に払うロイヤルティ料の大きさなど、税務当局と企業の間で、見解が分かれる可能性があるものは少なくない。税務当局は、人件費や資産規模の大きい側が、収益の貢献度が大きいとみなす傾向がある。企業側は少人数で稼ぐ権益ビジネスの特殊性を主張する。事後的な追徴課税リスクを減らすためには、両国の税務当局に事前承認(APA)を申請することが有効とされている。

タックスヘイブンtax haven税制の見直し(2010年度税制改正見込み)
法人税所得税、利子配当課税を低率あるいはゼロにして外国企業を誘致。他方、外国の税務当局に情報提供をしないことでも投資資金を呼び込んできた地域(ケイマン、バーレーン英領バミューダは法人税ゼロ)。2005年の推定で1000兆円超の資金を集め脱税額は25兆円を超えている(Bricks経済研究所は年間資金流入規模を5兆ドルから7兆ドルと推定している)。欧州のモナコ、カリブ海のケイマン諸島、英領バミューダ諸島などが代表格。
 法人税負担が25%以下の国・地域の海外子会社のあげた利益の一部が日本の本社の国内所得と合算されて日本の法人税がかかる仕組み(例外措置:海外子会社の取引の半分超が非関連会社の場合)。
 脱税防止が目的だが、企業の海外進出を妨げていると批判されている。
 基準税率の引き下げ→20%台前半に(現行の25%基準では必ずしも法人税が安いといえない地域にまで適用されているとの批判が強い)
 例外措置の緩和などが論点
 ①事業基準 主な事業が株式・債券の保有でないことなど
 ②実体基準 本店所在地に事務所などをもっていること
 ③管理支配基準 本店所在地で事業の管理などをしていること
 ④非関連者基準 事業を主に非関連会社との間で行っていること

タックスヘイブンと日本の金融取引との関係
日本では証券化商品や仕組み商品を組成するときケイマンに設ける特別目的会社SPCが活用された。
 また英領バージン諸島に設立されたSPCが上場会社の株式を第3者割り当て増資で引き受ける例も多い。
 単に低い税率を利用することを超えて、SPCの実体を隠す目的に使われないように、監視の強化は不可欠だろう。

欧州では法人税引き下げは見直しへ
しかし法人税率の引き下げがはやった欧州では財政赤字問題の顕在化とともに税率を引き下げ外資を誘致して雇用を維持する経済モデルに疑問の声もでている。欧州における法人税引き下げは足踏み。財政再建が優先との声が高まっている。
税率を引き下げれば雇用・消費も拡大して税収も増えるという楽観論は後退しつつある。

税率引き下げの財源として課税ベースの拡大
法人税率引き下げの財源を、消費税つまり大衆課税でとはさすがに主張できないので、まず法人税の課税ベースの拡大(租税特別措置の見直し)で賄うという議論がおおい。
しかし特別措置の見直しは課税強化になり、企業の海外流出を加速するとの批判があり(法人税引き下げ論とは逆行しており)、仮に見直してもそれだけでは足りないとの指摘も。
なお法人税 5%引き下げるには1兆円必要とされる。 

法人二税の国税移管
 もうひとつのポイントは法人二税(法人事業税と法人住民税)の国税移管である。法人二税が地方税にあることで、地方財政の不安定性と、偏在が強まっている。これを改めるとする議論である。

消費税率引き上げは国民が拒否
 そこで消費税引き上げ論なのだが、国民の間には社会福祉目的税としての消費税という考え方には根強い支持がある。しかし政府財務省は目的税化を嫌って、あくまで一般財源としての消費税引き上げ論にこだわり、逆に国民の多くはこれを拒否している。
 この面での議論の出口はいまのところ見つかっていないのではないか。

1989年 消費税導入(3%) 直間比率見直し 政府は先行して所得減税を実施 87年度と89年度 合わせて約3.9兆円
1997年 消費税税率引き上げ(5%) 期間限定で特別減税
高齢化のため社会保障費が毎年1兆円のペースで伸びる
2010年 参院選 民主党は消費税率10%への引き上げを主張して大敗

Written by Hiroshi Fukumitsu. You may not copy, reproduce or post without obtaining the prior consent of the author.
Originally appeared in July 14, 2010.reupload in Dec.14,2015
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