Entrance for Studies in Finance

日本企業の業務の国際化について

 日本企業の業務は国際化(グローバル化)はどのような点に表れているだろうか。ここでは幾つかの指標で確認する。

①生産の拠点が海外に移されている。
 日本の自動車メーカーについてみると、2006年に遂に海外生産台数が国内生産台数を上回っている。
 ホンダはすでに1999年に、また日産は2003年にそれぞれ海外生産が国内生産を上回っている。スズキも2006年に海外が国内を上回る。
 日本メーカーは1950年代にトヨタがブラジル、日産が台湾で生産を開始したものの1990年代までは輸出が中心だった。しかし日米貿易摩擦が激しくなるとともに1995年以降は北米中心にさらに近年は中国、インドなどでも現地生産を開始。95年以降海外生産は倍増し、世界の生産台数の中で日本メーカーのシェアは2004年で32%に達する。N06/04/18
なおトヨタ自動車の売上高は2007年4-6月期についにGMを抜いたとみられる。6兆5226億円 GMは5兆5700億円 468億ドル 1ドル119円で換算。N07/08/04
07前半期でもダイハツ日野工業を含めた台数ではGMを上回ったとみられる。
N07/07/21

 以下は国際協力銀行の「海外直接投資に関するアンケート調査」(各年)による海外生産比率の推移である。このアンケートの対象は製造業で海外現地法人を3社以上もつ企業。
19901995200020052010
14.1%19.0%23.0%29.1%33.3%
 

 このほか経済産業省で行っている「海外事業活動基本調査」(各年)にも同様のデータがある。
 以下は内閣府の経済社会研究所の「企業行動に関するアンケート調査」(各年)による海外現地生産比率の推移である。これによると製造業(国内全法人)の中では加工型で現地生産比率が高い。
19901995200020062010
製造業全体3.4%8.1%11.1%16.1%17.9%
うち加工型6.5%12.2%15.9%23.2%24.7%
うち素材型2.8%6.4%9.2%11.6%14.9%

2012年度企業活動基本調査速報 製造業の海外子会社保有比率25.6% 1992年の調査開始以来最高。前年は24.9%。
 1企業当たりの海外子会社数は過去最高の7.4社。国内子会社は5.1社。調査対象は従業員50人以上 資本金3000万円以上の企業。

 2012年3月期現在で製造業で工場や機械など有形固定資産で海外が国内を上回る「内外逆転」となっている企業名
 ユニチャーム(65%) 日本電産(64%) 信越化学 日産(53%) トヨタ SMC

生産が海外に移る前に生じる現象は設備投資が海外で活発化すること(企業の海外資産が増えるということ)。あるいは海外の企業を買収する動きの活発化などである。つまり投資の海外シフトである。製造業は供給網の国際化(グローバルサプライチェーンの拡大)を進めている。大きな背景は円高(最近では東日本大震災以降、国内については電力不足の懸念も指摘されている)と国内市場の縮小だとされている。これには国内産業の空洞化につながる懸念(国内雇用そして税収減につながること)が指摘される一方、新興国需要にきめ細かく答えるプラス面がある(物流コスト面からは消費地の近くで生産することが合理的)。
 基幹部品の生産は国内に残すという考え方。あるいは開発と生産がともに国内に残り接触し合う法がイノベーションにつながりやすいとの考え方。東日本大震災を契機に、世界の顧客への安定供給を優先、基幹部品の生産をも海外に移す企業が増えたとされている。
 生産を海外企業などに委ねるファブレス型企業(自社は設計や販売に特化:生産設備への投資負担がなく経営資源を得意分野に集中できる)の増加がこれに輪をかけている。 
 小売りや外食など非製造業の場合は、海外での店舗展開の積極化がみられる。背景にあるのは国内市場の縮小傾向である。
 新興国と先進国ではビジネスの価値基準に違いがあるとされ、いかに価値基準の違いがあるビジネスを両立させるかが問われているという言い方がある。
 全体として新興国需要に対応した日本企業のグローバル化が、生産の海外への移転(海外投資の拡大)をもたらしている。
 このようにして企業活動が国際化するとともに問題になっているのは、海外で上がった収益を日本に戻すかどうかの判断。企業の立場からは法人税の低い国で利益が上がった形にすることが有利なので、法人税率の低い国の法人に特許、デザイン、ノウハウといった無形資産を片寄せしてその法人が利益をあげている形にする戦略が、大手IT企業では取られているとのこと。また国内の成長が頭打ちであれば、日本に戻さず現地で再投資することは経済的にも合理的だ。
 → 企業活動と税制(グローバルタックス・プランニング)
 法人税引き下げの議論が、企業優遇と単純に言い切れないのは、法人税を引き下げて、企業の海外流出を避けようとする動きが国際的にひろがっていることが大きい。
 
一般に生産拠点の海外移転により、海外で生産されるようになった製品が日本に輸入される逆輸入効果が知られている。海外からの輸入の少なくない部分は、海外の日本企業製品の輸入だということである。また海外現地法人の生産の拡大に伴って、日本の中間財の輸出が誘発される輸出誘発効果も知られている。
ノックダウン生産。部品を輸入して組み立てて生産することをノックダウン生産(knock-down production)。またその輸出をノックダウン輸出(knock-down export)と呼んでいる。海外に生産拠点を移しても、日本で基幹部品の生産を続けている場合、海外生産の増加が国内生産の減少に直結しないで、完成品生産は減少するものの部品生産の増加となり、さらには輸出を誘発する面がある。
 当然ながら、海外現地では現地調達比率local content rateを引き上げるように海外現地からは指摘や要望が出る(このような現地調達比率を求める法律はlocal content actという)。生産拠点の現地化が進み、中間財を海外で調達するようになると、輸出誘発効果は低下すると考えられる。
この場合のもう一つの着目点は、国をまたぐ分業の構造が垂直的なものverticalから、時間の経過とともに水平的なものhorizontalに変化するということだろう(水平的分業horizontal specialization)。
 国と国との間では国内産業保護のための輸入制限が知られる。その方法の一つは関税tariff or duty。とくに保護関税protective tariff。そして輸入制限import quota。現地政府や生産者や、ある商品の輸入量について、量的制限import quotaを設けることがある。そして保護主義protectionismのもう一つの現れが、現地調達比率の強制や、補助金などである。
embargo通商禁止
quota数量割当
tariff関税
import tax輸入税
voluntry restraint policy自発的抑制


②連結売上高での海外依存度が上がっている。
2006年9月中間決算で自動車大手6社で76% 電機大手6社で51% 上場企業全体で50.6% 5年前の02/03期は42% N06/11/17。なお対米比率とは海外売上高に占めるアメリカの比率。06年中間
社名02年3月期06年9月中間米州比率
トヨタ自動車63.1%74.6%37.9%
スズキ52.868.015.6
東芝38.151.114.6
リコー46.050.120.6
コマツ53.873.229.3
信越化学57.668.934.5


 主要企業600社の07年3月4期の数値では、海外売上高比率は自動車が65%近く、精密が56%、電機が49%など。全体では海外の比率は45.3%。3年前に比べ5.6%増加。内訳は米州が12.7%、アジアが10.3%、欧州が6.7%などとなっている。対アメリカの伸びが鈍化する中、アジア向け、欧州向けが伸びている。N07/06/07
 → 大事なアジアシフト
このような傾向はアメリカでも同じ。GEの売上高に占める米国外比率は2007年1-3月期に44%から49%に上昇。S&P500採用企業の売上高に占める米国外比率は2004年41%が2005年44%に拡大している。

 海外売上高比率の高い企業(2011年3月期)
 1位 TDK 87.3%
2位 ニコン 85.7%
3位 エルピーダ 85.2%
4位 村田製作所 84.3%
5位 任天堂 83.4%
6位 ホンダ 83.2%
7位 マキタ 83.1%
8位 アルパイン 82.5%
9位 コマツ 81.1%
10位 三菱自動車 80.1% 

なお内需型企業の海外売上高が急速に拡大している 2011年3月期 と2006年3月期
 資生堂    42.9%(29.4%)
ユニチャーム 42.4%(26.7%)
 キッコーマン 43.2%(26.2%)
急上昇した企業
 コマツ    81.1%(70.1%) 
 ファナック  75.2%(63.5%)

③営業利益の海外依存度が上がっている。2005年度決算。上場企業が海外で上げた営業利益。5兆677億円 21%増。依存度は29.5% 1.4%上昇。N06/07/12 2006年度決算。同前。5兆7390億円 21%増。依存度は30.9%。1.4%上昇。N07/08/20
2005年度決算
社名海外営業利益海外依存度
トヨタ自動車8,023億円43%
日産自動車5,11757%
ホンダ5,02458%
三井物産1,86170%
松下電器産業1,02722%
キャノン1,01313%
スズキ62851
東芝48320
リコー51634
コマツ87648
信越化学46025

④海外現地法人は現地で得た利益を再投資して、国内市場に比べて今後成長が見込まれる海外市場の開拓(設備投資・販売拠点増設など)に振り向ける傾向が顕著になっている。2006年の海外現地法人の内部留保金1兆9063億円。2007年上半期1兆355億円。前年同期比14%増。なお2006年末の対外直接投資残高(内部留保含む)53兆4760億円 前年比17%増加となっている。N07/08/16
 生産体制のグローバル化。

⑤雇用の国際化
 海外生産体制を整えた企業グループでは、すでに海外で働く人が国内で働く人を上回るようになっている。
 たとえば味の素グループは2007年3月31日現在の総従業員24,733名が、アジアに43%、日本に40%、米州に11%、欧州に8%の割合となっており、海外の従業員数の方が多くなっている。
 海外が上回らないまでも、海外従業員数がかなりの割合を占める企業は多い。たとえばシャープグループの2006年3月31日現在の総従業員55,731名の配置は、アジアに32%、日本に56%、米州に5%、欧州に7%の配置となっている。

 人員をはじめとする経営資源をグローバルに調達・配置することや、リスク管理をグローバルな視点で行うことが、企業にとって不可欠の課題になっている。

企業に対する税負担率の違いが国際化に影響している。たとえば日本より税負担率の低い海外に進出した企業が、海外子会社で得た利益を本社に還流させると親会社(日本)で追加課税が生じる。しかし現地で再投資すれば、連結でみた税負担率が低下する。日本の地方税を加えた実行税率は2007年春で39.54%。米国(39.3%)には近いも。ドイツも39.8%と高いGだったが2007年に消費税の税率を3%引き上げ法人勢税を引き下げる方針(29.8%へ)。イギリス、フランス、中国などでは30%台前半。アジアでは台湾は25%、シンガポールは18%だったが、2002年2月のうちには2月に18%引き下げる見込み。
 ということは相対的に高い法人税負担があると、企業は税負担軽減のためにも、生産消費の現地化を志向するのではないか。

以上を投資として考えると国内企業の海外向けの投資outbound investment(対外投資)とくに対外直接投資direct investmentといえる。なお一般に投資は、証券投資など間接投資indirect or portfolio investmentと、工場・店舗などの取得を目的とする直接投資とに分けられる。
 これに対して投資のもう一つの区分は、対内inboundか対外outboundかである。inboundとoutboundは、情報通信の世界でも受信inboundと発信outboundと使う。
 海外企業の国内向け投資、対内投資はinbound investmentである。
 海外企業の対内投資はファンドの動きのように短期的収益を目指すものと、たとえば長期的に国内に根付こうとする動きとがある。
たとえば米オフィスデポが、店舗販売をやめてネット通販に通販に特化するという動き(09年5月発表)は、通販のアスクルなどとの競争に対応したものにみえる。2002年に西友に5%出資して日本進出したウオルマートはその後も苦戦(連続赤字)しながら撤退せず、むしろ西友を完全子会社化して(2008年)、積極的に改装投資もするとしているのでこれも長期的定着を目指しているのだろう。
 これに対して短期的な収益確保を目指すファンドの動きもある。
 
 Written by Hiroshi Fukumistu. You may not copy, reproduce or post without obtaining the prior consent of the author.
 Originally appeared in Feb.13, 2008. Corrected and reposted in May 28, 2009.
Corrected and reposted again in February 2, 2013

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