Entrance for Studies in Finance

サブプライム問題の政策的論点

サブプライム問題をめぐっては様々な論点がつぎつぎに登場している。
08/01/29 英独仏伊4カ国共同声明
 各国が金融市場情報を共有し、警鐘をならせる体制をととのえるべきである。
 金融市場の混乱収拾には透明性向上が重要。
 銀行が簿外にもつ特別運用会社(SIV)の損失を自主的に開示し、市場の不透明感を払拭すること
 IOSCOが取り組む格付け基準の明確化などが進まない場合は、各国とも規制に動く用意がある
 08/02/09 G7財務省・中央銀行総裁会議に4け国で共同提案する

格付け機関
○ 登録制度導入で監視強化
○ 当初議論が集中したのは格付け会社による格付けの問題だった。格付け会社の
よる証券化商品のリスク評価が不適切だったのではないかと指摘された。もとはといえば、サブプライムローンを安易に拡大した業者がいけないのだが、批判の矛先はなぜか格付け機関に向かった。それは格付けの修正が大量かつ一斉だったからである。
 たとえばS&Pは2007年7月から8月にかけて合わせて1400件以上の証券化商品の格下げを行ったとされる。あるいはムーディーズは8月16日1日だけで150件以上のデフォルト格付け(C)を含む691件の格下げを行った。
 このような大量の格下げが生まれるのは当初の格付けが甘かったのではないか。その背景として格付け会社と顧客企業の間に癒着があるのではないかとの議論がある。また、その後の格付けの見直しが遅かったのではとの議論もある。
流動性が劣る証券化商品の格付けと、ほかの証券(債券)の格付けをABCなど同じ文字表記で行うことも誤解を招いているとの指摘がある。
 なお関連して、2004年12月IOSCOが格付け機関の基本行動規範を公表している。すなわちIOSCOは行動規範の見直しを迫られているのである。たまたま米国では2007年6月から登録制が始まっており、格付け先との利益相反について検討をはじめた。こうした規制強化の動きに対して格付け機関は「表現の自由」などの問題を持ち出して抵抗している。
 しかし冷静にみて、これまで投資家はリスク判断を格付けに頼りすぎだったという議論もある。
 おそらく格付け機関には格付けの透明性確保と投資家への情報提供義務という形で、議論は進むのではないか。 

証券化
○ 仕組みが複雑な証券化商品がばらまかれて、どれだけのリスクをかかえているかさえ正確に評価しにくくなっている。証券化商品の2007年発行額は1兆6000億ドル(168兆円)。企業の債務不履行を保証する商品の残高は62兆ドル(6500兆円)。
○ 複雑な金融商品の購入は、リスクを精査する能力のある洗練された投資家に限るべきであり、同商品の発行体や販売機関には商品内容の一層の開示を求める。クレジットデリバティブ取引や決済制度の整備。ジェラルド・E・コリガン「システミックリスク防止へー改革への道」08/08/06
○ メザニンの証券化は好ましくない(金融危機からの教訓 シドニー会議)
○ 債務担保証券の数千ページの説明書は理解不能(金融危機からの教訓 シドニー会議)
○ 証券化商品を組成し販売する業者は10%以上を保有すべし(欧州委員会)
○ 証券化商品の価格評価をどうするか

○ 次に注目されたのは複雑な仕組みを支えている信用保証である。
 一つは銀行が資産担保CPを発行する者に対して行うバックアップライン契約。
 そして証券化商品を含む債権の保証に特化しているモノラインという金融保証会社(monoline insurer)。その大手2社、MBIAとアムバックフィナンシャルグループの財務状態、格付けなどが話題になった(中堅のACAキャピタルHは2007/7-9期に最終赤字)。モノラインは自らのリスクを再保険に出してリスクヘッジしている。2007年12月19日にS&Pは、ACAファイナンシャルGの格付けをAからトリプルCに引き下げ、MBIAとAMbacをトリプルAのまま格付け見通しを安定的からネガティブに変更した。
 このような信用保証の多重的多層的な仕組みから、具体的には銀行やモノラインの信用力の低下・破綻の可能性から、直接、サブプライムとは関係しないところまで金融危機が波及することにつながることが指摘された。
モノラインは自身が高い格付けを受けることで、多様な証券を保証している(米地方債の5割 証券化商品の2割)が、その格付けが下がるとモノラインにより保証されている証券も実質的な格下げの影響を受ける(米モノライン業界加盟は12社 保証額は2007年末で2兆2000億ドル うち26%は証券化商品 また地方債の約半分がモノラインの保証を利用)。
 そしてたとえばモノライン救済のため銀行が出資を要請されたり、あるいはSIV(投資ビークル)救済のため銀行が登場するといった事態は、証券化によりバランスシートから切り離されたはずのリスクが再び銀行に戻ってくる現象だとされた。
 前者つまりバランスシートから切り離す動きは、かつてディスインターミディエーション(disintermediation)と呼ばれた。銀行の仲介業務というものが、証券化により市場に委ねられる現象とされた。それならば、再び銀行がリスクを抱えるこの動きはリミディエーション(remediation)だとの指摘がある。
このような仲介者を排除する動き(disintermediation)は、金融以外の多くの経済領域でも生じている。たとえばインターネットを通じた直接販売が分かりやすいであろう。仲介者が再び現れるのは、仲介者の経済的機能がその存在を呼び戻すらである。
 金融の場合は、仲介者のリスク負担の機能があって始めて仲介が成立する。その負担関係を市場内で調整できないとき、仲介者が再び必要とされる。

○ ヘッジファンド 登録制にして運用の詳細を開示させる
○ 政府系ファンド 運用方針・投資先の透明化 

○ 透明性と流動性に重点をおくべし

○ このような状況で金融機関は貸出態度を厳格化させている。では誰が救済に現れるのか。教科書的には中央銀行ということになる。もちろん各国の中央銀行は、今回の金融危機において、金利を引き下げるとともに緊急融資などで臨んだがその政策態度の変更が遅すぎた、緩和の幅が少なすぎたとの批判が出ている。
 他方、利下げに反対する議論もある。金融機関のモラルハザードを助長する、インフレ懸念がある、過去にバブルを導いたことがある(2001年のFRBの連続利下げはITバブル崩壊のショック 同時多発テロによる景気後退を和らげた半面、住宅バブルをもたらした)など。現在、このような市場主義的な声は小さくなっているが、常に勢いを盛り返す可能性はある。
 残念なのは中央銀行総裁が「独立性のわな」という問題に陥り、迅速に政策判断をするべきタイミングを、逸しているように見えることだ。政治の圧力に屈せず判断している印象を与えるために、政策決定の時期を遅らせ、かえって事態を悪化させたようにみえる。
 また競争による淘汰や、格差拡大を是認する市場主義的な信念にあふれた人の登用も大きな問題だ。こうした人たちは、さまざまな場所で自らの信念を発言し、信念に従い投票を行い事態の悪化を招いているのではないか。

○ 証券化商品の評価について、金融機関に対して保有している証券化資産の市場価値の開示を求めるべきとの議論。
 ただ評価方法で議論が分かれていることから、資産評価方法を確立することが求められる。また簿外のリスクの開示が金融機関によっては不十分だったことから、積極的開示を求めるべきだとされる。また保有リスクに対応して十分な流動性資産を保有すること、流動性リスク管理を強化することも求められている。
 今回、評価損が膨らんでいったのは、当初は帳簿につけた理論価格に比べて、仲介業者が提示する気配値がどんどん下がったため。もちろん原債権の質が悪化すると、理論価格(合理的な価格)も低下する。しかし仲介業者の提示する価格(気配値)は、それ以上に下がる。この価格は低すぎるので、金融機関としてはこの価格では売却したくない(売却損は確定しない)。しかしそうこうするうちに気配値の低下により評価損が膨らんでいる。
 このような証券化資産の評価(評価損をどのように算定するか)についても見解が分かれている。
○ アメリカでは市場取引が活発なレベル1、市場価格を推計できるレベル2、独自モデルで帳簿価格を算出するレベル3にわけて金融資産を開示させている。そのため金融機関は市場での取引がむつかしくなるとレベル2からレベル3に移している。レベル3の保有高はおおむね各社の高リスク資産とみなされる。この部分の評価は、数理モデルによるとしても結局は各金融機関の裁量で決められている。市場取引で低価格がつくと各社はたちまち巨額の評価損に計上に陥る。
 流動性が低い資産がそもそも金融機関の保有資産として適当かという疑問がでている。また部分的に保有が認められる場合のルール(評価方法、保有の上限)は当然必要だろう。
 さらに他方では、市場取引があった時に評価損計上となるのは、時価評価を絶対的なものとしているからだが、そもそも時価評価を絶対視する必要があるかも吟味されるべき
かもしれない。満期保有まですれば確実に元金償還される資産であるならばであるが。

○アメリカは超低金利状態に移行
 すでに07年夏以来、金融市場の混乱に対応してきたFRBは、2008年1月に入ってよやく、FRBは1月22日(0.75%)と30日(0.5%)に連続して利下げを行った。
 さらに2月14日の議会証言でバーナンキ議長は、追加利下げも辞さない姿勢を示した。現在、実質ゼロ金利の水準とされるFF金利(この時点で名目3%)は、実質マイナス金利に入る可能性もでてきた。
背景には2007年後半、金融緩和に転じたもののFRBの利下げに慎重な姿勢で政策を小出しにする姿勢が危機を拡大させたという批判がある。事実経過をたどるとFRBは金融緩和を躊躇し、大幅な緩和を繰り返し回避した傾向がある。2008年1月末の先物金利の予測はさらなる低下を予想しており、2008年夏には2.25%の水準まで低下するとしている。FRBはさらに追加利下げを行い、実質マイナス金利に入らざるを得ない状況。
 日本でのかつてのゼロ金利の事態を彷彿させる事態に今、アメリカが陥っている。

サブプライム問題についての集中講義
サブプライム金融危機について
適格格付け機関の選定について(Mar.31, 2005) 
金融保証保険業界の概要

 Written by Hiroshi Fukumitsu. You may not copy, reproduce or post without obtaining the prior consent of the author.
Intensive Lectures on Subprime Problem by Hiroshi Fukumitsu
サブプライムで加速する金融再編
サブプライム問題:野村とみずほ
サブプライムと空売り規制
サブプライム問題の展開(2008年3月以降)
サブプライム危機後のアメリカ経済
サブプライム問題の政策的論点
サブプライム後の政策対応:証券化商品の開示規制強化
証券化の功罪:サブプライム問題を振り返る(本文)
ナイトの不確実性とケインズの合成の誤謬

参照
証券市場論講義目次


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