Entrance for Studies in Finance

キャッシュフロー計算書(cash flow statements)

cash flow statements: CFS

Hiroshi Fukumitsu


cash flow分析の重要性と意味 
 販売・支払と実際のcashの動きにはズレ、乖離がある(通常は不足する)。財務担当者は資金調達によってこのズレを調整する必要がある。そのためには、実際のキャッシュの動きを把握する必要がある。それを表にしたのがキャッシュフロー計算書(cash flow statement)である。 cash flowが重視されるようになったのは、制度的な問題から数値が変動しやすい会計的利益から離れて企業を分析する必要がでてきたというグローバル化に伴う問題、あるいは、投資家の視点から企業価値を分析する上で毎年のフリーキャッシュフロー(定義は後述するが、その意味は経営者が当面自由に使える手元資金である)を正確に測定する必要がでてきたことや、企業社会のありかたが、投資ということを基準に組み立てられるようになった問題などが絡んでいる。金融機関にとっては「企業をCF中心に診ることは、担保に頼らない融資発掘のための有用な集団である。CF分析により企業の将来のCF状況を予測できれば、融資の安全性はそれだけ確保される。」高橋俊樹『融資の常識50考2版』きんざい、2011, p.45
もちろん個々の企業レベルでの資金繰り管理もキャッシュフロー管理の問題の一つであり重要であるが、資金繰りの管理問題は、キャッシュフロー計算書が登場する前からも存在したことで、新たな問題ではないと考える。

貸借対照表や損益計算書とcash flow計算書
 貸借対照表や損益計算書は、発生主義(accrual basis or accrual principle)という考え方で記帳されるので、実際お金の流れとは食い違ってくる。加えて、固定資産における減価償却会計が、費用負担の時間的分散という問題を持ち込んでいる。
 つまり貸借対照表や損益計算書は、採用した会計基準の影響や、会計独特の計算方法の影響を免れない。また経営者の将来予想の影響も受ける(例 貸し倒れ引当金における回収可能性を見込んで引当金を計上する行為、繰延税金資産:将来の収益見込を前提に将来損失として処理するものを繰延税金資産として計上する行為)ので、その時々の正確さにも疑問がある。
 これに対してCF計算書は実際のお金の動きをみているので、客観性が高い。
 CF計算書の表示の仕方には直接法と間接法とがあり、企業会計審議会の『作成基準に関する意見書』(1998年)により、両者の選択が認められ、多くの上場会社は、発生主義会計との対照が可能な間接法を採用している。中野一豊・清水克益「キャッシュフロー計算書の構造と問題点」『豊橋創造大学論集』10巻, 2006年, 1-18 

①基本basics:cash flow に影響する現実のcashの動き

cash in cash out
株主の出資 株主への配当
借入 利払い・返済
製品在庫以外の資産処分収入 営業資産・非営業資産の購入
製品・サービスの売上収入 製造経費・営業経費・税金



Balance Sheet
Income Statement
Sales
Expenses
Net Income
Cash Flow Statement
Opeartions
Investing
Financing
Net Change in Cash

Cash Flow Statement

②損益に影響する債権債務の増減とCFの動きの違い
 債権債務の増加がいわゆる信用取引による限りはCFに直接は影響しない。しかしたとえば、販売がその前提として仕入れがあるとすればcash outの状態から現金販売であればcash inになるところ。信用販売つまり現金での支払いを猶予すれば、cash outの状態が続いていることになる。 

売掛債権accounts receiveble↑ cash flow不変 cash outの継続 将来のcash in↑



 販売の約束はなされたが入金していない(資金は回収されていない)。ここは売り上げの計上がなされていると形式的には利益が出ていることになる。ところがキャッシュはまだ入っていない(損益などには影響するがCF上は影響しない。ただしCF上はかつての支出が回収されていない状態という意味でcash outが増えた状態のまま 製品在庫が減って売掛債権に置き換わった形)。
反対に支払いの約束(買掛債務)では、支払いの約束はしたが出金していないことが生ずる(CF上は変化がない。在庫は増えているが支払われていないのでこれはまだ債務の状態。)。

在庫inventories↑ cash flow不変 cash outの継続 将来のcash in↑

 

買掛債務↑ cash flow不変 将来のcash out↑



CFの動きと損益の動きを狂わせるものには以下のようなものがある。  

信用での購入・売却 不良債権・不良在庫の償却 減価償却 損益に影響するがCFには影響しない。
債権・債務の支払い受取。借入。増資。元利払い・配当の支払い CFに影響するが損益に影響しない。



③減価償却費とCF
 減価償却はもともと固定資産の物理的な損耗を会計上の費用として認識計上。固定資産の更新投資に備えるものである。
 しかし物理的損耗と会計上の損耗とはずれがある。
 また物理的損耗のほか、技術革新などによって時代遅れになってしまう社会価値的損耗の問題がある。
 最初の支出を時間をかけて売り上げから回収するということが一つの意義(費用負担を長期間に分散させる)。そしてやや長期的には更新投資replacementに備えるという意味も大きい。このような会計操作を固定資産に対して行うことが減価償却depreciationである。 現実の企業はこの減価償却の計上によって大きな影響を受ける。損益の面では計上するほど利益が減って見える。減価償却の方法には定額法と定率法とがある。減価償却と実際の資産の損耗とには食い違いがある。
 損益計算書のレベルでは、減価償却費を費用として売上収入から計算上抜くと損益計算に影響する。しかし減価償却費の支出は計算上のものだから、CFの対外流出は生じない。cash flowは変化しない。cashは要するに社内に残っている。つまり減価償却depreciationという会計操作は、cash flowに影響しない。ただし減価償却費を大きくとればとるほど、社外流出がないことで大きな現金留保が生まれている。これが減価償却という会計の特徴である。
 他方で建物・機械設備などの購入(投資)のためには、支出(CFの社外流出)が生じる。
 減価償却の計上と物理的損耗との間にさまざまなケースを想定できる。
 expanding  投資額>物理的損耗額
 maintaining 投資額=物理的損耗額
 divesting or under investing 投資額<物理的損耗額 

アモチゼーションについて
 アモチゼーションは日本語にしにくい外国語の一つである。
 減価償却をパテント(特許権)など無形資産に対して行うことをamortizationという。つまりamortizationの定義の一つは、①減価償却depreciationという会計操作を無形資産について行うことだというものである。なお借入れの元金の返済の計画もamortizationと呼ばれる。すなわちamortizationの今一つの定義は、②債務元本の支払いを一定期間にわたって分散して行うことである(investopedia)。
1)the paying off debt in regular installments over a period of time
 2)the deduction of capital expenses over a specific period
 自然資源が消耗することはdepletionという。

free cash flowについて
 後に企業価値をDCF法(discounted cash flow method)で算定するときに使うfree cash flowは、cash flow statementから求めることができる。free cash flowの定義は、論者により微妙な差異があるが、経営者が裁量により支出先を変更できる余剰cash: free cashとみればよいのではないか。EBITDAから、税金、経常的に必要な運転資金と設備投資の双方を差し引いた金額とここでは考えておく。
free cash flow(valuebasedmanagementnet.com)
free cash flow(quickmba)
 FCFを基礎にした企業価値評価法(DCF法)について
 企業価値評価の考え方・読み方(DCF中心)

 企業の適正市場価値=株主と債権者への税引き後期待キャッシュフローの現在価値
 また 企業価値 = 株主資本価値 + 負債価値
    株主資本価値 = 企業価値 - 負債価値
 株主と債権者への税引き後期待キャッシュフロー=フリーキャッシュフロー
 フリーキャッシュフロー=EBIT×(1-t)+減価償却費-投資
          EBIT:税利息支払い前利益 
 ロバート・C・ヒギンズ グロービス訳『ファイナンシャル・マネジメント』ダイヤモンド社, 1994年, pp.214-215.

 井出・高橋はフリーキャッシュフロー(ネットキャッシュフロー)は事業からのキャッシュフローから投資のキャッシュアウトフローを引いたものだとしている。
 事業のキャッシュフロー=営業利益(1-法人税率)+減価償却費
 投資のキャッシュアウトフロー=運転資本需要+設備投資額
 ネットキャッシュフロー=営業利益(1-法人税率)+減価償却費ー運転資本需要ー設備投資額
 井出正介・高橋文郎『経営財務入門 2版』日本経済新聞社, 2003年, pp.104-105.

 一般には
 企業価値=フリーキャッシュフローの現在価値
 しかし日本の企業のように金融資産価値が多い場合は
 企業価値=フリーキャッシュフローの現在価値+金融資産価値

 参照 井出正介・高橋文郎『経営財務入門 2版』日本経済新聞社, 2003年, pp.367-368; 津森信也・阿部正樹『企業財務』東洋経済新報社, 2001年, pp.138-139; Reuben Advani, The Wall Street MBA, McGrawHill, 2006, p.67

フリーキャッシュフローFCFを重視する(あるいは企業経営者は外部資金への依存を嫌う)ということでは共通の理解がある。しかしそのつぎにその範囲に投資を収める、あるいは投資に必要なFCFを企業は稼がねばならないとする、日本発のキャッシュフローマネジメントの議論と、アメリカの財務論でみられる稼いだCFは、使う予定がなければ増配や自社株買い戻しを通じて株主に返すべきで、外部資金に頼った方が企業の規律が保たれるとする、FCFが多い企業はそれを浪費しがちだというアメリカ発の議論とは、経営者の行動についての想定が真逆になっている。この点はリスクのコントロールとファイナンスで再述する。

economic value added 経済付加価値
どれだけの価値を作り出しているかを新たに作り出したかを評価する問題である。  
 economic value addedというのは資本コストつまりその投資家にとって市場で同じリスク(コスト)に見合っているリターンに比べて、どれだけより多くの価値を生み出しているかを問題にしている。つまりevaはfcfのつぎの(より精査した)レベルでの問題である。EVAを理解する鍵となるのは資本コストの問題だ。スターンスチュアート社の商品名だという理由から、当初は限られた教科書に取り上げることが遠慮されたが、現在では一般的に使われるようになった。

economoc value added(valuebasedmanagementnet.com)
経済付加価値EVA
EVA導入による価値創造経営の意義
経営管理指標の変遷・使い方
投資の採算性分析(MSI新規事業開発ツール) 投資の採算性分析で使われるハードルレートの考え方やIRR法と、EVAの考え方との比較は有益だと思われる。

EVA=Net Operating Profits after Taxes - (Capital Used × Cost of Capital)
 NOPAT:Net Operating Profits after Taxes
Finance for Managers, HBS Press, 2002, p.168

EVA=税引き後営業利益 - (投下資本 × 資本コスト)
『財務力』講談社, 2003年, p.174

 EVA=(総資本利益率ー総資本コスト)×投下資本
   =(ROC-Cost of Capital)×(Capital Invested)
 野間幹晴・本多俊毅『コーポレートファイナンス入門』共立出版, 2005年, p.59

EVA=投下資本×(ROIC-WACC)
 ROIC=投下資本利益率
 WACC=加重平均資本コスト
 EVAスプレッド=ROIC-WACC
石野雄一『ざっくり分かるファイナンス』光文社新書, 2007年, p.118

参照 Reuben Advani, The Wall Street MBA, McGrawHill, 2006, pp.104-105; 井出正介・高橋文郎『経営財務入門 2版』日本経済新聞社, 2003年, pp.370-379; 津森信也『財務部』日本能率協会マネジメントセンター, 2001年, pp.158-163

Written by Hiroshi Fukumitsu. You may not copy, reproduce or post without obtaining the prior consent of the author.
Originally appeared in Feb.27, 2008.
Corrected and reposted in May 20, 2009 and December 18, 2010.

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