仮想通貨問題の本質:犯罪を誘発する金融庁の甘い姿勢
「モバイル決済」そして「仮想通貨」が金融イノベーションあるいはフィンテックとして注目される。モバイル決済のように便利なものは導入すればよいが、仮想通貨取引のようなものはなぜ必要なのだろうか?不思議なのは、金融庁が事件の多発にも拘わらず、業者任せの姿勢を続けていることだ。まるで金融イノベーションの守護者気取りである。仮想通貨は、通貨といいながら現実の取引の決済通貨となるのは一部であるため(通貨としてよりは取引対象となっているため)、その取引相場の変動幅は大きくなっている。
まずモバイル決済(スマホ決済)の拡大で 現金決済を一気に縮小させようと議論がある。中国で発達した方法は、スマホによるQRコード読み取りというもの(QRコード決済)。店舗側に決済用の端末購入などの初期費用(初期投資は10万程度 数万~数十万 月々リース料)が不要であるため、導入しやすい。中国で発達したqrペイと同じ この方式が日本でも普及するかに注目が集まっている。
Lineペイがローソンでqrペイに対応 2017年1月から
楽天ペイがqrペイを導入 2017年10月から 手数料は3%程度(大手カードは4~6%)
origami qrペイの導入 2017年10月から 手数料は決済額の3.25%
中国ではウィチャットペイ微信支付(テンセント 利用者7億)そしてアリペイ支付宝(4億)。中国のスマホ決済額が前年比で3倍以上に急増している。インドではPaytm(2億3000万)とモビクイック。こうしたqrペイ方式のスマホ決済の導入の動きは、タイやフィリッピンのほか東南アジア各国でもきかれる。ポイントは導入コストが安い点である。
中国におけるスマホ決済の普及 2017.05.07
フェリカ型との比較で、ソニーは通信チップの搭載されると利用料に応じてライセンス料を取る。しかしアジア圏ではQR決済が広がる。一見してQR決済にメリットがありそうだが、決済用端末が低コスト化すれば、フェリカ型も決済スピードの面で優位なところがある。いずれにせよモバイル決済は普及させればいい。
なお日本でカード化による現金の置き換えに進展はあったが限界もあった。現金決済をなくすれば、店員の現金管理の手間が簡略になる。レジ閉めの労力を軽減できる。またデータを優良顧客の選別にデータ使え、金融機関としては融資データに利用できる。また現金決済の維持は銀行にコストになっている。ATMの共有化は銀行の通帳の仕様がバラバラのためできない、しかし銀行にとってATMの維持には大きなコストがかかっている。全国のATMは金融機関のもの13万7000台(2016年9月末 価格が1台300万 維持費は月30万) コンビニ型5万5000台 ざっと20万台もある。現金決済をなくすことによる効率化が盛んに指摘されている。
ここまでの議論はわかる。
問題は仮想通貨。そしてその取引である。そして仮想通貨を使ったICOである。これをなぜ金融庁は放置しているのか?
仮想通貨(=電子的に記録移転でき、法定通貨でないが第三者への支払いに使えるもの)取引(4月に改正資金決済法を改正し取引所に登録制 監査の義務付けた 2018年1月時点で登録は16社。ほかに改正法施行前から取引所を運営していた「みなし業者」が16社ある。)が日本では認められた。業者の存在を認知する法的な手当てがされたが、これは取引者保護の問題を置いたまま(どのような保護が必要かの議論を置いたまま)、世界に先駆けて規制を緩めた。ところが問題が次々に発覚してから、金融庁は登録制によって、業者の監督体制ができたかに主張している。
仮想通貨導入は、銀行に代わるお金の保管 送金の仕組みが可能になる。しかし海外への不正な資金の移動など犯罪に絡む恐れが指摘されている。そこで世界全体でこの問題の対応が厳しくなている。
現在指摘されている利用者保護の追加的な議論のなかでは、業者の倒産の影響が及ばないように、預かり資産を信託口に移すことは最初の一歩だろう。仮想通貨の議論についても、たしかに通貨以外のもの(たとえばポイント)での支払いがすでに現実には存在する。したがって仮想通貨を認めることは一方で必要かもしれない。仮想通貨の取引所を認めることは話が少し違う。
現実の通貨の取引が実需との関係で相場の変動には制約があるのに、取引される仮想通貨は実需との関係が希薄で希少性が価値を支えている、そのため相場の上昇幅は現在のところ極端である。現状は、この上昇幅の大きさが投資家を市場に誘っている。こんなものが金融イノベーションなのかどうか?
ビットコインの相場の変動の大きさをみてみよう。
ビットコイン(最大の仮想通貨 時価総額は2800億ドル=32兆円にまで拡大:2017年12月) 仮想通貨にはこのほかイーサリアムなど 米国 中国 日本 韓国など 7月分裂騒動で一時2000ドル割れ 2017年8月2日ビットコインキャッシュBCCが誕生(ビットコイン保有者に新通貨が付与) 8月13日4000ドル超え 9月2日5000ドル台のせ 9月8日中国が仮想通貨取引所を当面閉鎖するとの報道で下がる 9月10日4000ドル割れ 10月20日6000ドル台のせ 11月1日6500ドル超え(背景 ビットコインゴールドの分裂準備進む 9月2日に5013ドルの高値。10月24日に香港企業が中心のビットコインゴールドBTGが分裂を始め11月24日ビットコインゴールドが誕生した。ビットコイン保有者は同数のBTGを得られたとのこと。) 11月28日ビットコイン初の1万ドル台 12月5日シカゴオプション取引所CBOEが先物取引開始 12月17日1万9800ドルの高値のあと下落 12月18日シカゴマーカンタイル取引所CMEで先物取引開始 同日CMEで相場下落でサーキットブレーカー作動 19日韓国の仮想通貨取引所ユービットが破たん(北朝鮮によるハッキングとされる 韓国の仮想通貨取引所はいずれもセキュリティが脆弱であることが判明 しかし日本もマウントゴックスやコインチェックの問題を見ていると褒められた情況ではない) 12月22日1日の下落率29%1万1000ドル割れ 相場の急変を抑える仕組み未整備 取引所によっては 一定幅以上動くと取引が停止するサーキットブレーカー 1日の上下値幅制限いずれもなし 証拠金の25倍の取引を許す取引所もある(→時価が購入価格の4%を下回ると追証なければ強制売却・・・売却の加速)
つまりビットコインは2017年年初来でみると20倍を超える高騰。売買は実需とは無関係で投機的というのが現状。なぜこのようなクズを決済手段に混ぜる必要があるのだろうか。
2018年に入って中国、韓国の規制に動きが伝えられると、ビットコイン(2017年12月現在 1300種類ある仮想通貨の中で時価総額2800億ドル 仮想通貨全体の6割占める)は1月7日に1万7100ドルの年初来高値のあと、17日には1万1000ドル近くまで急落した(一時1万ドル割れも 日本円で110万割れ)。2月7日には株安に加えて中国政府が仮想通貨取引規制を強化すると伝わり、1ビットコインは一時6000㌦割れを喫した。
なお取引所は国内だけで20社ほど 最大手がビットフライヤー(東京都・港区)。色色な企業の参入が伝えられる。
名前を拾うと GMOインターナショナル(2017年9月マイニングをてがけることを表明) リミックス(子会社が仮想通貨取引所ビットポイントジャパンを運営) フィスコ マネパG SBI(中国の取引所Houbiと資本提携で合意)
このコインチェックの事態を受けて、一部の企業は仮想通貨を使った決済への参入を見直す方針を打ち出した。企業経営者は詐欺に加担することをすぐに辞めるべきだ。
最後にICO(initial coin offering) 資金調達したい側がホワイトペーパーを購入したうえで トークンを発行 事業に賛同して人が購入 発行した仮想通貨は取引所で価格が変動 2017年9月4日 中国がICOによる資金調達を全面禁止(なお韓国も全面禁止。9月29日金融委員会は全面禁止の方針を示した。) 企業の側は手軽にトークンという形で資金を集める。投資家はビットコイン イーサリアムなど流動性の高い仮想通貨でトークンを購入 トークンで実現するサービス製品を購入できる。企業の側にはIPOにおけるようなさまざまな情報開示義務はなく、トークンに配当を支払う仕組みや議決権にあたるものはない。投資家はトークンを仮想通貨取引所などで換金できる。事業実態と無関係にトークンの価格上昇を信じた投資家が資金を投入しているもので完全に詐欺だが、金融庁がこれは投資で自己責任だとしている。金融庁は金融イノベーションの芽を摘まないことを、規制に乗り出さない理由に挙げる。しかし、金融庁は自らの監督責任を放棄したのではないか?
金融庁という役所はそもそも不要ではないか?
2018-03-21更新(2018-01-30)