Entrance for Studies in Finance

クロッシング・ネットワークとダークプール

ATS, ECN, crossing networks and dark pools

Hiroshi Fukumitsu


 議論の焦点は時期により変わっている。機関投資家の台頭により証券市場は機関投資家のニーズに対応することを迫られたが、そのニーズとしてマーケットインパクトコストの最小化と匿名性とがある。前者への対応として登場するのが、もともと大口商いを市場外で処理する方法として存在した「クロス商い」(クロス取引)をシステム化したクロッシングネットワークである。これは市場で成立した値段(情報)を利用して、大口の売買を付け合せるもの。その延長上に、注文情報を取引終了後につまり事後的に開示するダークプールがある。市場ではその瞬間瞬間に注文情報が公開されているが、ダークプールではプールの外からは、事後的に取引がおこなわれたことが確認できるだけである。このようなネットワークや、プールは、取引所自身が提供する場合も、証券業者がビジネスとして提供する場合もある。背景にある問題は、市場の主たるプレイヤーとして機関投資家が成長してきたこと。規制が緩和され市場集中の原則が否定されるようになったこと(市場を分散することが認められるようになったこと)、取引が高速化していること(注文速度・売買執行速度)などである(2018年8月5日追記)。

1990年前後の議論-私設取引システムproprietary trading systemの台頭
 当時は株式市場を、伝統的な取引所stock exchanges;店頭市場over the counter markets;場外市場off board markets;機関投資家間市場PTS:proprietary trading system というように分けた。そして伝統的なかつ公的な取引所に対して私的な市場(私設市場proprietary markets)の台頭を問題にした。後述するInstinet of 1969やPosit of 1987がこのPTSの代表的なものであった。

2000年前後の議論-ECNかどうか
 伝統的取引所traditional stock exchanges(立会取引floor trading)から電子取引所ECN:electronic communication networksの分裂が生ずるのは1960年代末(1969年に登場したinstinetは機関投資家間の直接市場)。そしてcrossing networkの議論が登場するのは1980年代後半である(1987年に登場したpositはcrossingの市場だった)。
 1997年にSEC米証券取引委員会は、PTSに代えてATS:alternative trading systemという名称を採用し、その後1998年にかけて、SECは規模の大きなATSに対する規制を強化した。そしてATSのうち、価格発見機能をもつものをECNとした。
 論点の一つは台頭するATSに対して、これを規制対象に加えるということである。またもう一つは、証券市場の中に価格発見機能のある市場のほかにそれがない市場crossing marketsが生まれてきたことも意識されてもいた。

2010年前後の議論-dark poolsへの関心
 価格発見機能を持たない市場にはcrossing networksのほかにdark poolsがある。機関投資家側の市場インパクトコストを小さくして、売買を執行したいとする二―ズへの対応として、まずcrossing networksが1980年代後半に登場。続いて、より匿名性の高いdark poolsが登場したのではないか。
 crossingとdark poolを同じものだという解説もあるが、crossingとdark poolsの違いを言えば、crossingではまだその市場に入れば互いの注文は見えたのだが、darkになるとそれも見えないという言い方がある。情報の漏れを嫌い匿名性をそこまで徹底させているのがdark poolだといえる。dark poolとは、匿名性が高いまま流動性が提供される場だといえるだろう。
 このdark poolsへの関心こそ2010年前後の議論を特徴付けるものではないか。

crossing networkとdark poolsに共通した特徴は、市場の本来の機能である価格発見機能を既存の市場に任している点にある。両者に共通する目的はmarket impact costの最小化である。これらのルートを通じた取引が増えると、既存の価格発見機能を担う市場で形成される価格情報の質が低下することは矛盾だといえる。
(cf.F.J.Fabozzi, Institutional Investment Management, John Wiley & Sons, 2009, p.137)

crossing networks
取引所や公開される気配値を表示するECNのように、その取引内容を開示する市場を経由することなく電子的に売買注文の付け合わせを執行する代替的取引システムのこと。匿名のままであるが注文の銘柄と取引量は、crossing networkのそのほかの参加者には示される(システムの中では自動的に条件に合う投資家を探して交渉できる)。crossing networkの特徴は、大きなブロック注文を公開されている気配値に影響させることなく執行できる点にある(cf.Wikipedea)。ポイントは売買を執行する価格について既存の取引所で成立しているものを利用している点にある(終値を使うとか加重平均価格を使うとか、決定方法はいろいろありうる これが価格発見機能がないとされる意味である)。
crossing network
Posit, Instinet Crossing, Nasdaq Opening and Closing Crosses
posit market place1987年
ITG Posit:timed crossings for the buyside to buyside only
liquidnet about us2001年
LiquidNet:for the buyside to buyside only
Pipeline:for the buyside to buyside block business only

dark pools of liquidity
dark pools of liquidity(darkpools or dark liquidity)とは注文帳に表示されない(つまり姿を見せない)流動性を提供するcrossing networksのこと。このシステムは大量の株式を自身を明らかにすることなく動かしたいと思っている取引者に便利である。dark liquidity poolsは、機関投資家に対して自らの活動を他人の目にさらすことなく、取引所の公開されている指値注文帳に基づいた取引と連携する効率性の多くを提供している。dark poolsは全国統合テープに記録されている。しかし店頭取引として記録されている。それゆえ量や取引タイプについての詳細な情報は、顧客が望むなら報告できるようにそのcrossing networkに残されている。またそのことは契約上の義務でもある(Wikipedea)。ここでも執行価格は、既存の取引所に依存していることがポイントになる。

GoldmanSachs SigmaX
Credit Suisse's CrossFinder

Alternative Trading System
 取引参加者にとり取引所に代替する取引システム(参加者の売りと買いの注文がつけあわされる場所)をいう。当初は私設取引システムproprietary trading systemと呼ばれた。1997年に米証券取引委員会はコンセプトリリースを出し、この名称をAlternative Trading Systemに変更し、そのうち価格発見機能をもつものをECNsとした。
(日本証券経済研究所『図説 アメリカの証券市場2009年版』p.108)
現在、ATSは上場公開されている証券取引の流動性(取引)のかなりの割合を提供するようになっている。取引所自身も対抗上、このようなシステムを提供するようになっている。1998年にSECが導入したATS規制は、投資家を守りまたこのATSがもたらした市場の分裂という懸念の解決を意図している。ATS規制はどのATSに対してもブローカーデーラーあるいは取引所としての登録を求め、その取引量が5%を超えたものについては、市場の透明性を高めるためより厳密な記録の保管、報告、規則の順守を求めている。
ATSの中身をECNとそれ以外に分けるというのが現在の私の理解である。ECNは既存の取引システムと接続されていて、代理人(仲介)として働きSECの規制を受けている。ECNは、ATSの中で、取引所に準じた規制監視を受けているもの。ATSの中で取引所と同様に規制に従うものをとくにECNsという(アメリカの場合、ECNは証券取引委員会に取引所あるいはブローカーとして登録しているものという言い方もある)。それ以外のものを、crossing networks or dark poolsなどという。

ECNs
 market makersの注文の執行において売り手・買い手以外の第三者の役割を減らすように企図された電子取引システム。主要な仲介業者や個人投資家を通信回線で結ぶことで、かれらがさらに別の仲介者を介することなく、直接取引することを可能にしたもの(参照investopedea)。なおECNの最初は1969年にinstinetが始めたものだとされる(その後1987年にInstinetはReutersにより買収される)。
 ECNの成長 電子取引であること。NYSEが電子取引のよる売買執行の自動化を取り入れるのはNYSE Directの導入が2001年4月(pilotは2000年12月)。NASDAQのSuperMontageが2002年12月と意外に遅い。こうした事情がアメリカではECNの成長を促した。
このほか。cost savings, speed of execution, desire for anonymity

8 largest equity ECNs in 2000 この8つでNASDAQの3割近くまで成長 背景:電子取引システムでなかった 指値注文できなかったなどNASDAQ市場の欠陥
Instinet(INET:owned by Reuters)
Island(owned by online broker Datek)
Tradebook(owned by Bloomberg)
Archipelago(ArcaEx)
Brut{SunGard:Nasdaq and small capitalization stock}
Attain{specializes in NASDAQ stocks}
NexTrade{specializes in NASDAQ stocks}
Redibook{Nasdaq and American Stock Exchange issues}
Cf.Eric Banks, e-Finance, John Wiley & Sons, 2001, p.72.

5 major ECNs in 2007
Instinet(INET)
Bloomberg(TradeBook)
Archipelago(AecaEx)
SunGard(Brut)
NASDAQ(SuperMontage)
Cf.Kendall Kim, Electronic and Algorithmic Trading Technology, Academic Press, 2007, p.75.

ECNの状況は国によって違う。同時期のロンドンではつぎのようなECNの名前があがる。
Fxall (founded by HSBC, Goldman Sachs, Morgan Stanley, Credit Suisse, Bank of America, JPMorgan Chase and UBS)
FX Connect (owned by State Street)
Currenx (backed by Barclays Capital)
Essvale Corporation, Business Knowledge for IT Investment Banking, Essvale Corporation:2006, pp.30-31

 Nasdaq market 取引シェア 4割;3割;2割 
Nasdaq自身のauction market化(SuperMontage since Oct.2002)
 Archipelago+Redibook→ArcaEx(+PCX)
Instinet+Island→Inet

 1998年   Regulation ATS of 1998
2000年5月  Rule 390 was rescinded;stocks listed on the exchange were freely tradable in the OTC markets  
2000年12月 NYSE launched NYSE Direct+
2005年   Regulation NMS of 2005
 2005年4月  NYSE decided to merge with Archipelago H.Inc.
 2005年4月  NASDAQ announce a agreement to purchase Instinet Group Inc.
2005年12月 NASDAQがInstinet G買収を完了
 2006年1月  BATS ECNが業務開始
 2006年3月  NYSEによるArchiperago買収が完了。ArchipelagoはNYSE Arcaに名称変更。
NYSE Aeca:the first all-electronic stock exchange in US
 2006年6月  NYSE Group and Euronext N.V. announced a merger
 2006年8月  NASDAQが国法証券取引所として業務開始
 2007年4月  NYSEとEuronextの経営統合が完了 
 2008年1月  NYSEがAMEX買収を発表
 2008年10月 NYSEがAMEX買収を完了
 2008年11月 BATSが国法証券取引所として業務開始
 2010年5月  Direct Edgeが国法取引所として業務開始 
 (日本証券経済研究所『図説 アメリカの証券市場2009年版』p.121ほか)

(日本)
1999年4月30日 東京証券取引所 立会場廃止 コンピューター取引に移行
市本博康 取引所取引の現状について金融庁 2009年7月22日 取引所取引(立会内取引+Tostnet)と所外取引 所外取引も自主規制機関(証券業協会)に売買高等は報告。PTSは最良気配値、数量が開示される。Crossingでは気配とか注文数量は開示されない。所外取引は取引所取引の1割程度の大きさに達している。

(以下は米国)
SEC, Concept Release on Equity Market Structure, Release No.34-61358 BATS, Direct Edge
BATS about, memebershipなどを検討、参照 membershipでありNYSEと十分競合していること ECNsの一つ。2005年6月でkansasでBetter Alternative Trading Systemとしてスタート。2009年前半にはNYSE, NASDAQにつぐ第三位の取引所として浮上。
Direct Edge set to become 4th US stock exchange, March 12, 2010 Reuters 取引のplatformを提供していたdirect edgeがSECから取引所としての承認をえた。別のいいかたではそのplatformを取引所に転換することになった。その取引開始は2010年5月。direct edgeの出資者にはgoldman sachsやJPMorganがいる。

大崎貞和株式市場間競争と日本市場の課題 金融庁2009年7月22日
island ecn
NYSE arca
NYSE extended hour trading:portfolio crossing system
東証 tostnetTostnet 解説 1998年導入 Tostnet 1
Tostnet 2

regulation NMS of 2005 (wikipedea)
regualtion NMS (ivestopedea)
2005年のこのルールは、多数の市場の併存を最良気配値での執行を回避をしてはいけない(the order protection rule or the trade through rule)、その場合のアクセスフィーは一定の上限(目安は0.3%)を超えていけない(the access rule)、などの条件を課している。
 trade through ruleと矛盾した名称がつくのは、trade throughに関するルールという意味でもあり、またorder protection ruleの例外が、一定の条件(十分な情報が与えられ同意している、一定の価格差に納まっている)のもとにみとめられていることにもよる。以下を参照。
 大崎貞和「レギュレーションNMSについて」資本市場クオータリー(野村総合研究所)Spr.2004
 こうしたtrade through問題(最良気配値で売買が執行されないこと)は、市場の分裂が生じて以来、繰り返し問題にされてきた。これに対する対応として一方では売買情報を統合すること(NMS national market system)、そしてもう一つがこのルールの成文化、適用の方法が問題になった。最初の成文化は1981年のことである。

regulation ATS of 1998
regulation ATS 1998年のATSに関する規制では全取引の5%を超えるをどうかを基準に厳しい規制(最良価格での執行など)に服するかどうかの振り分けがされていた。
proposals on regulationATS by SEC, Nov.2009SECはATS規制の振り分けを5%から0.25%に引き下げる提案を行った。

originally appeared in Apr.28, 2010
corrected and reposted in August 8, 2018
 
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