未公開情報の漏えい 自身は株取引せず 紹介した顧客Bへの融資で損失が発生した顧客Aに対し 損失を補てんする意図で情報を伝達した
Xは1984年に住友銀行入行 2009年10月に日興コーデイアル証券に出向 執行役員としてTOBやM&Aを担当 今回自ら担当しているTOB情報を流出させた。情報伝達だけで刑事責任を追及された「めずらしいケース」。2011年9月に証券取引等監視委員会が強制調査。2012年春出向解除。社内調査で別の顧客情報漏えいが判明して5月23日付けで三井住友銀行解雇。5月25日に横浜地検が金融商品取引法違反容疑で逮捕。
⇒報道によれば、Xは出向してまもなくからTOB情報を直ちに顧客Aに流す行為を繰り返していたようだ。担当企業の顧客情報を守るという意識が全くないようだ。そういう人物が法人取引統括部副部長まで昇進していたことは驚きだ。またこのような日興証券の社会的信頼を汚す行為であること、証券取引における公正を損なうことだということもわかっていない人物を日興証券の執行役員とする三井住友銀行と日興証券のでたらめさもひどいものだと思える。考え方によっては証券会社に出向することを利用してTOB情報を自身の知人に垂れ流して続けたわけで厳しい処分が望まれるところだ。
この件とは別にSMBC日興では2009年のメガバンクの増資にからんで、社内手続きを経ずに情報を得た営業担当役員が情報を65の営業店に伝達。一部の営業店は未公表の増資情報を顧客に伝えて勧誘するという重大な金融商品取引法違反行為があった。このほかにも未公表の増資情報が営業部門に流れていたケースが判明しており、同社の増資情報の扱いに問題があることは明白だ。問題は、こうした情報の扱いは、一見顧客の利益にかなっているように見えるが、一般の投資家の利益とは対立しており、市場の公正さに反しているということだ。また場合によっては、同社と取引のあるほかの顧客の利益に反することだ。増資情報が社内に出回ることは、防ぎようがないだろうか、その扱いは厳正にするべきだろう。
なおTOBに絡んだインサイダー事件としては2012年12月7日に西友の社外取締役の夫が証券取引等監視委員会によって刑事告発された事件がある。これは西友に対するウオルマートのTOB情報を妻である社外取締役から得た夫が西友株を購入。売り抜けて巨額の利益を得た事件。事実関係は明らかになったものの共犯関係は認定されず、この社外取締役はなんら責任を問われなかった。企業内で立場で得た重要情報を家族に安易に伝えることは、そもそも犯罪だと思える。
増資インサイダー事件(2010年夏ころから話題 2011年春証券取引等監視委員会調査開始 2012年3月摘発始まる)
増資インサイダー事件は、増資に伴う株価の下落を利用した事件(背景にただ値段がさがるだけ、利益成長に結びつけるかを説明するエクイテイストーリー不在の増資の横行が背景)。公募増資情報を得た投資家は空売り(増資発表前に不自然に下落)。そのあと、増資によりさらに低くなった新株を得て、貸株を返済して利ざやを得るというもの(2011年春から証券取引等監視委員会は調査を開始 2011年12月 金融庁は増資銘柄に空売りを出した投資家には新株の割り当てを禁止した しかし市場で選らば問題はないわけだ)。
2012年3月21に証券取引等監視委員会が金融庁に対して中央三井アセット信託銀行に課徴金を科すよう勧告した事件は興味深い。中央三井のファンドマネージャーが主幹事(野村證券)の営業社員から公募増資情報(国際石油開発帝石 2010年7月に実施 発表の3日前から空売り目立つ)を得て増資発表前に空売りして、担当する海外投資家向けファンドに利益をもたらしたというもの。このファンドマネージャは証券会社から、接待と贈答漬けになっていたが(はしなくと証券会社と資金運用者側の間の実態が明らかになった)、そうした癒着関係の中で情報提供がおこなわれたとすれば、問題は深刻である。関係者を厳しく処分するとともに、事件の再発を許さない体制作りが、証券会社と信託銀行の双方に必要だろう。
しかし増資インサイダー摘発はその後も続いた。みずほFGの増資(2010年6月)にからんで旧中央三井アセット信託銀行ファンドマネージャー(情報漏えい元は野村證券)。また同じ5月に日本板硝子の増資(2010年8月 8月24日に取締役会決議数日前に株価下落 発表の1-2週間前からヘッジファンドが大量の空売り 9月に増資実行)にからんであすかアセットマネジメントファンドマネージャー(情報漏えい元はJPモルガン)。以上の関係者の行為がインサイダー取引にあたるとして、2012年5月に証券取引等監視委員会から金融庁に課徴金の勧告が行われている。
今回、主幹事証券でありながら、インサイダー情報の情報源となった野村証券に対する風当たりは強く厳しい処分を求める声がある。
このように国内金融機関への摘発が進んだ反面、東証一部の取引の主体をなしている海外ヘッジファンドの行為の解明、摘発に進まないのは片手持ちという指摘がある(2012年6月8日 証券取引等監視委員会が、2010年9月29日の東京電力による公募増資に対し行った、課徴金納付命令の勧告などは、海外投資家を直接処分対象とする初めてのケースとして注目される。東証一部の委託売買の7割を占めるに至っている海外投資家)。
なお一般に公募増資前の機関投資家向けプレヒアリングが、増資情報をまきちらす場所になっているとされ問題視されている。対策としては、規制と厳罰化が考えられる。
ところが規制強化(たとえば規制を2次情報受領者にまで拡大すること)について取引が萎縮するとの懸念を、インサイダー情報元の野村の関係者が発言している。しかし不正が横行する市場を存続させ繁栄させる必要はもとよりないだろう。
「野村ホールデイングスがインサイダー情報漏えいの再発防止策を公表」『金融財政事情』2012年7月9日, pp.8-9
「米ヘッジファンドグループ、インサイダー取引で処分勧告」『金融財政事情』2012年7月9日, p.9
「情報漏えいした野村証券 主幹事の責任は重い」『エコノミスト』2012年7月3日, pp.15-16
「SMBC日興の元執行役員ら インサイダー容疑で逮捕」『金融財政事情』2012年7月2日, p.8
「証券取引等監視委員会が増資インサイダーで海外投資家を摘発」『金融財政事情』2012年6月18日, p.8
インサイダー取引の禁止(2010年12月)
金融機関からみのインサイダー取引事件摘発続く(2012年)
増資インサイダー事件
証券市場論 前期 証券市場論 後期 現代の証券市場 証券市場論リンク
最新の画像もっと見る
最近の「Securities Markets」カテゴリーもっと見る
最近の記事
カテゴリー
バックナンバー
人気記事