Entrance for Studies in Finance

りそな銀行が公的資金完済計画を提示(2010年11月5日)

りそな銀行が公的資金完済計画を提示した(2010年11月5日)
 2010年8月末、預金保険法による注入分4000億円返済についてりそなに対して政府は返済時の上乗せの圧縮を認めた(優先株を買い取り返済)。
 りそな銀行は2002年に旧大和と旧あさひが経営統合により設立。しかし2003年に不良債権処理で経営危機におちいり預金保険法に基づく公的資金約1兆9600億円注入を受けて実質国有化された・旧大和 旧あさひにに注入投されていた分(早期健全化法)をあわせ一時3兆円を超え公的資金投入額の最も大きな銀行となった。
 今回の返済で残額は1兆6852億円とピーク時の半分になる(2010年8月末)。りそなは返済を加速するため、2010年11月5日に、今後、最大6000億円の公募増資を行い(2003年の実質国有化後、公募増資は初めて)、剰余金の3000億円を合わせて9000億円の公的資金を返済。公的資金残額を8000億円弱まで減らすとした(最大6000億円の公募増資計画を発表)。またその後5年間で残る7851億円を返済する計画を公表した。市場は邦銀最大の公的資金を抱える銀行の返済計画の明示は評価したものの、しかし大型増資は既存株主には不利となるため批判も出ている。これに対してりそな側(細谷英二会長)は潜在的普通株(優先株)を減らすことは株価低迷を脱するためにも必要、既存株主への配慮として2割の増配を実施すると説明した(2010年11月5日の記者発表)。
 完済計画自体については、今後の収益見通しが甘すぎるとの批判もある。

日本での公的資金の投入問題
 1998年から2003年にかけて日本では金融機関に対して約12.4兆円の公的資金が投入された(これは資本注入策の分でありこのほか整理回収機構を通じて株式や貸出債権の買取が9.7兆円分ある さらに預金者保護のため18.6兆円が投入されたとされる 公的資金の定義により金融危機に際して投じられた公的資金の金額は変わってくる 最近では資本投入額に限定して議論されることが多い)。具体的には預金保険機構が普通株、優先株、劣後ローンなどを引き受けた(1998年3月の金融機能安定化法によるものが最初。その後、早期健全化法による予防注入は 経営破たんを未然に防ぐ趣旨で2003年3月期には23の金融機関に注入 対象金融機関は、返済の進展でその後減少)。
 1997年11月 三洋証券が短期金融市場で債務不履行 
       三洋証券 北海道拓殖銀行 山一証券があいついで破たん
 1998年3月  大手銀行に公的資金注入 金融機能安定化法 21行に総額1兆8000億円の資本注入を実施 各行への注入額は1000億円前後 抜本的な資本増強でなかったことがのちに批判される
 1998 日本長期信用銀行と日本債券信用銀行の国有化(⇔98年3月の資本増強策が失敗) 
 1998年12月 日本版ビッグバン実施
 1999年3月  早期健全化法により主要15行に7兆5000億円の資本を再注入。 
 1999年8月  日本興業 第一勧業 富士の大手3銀行が共同持ち株会社設立 事業統合で合意
 1999年10月  住友銀行がさくら銀行との合併決める 
 2003 りそなHDによる資本注入申請 
2008年12月施行の改正金融機能強化法(中小企業への貸し渋りを防ぐための金融機関への予防的注入)により新たな公的資金注入が2010年3月末までに11件3000億円発生している。
 2009年9月  三井住友FGと大和証券G本社による合弁会社の解散決まる

議論は公的資金返済の在り方にシフトしている
 日本での議論は公的資金の投入がなお散発的に議論されるが、それよりは返済の在り方にシフトしている。
返済に当たっては預金保険機構(金融庁)と協議。注入額に一定額の上乗せ(元本に対し2-3割 優先株の転換価格を株価より高く設定)を預金保険機構は求めてきたが2010年夏以降、この姿勢に変化がみられる。りそなについての上乗せの圧縮はこの変化によるものである。

公的資金による経営の制約とはなにか
 ところで、ではなぜ公的資金からの脱却を急ぐのだろうか。もちろん潜在的普通株式の削減もあるが経営の自由度の回復という面がより大きいと思われる。
 公的資金を受け入れている間、経営健全化計画の策定と提出がもとめられる(早期健全化法)。公的資金を受けている銀行は、金融庁に毎期の最終損益、業務純益、中小企業向け融資残高など経営健全化計画で数値目標を提出(人員 店舗数 給与水準までチェックを受ける息苦しさ 政府としてはクレジットクランチ回避、中小企業向け融資拡大を狙うが一律の拡大には不満残る)。実績がこれらの目標を3割以上下回ると行政処分を受けることがある(経営健全化計画遵守義務 経営の自由度を制約 3割ルール)。具体的には金融庁は業務改善計画の提出命令、状況の定期的報告命令などが出せるなど。2期連続で3割ルールに抵触した銀行にたいしては、金融庁は経営者の退任、役員賞与の停止など、経営責任の明確化についてさらに厳しい措置を命じることができる
 優先株などについては公的資金注入時に普通株への転換期限が設定されていることも圧力となる。

日本の政策と経験は欧米に影響した
金融機関に対してストレステストをかけて資本不足額を公的注入で補うという手法は、日本が開発した側面がある。しかし同時にその後日本が停滞から脱却できないこと(デフレに落ち込んだこと)も教訓とされている。
 批判を受けているのはまず金融緩和が不十分かつ後手に回ったこと(とくに日本銀行が繰り返し政策を間違えたこと 背景には日本銀行の独立志向があると思われる そのため政府の要請をあえて拒否することが独立の証明になり政策の幅を自ら狭める失敗を日本銀行は繰り返している このような日本銀行の大局を見ない幼児性は大きな問題であるが根本には日本銀行法により日本銀行の独立性を過度に高めてしまった問題がある)。消費を拡大すべき時に消費増税が行われたことなど、マクロ経済政策の失敗。また不良債権の処理を先送りして、融資低迷を招いたこと。したがって、大胆な先取り的金融緩和。不良債権処理の加速などを欧米はいち早く決めた。
 米国では2008年12月にFRBがゼロ金利政策に踏み込み、2009年5月発表のストレステストを経て大手金融機関19社のうち10社で746億ドルの資本不足を判定。金融安定化法による公的資金投入に踏み切った(7000億ドルの公的資金枠確保)が、配当負担、幹部報酬も制限などから返済意欲が強い。とくに報酬制限についての不満が強かったとみられる。しかし返済により政府は資金を取り戻すが、金融機関の経営が安定するかについては疑問も指摘されている。(大手6社は新株発行と資産売却などで資金を調達 2009年末にすべて公的資金から離脱した)。
 米国がもっとも懸年しているのは日本型デフレに落ち込むことだとされている。
 欧州では2010年5月にEUとIMFが共同して7500億ユーロの緊急融資枠を用意し 2009年10月に続き2010年7月にストレステストの実施結果が発表されたものの公的資金の投入の仕組みの詳細な設計は課題となっている。

民間企業救済については議論が分かれている
公的資金のもう一つの側面は、民間企業に支援を拡大するかである。2008年末にGMとクライスラーに対して米政府が行った支援がその代表格である(2010年11月18日にGMは再上場して早期再建の成功を印象付けた)。民間企業に対する支援は競争をゆがめるという議論がある。

The Top Page

            
名前:
コメント:

※文字化け等の原因になりますので顔文字の投稿はお控えください。

コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

 

  • Xでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

最新の画像もっと見る

最近の「Economics」カテゴリーもっと見る

最近の記事
バックナンバー
2024年
2023年
人気記事