三菱化学鹿島営業所(茨城県)で国内エチレン生産の6%(三菱化学の3割強)を占める分解炉がやられた。配管のメンテナンス作業中に冷却用油が漏れ引火したとみられる。協力会社(下請け)の4人が犠牲になった。
停止によりコンビナート全体では1日1億円の損害。これは分解炉がコンビナートの基幹設備であるため。三菱では傘下の日本ポリエチレン、日本ポリプロへの供給を停止。両社の生産を停止し当面は在庫で対応する。顧客への供給を優先している。顧客各社でも原料の調達確保に走った。国内メーカーでは国内需要家向けの在庫を増やし、海外向けスポット販売を自粛した。
三菱化学では同業他社に生産・供給の肩代わり・原料のナフサの引き取りを要請した。本来は競合する企業がこのように連携するのは危機への対応のあり方として興味深い。とくに注目されるのは三井化学が、要請に応じて自社のプロピレン稼働率を7割に落として、その原料のブタン・ブチレン留分を三菱化学に融通。需要が逼迫している自動車タイヤ用合成ゴム原料を三菱化学では生産する。他方、三井のプロピレン減産分は三菱化学が他社から調達して三井化学に供給するというもの。
顧客に混乱が広がれば、業界全体に影響が大きいとの判断のもと、三菱の供給に維持に三井は協力したとされる。
また三菱化学では、スポットで内外で買い集めた石化原料を採算度外視で出荷した。このことも企業の対応として興味深い。
しかし各社ともフル操業にあることから、供給余力は大きくない。業界全体の汎用樹脂の在庫は2ケ月程度だが操業再開までには数ヶ月かかる見通し。三菱化学にとっても鹿島営業所の全製品の供給が減り、納期が遅れるなどの影響がでる。三菱化学の生産停止が長引くと影響が深刻化するかもしれない。
在庫の状況は需要家側も同じで2月末までは在庫で対応。しかしその後も長引くという前提で、他社あるいは海外品に代替、海外への生産振り向けを検討。しかし2月に入ると需要家側の中には減産、出荷制限に追い込まれるところも出始めた。
もともと石油価格の上昇、石油化学製品の基礎原料であるナフサの需要が高まり指標価格は上昇していた。その中でのナフサの供給減少で、ナフサは一段と高くなりそうだ。容器とか樹脂とか繊維、多様な製品の供給が減少、それらの価格にも響きそうである。
ただ需要家の側からは供給責任を果たしていないとの不満がある。12月以来の値上げ交渉は、供給懸念が残るうちは需要家の了解を得にくい状況である。
前後に重なった事故⇒生産拠点分散の教訓
阪神大震災(1995年1月17日) 自動車用特殊線材(バネ用線材)で世界シェア5割の神戸製鋼所が被災停止⇒同社はライバルの新日本製鉄、住友金属工業に製品仕様を開示、生産の肩代わりを依頼した。その後兵庫県加古川市の製鉄所にも生産体制整備
この事故の前
信越化学工業直江津工場で爆発事故(2007年3月) セルロース誘導体の供給とまる 医薬品の原料であるため品質要求高い国内シェア9割 世界シェアの3割 全量を直江津で生産 国内約4000種の医薬品に使われ6月までに約400種で生産に影響する恐れ。⇒ドイツに専用設備を新設して生産拠点分散を決断(2007年5月)。なお主力の半導体シリコンウエハーでは最新型の生産を日米4ケ所に分散済み。⇒2007年5月21日生産を一部再開(被害を受けた5施設のうち3施設)。
新潟県中越沖地震(2007年7月)リケンの柏崎事業所が被災 国内シェア5割のピストンリングの供給止まる 全完成車メーカー合計で13万台の減産に陥る 供給責任を果たせなかった(⇒中国の武漢工場、欧州、北米からの供給も想定して品質向上に取り組む)⇒2009年までに主力のピストンリングを5日ー7日分保管できる倉庫を埼玉県と愛知県の2ケ所に設ける(完成車メーカーに1日数回に分けて納入して余分な在庫をもたないモデルを修正)、中国の武漢、米ミシガンからも供給ルート確保、日本ピストンリング、TPR(帝国ピストンリング)など競合他社と製品仕様の統一検討。
松下電池本社工場火災(2007年9月末) リチウム電池一貫生産の拠点(製品供給は在庫でできたものの、松下電器のPCやペンタックスのデジカメ新製品販売に影響)⇒(工場の建物を6つの独立した建物に変更 和歌山工場に新たに生産拠点整備)
この事故の後も災害事故は続いている。
中国四川大地震(2008年5月12日)
岩手宮城内陸地震(2008年6月)
BCP事業継続計画
このような災害時などにいかに被災から迅速に立ち直り短時間に事業を再開できるようにあらかじめ計画を立てることを事業継続計画BCP business continuity planと呼んでいる。そうすることで顧客の流出を防ぎ、シェアの維持を図ることができる。BCPの有無とその内容は企業のリスク管理の意識やレベルを知る上で重要になってきたいる。
化学業界に関する報道
N07/03/24 三井化学 07/03期 営業益最高に
N07/05/11 総合化学大手の前期 三菱以外の4社が営業益最高 三井化学は増益率が56% 三菱ケミは石化や原料炭の在庫評価損があり減益
N07/05/11 鉄・化学 活況続くが原料高 重荷
N07/05/30 化学大手 戦略事業で海外開拓 信越化学 米子会社シンテックで塩 ビ樹脂 三井化学はシンガポールでフェノールに投資 三菱化学は3月 に中国で合繊ポリエステル原料新工場完成
N07/05/30 三井化学 高機能樹脂のプラント新設 60億円
N07/07/05 三井化学 シンガポールに高機能樹脂の大型プラント新設へ。
N07/08/04 総合化学5社 4-6営業益 三菱以外の4社が営業増益 三井の営業利 益は前年同期比50%増の250億円 原料の国産ナフサは上昇続く
N07/08/07 合成樹脂 内外で高騰 需要好調でコスト転嫁
N07/08/11 ナフサ高に対応 石化の原料 転換進む
N07/09/14 ポリエステルフィルム 三菱化学が増産投資 70億円
N07/10/04 合成樹脂、値上げ浸透 ナフサ最高値圏 樹脂各社 需要好調で強気
N07/11/09 三菱化学 ポリエステル原料 減産強化 中国の新工場休止
N07/11/10 総合化学大手5社 9月中間期 三菱以外の4社が営業増益
N07/11/17 三菱化学 高性能LED素材 量産へ 08年度に50億円投資
N07/11/20 合成樹脂が最高値圏 中国など需要旺盛 アジア原油高の転嫁進む
N07/11/23 三菱化学 自動車用樹脂材料の海外生産強化 米国 中国に加え 2008年度にタイで7億円 インドで9億円投資
N07/12/05 大手化学 価格転嫁が進む公算 通期業績に上振れ余地
N07/12/28 メタノール4割値上げ 世界最大手減産続く
N08/01/26 エチレン生産 8年ぶり最高 昨年の国内 中国向け輸出がけん引
N08/01/31 ナフサ 27年ぶり最高値
文献
「詳報 事故は語る 三菱化学プラント炎上」『日経ものづくり』2008/02
Written by Hiroshi Fukumitsu. You may not copy, reproduce or post without obtaining the prior consent of the author.
最新の画像もっと見る
最近の「Financial Management」カテゴリーもっと見る
財務管理論Ⅰ ーレポートを書きながら学ぶー
財務管理論Ⅱ
Richard Luecke, Finance for Managers, Harvard Business School Press:2002
Fujii and Sheehan, Learning MBA Basics in English, NHK出版, 2002
Charles H.Meyer, Accounting and Finance for Lawyers, Thomson/West:2006
P.Vernimmen and others, Frequentry Asked Questions in Corporate Finance, Wiley:2011 No.1
最近の記事
カテゴリー
バックナンバー
人気記事