Entrance for Studies in Finance

MBOについて




デルのMBO(2013年2月5日発表)
 かつてパソコン最大手(2001年)だったデルがMBOに踏み切ることになった。資金は、投資ファンドやマイクロソフトから借り入れるとのこと。
 パソコンを受注生産(直接販売)する経営モデルはデルモデルとして注目を集めた。マイクロソフトとOSとインテルの半導体を載せたパソコンを効率よく売ることで急成長。アップルが直営店づくりにのりだしたのとは逆に企業向けに徹した。しかしこのあと、ITの牽引役は企業から個人に変化。デザインや使いやすさでアップルが支持されるようになった。
 しかしパソコンは、HPや台湾の新興メーカーとの価格競争もあり、現在デルはHPそしてレノボに次ぐ世界第三位。そしてスマホやタブレットに示されるモバイル端末の急増が、パソコンをイノベーションの主役から引きずり落とした。一時は1000億ドルを超えた時価総額は現在は230億ドル(2013年2月4日)。買収完了予定は2013年7月。買収資金は約244億ドルとのこと。
 デルはマイケル・デルによって1984年に創業。デルは一時CEOを退いたが、事業の立て直しのため2007年にCEO復帰。外部記憶装置(ストレーシ)やネットワーク企業を積極的に買収。今回さらにMBOの決断をした。非公開化によりデルは、パソコンから、サーバーやストレージへの軸足の異動、さらに企業向けのITサービス(クラウド事業や、情報システムの構築などソリューション事業 脱ハード)の強化を加速するとみられる。

MBOについて(2008年8月11日稿)
 MBO management buyout は、経営手法として注目される。MBOは、経営陣による自社企業株の取得のことであるが、より正確には、経営陣主導で公開企業買収が行われ、公開企業が非公開企業に戻されること。また非公開化後の経営が、経営陣(現経営陣)に委ねられる企業買収をさしている。多くのケースで、経営陣は自己資金だけでは、この買収を実現できず、企業買収ファンドなど外部からの出資を必要とする。買収ファンドの狙いは、企業価値が損なわれた企業に出資。再建後再公開して、公開による利得を得ることにある(再転売という方法もある)。
 そこでMBOにおいては、そもそも公開していたのはなぜかという基本的な問題が議論されることになる。また市場や株主の側からは、株式公開制度を企業側が自己の都合で、公開→非公開→公開と便宜的に使うことをどう考えるかという問題になる。

公開か非公開かをめぐる批判と反批判
ではなぜ非公開化が求められるのか。経営改革の速度を上げるためだというのが一つの理由である。公開していれば、また多数の株主がいれば、その意思を統一して経営の重要事項を決定するのは、調整の時間が必要になる。また実務的にも株主総会を開いて組織変更など重要を決定することも、株主数が限られていれば比較的に簡単になる。
 なお上場維持コスト(経理部門の人件費 公認会計士の監査費用など直接経費 + 上場企業としての規則遵守により生ずる経営効率の低下)の上昇が問題との指摘もある。さらに企業価値が市場で正しく評価されていないことへの経営者側の不満が背景にあるとの指摘もあru.

 非公開化の動きに対しては、経営陣の都合で公開・非公開の選択を行うことへの株主側の批判がありうる。また経営改革を市場の監視の中で行った方が、規律がよく働くという批判も可能だろう。
 公開企業の場合、長期的観点からの大規模投資は利益の低下を招くため、行いにくいことは確かにある。どのような投資を行うかについても、非公開の方が自由度が高まるとされる(MBOについても投資ファンドの出資比率が高ければその意向に沿った投資が必要になるはずで、経営の自由度は高まるとはいえないとの批判は可能である。また金融機関の融資がおおければ債務比率が上がり、財務内容が悪化してかえって経営再建の足が引っ張られる可能性もある)。
 投資ファンドは投資期間3-5年。株式市場に比べれば中長期的観点からの投資を許容するとされる(これに対しては実際は待って3年前後に過ぎず、経営者が5年程度のスパンを期待するのと齟齬するとの批判も可能である)。
 公開している限りは、買収により経営権自体を失うリスクや、短期的売買を繰り返すファンドから、経営への口出しを受けるリスクはある。東証売買回転率は0.6倍(2001)→1.7倍(2005)に高まっている。事実、アクティビストファンドと呼ばれるファンドが、企業に対して、増配などさまざまな要求を企業に突きつける例も増えている。
 創業家が引退するケースでは、創業家の株を経営陣が取得しなければ、企業の経営権が外部のファンドの手に渡るリスクもある。つまり経営陣による事業継承の手段としてMBOが機能することもある。また大企業が、その子会社・関連会社を、整理するとき、経営陣に経営権を渡す方法としてMBOが選ばれることもある。

公開会社になることのメリット・デメリット
2006年10月24日に長年非上場を続けていた出光興産(石油元売2位)が東証1部に上場したケースを取り上げる。
 非上場会社として有名だった同社が、なぜ上場に転じたのか。まず1990年代に有利子負債が巨大化(一時2兆5000億円)する一方、過少資本(10億円)の状態で、銀行に頼った資金調達に限界が露呈。新たな事業展開をするには財務体質を改善して、資金調達方法を多様化する必要があった。そこで2000年に外部資本受け入れと上場を発表。まず議決権のない優先株を金融機関を対象に計378億円発行。続けて2005年度には優先株を消却する一方、普通株を新たに発行して資本金を523億円にまで増強した。他方で有利子負債を削減(2006年3月末9900億円)した。さらに上場による公募増資で1100億円を調達。自己資本比率を約23%にまで高めた。上場後、有利子負債は2007年3月末8300億円にさらに低下した。このように財務体質改善効果は顕著に出ている。
 つまり上場は、企業として財務面の振る舞いを正す点はあり、それはその企業にとってもプラス。社内体制を整備して経営を透明化し、財務数値を改善して企業体質を強化するなど。公開企業になることを目標に社内の体制を整備する効果はある。しかしその後の経営の巧拙を上場という手段が保証するものではない。
 上場を続けることが、巧みな経営の妨げになるのであれば、非上場に転ずる戦略は否定はできない。しかし経営の都合での非上場への出戻りは、投資家の立場からは身勝手なものであり、整備した体制や改善した体質の悪化への道であることを理解するべきだ

買取価格をめぐる経営者の利益相反
 このようなMBOについて、近年もう一つの関心は、TOBにより株式を買い取るときの買取価格である。通常、公開企業の経営プロセスでは、経営者は、高株価経営により経営の自由度を上げようとする。高株価は、株式を使ったファイナンスを容易にするからである。それは株主の利益とも一致する。なおアメリカでは経営者の報酬の多くがストックオプションであり、そこからも高株価経営は促されるとされる。
 ところがMBOにおいては、経営陣と経営陣側の投資ファンドの利益はできるだけ安く株式を株主から買い集めることにある。安く買い取るほどMBOは成功しやすいからである。つまりMBOでは株主と経営陣の利益が相反しやすい。

望まれる買取価格決定の透明化
現在、日本で行われている方式は直近の株価の終値の平均(たとえば1ヶ月から6ヶ月)に一定のプレミアム(たとえば10%~30%)をのせるというもの。しかし何ヶ月の平均をとるのか。その間の大きな値下がり・値上がりをどう処理するか。プレミアムの幅をどうするか。明確なルールがない。関係者に望まれるのはこのような買取価格のルールの明確化である。
 このようなルールが明確にされない限り、公認会計士など第三者が価格を算定した形をとるにしても、公認会計士が算定したとしても、経営陣が報酬を払って依頼している以上はその中立性への疑いは残りやすい。また第三者機関が判断の材料にする情報が、経営陣によって提供された数値であることにも問題が残る。現在のところは価格算定根拠の明示が義務化されているだけである(2006/12証券取引法施行令)。
 2006年12月の改正施行令は、TOB全般について、価格算定の経緯の明示を求めている。とくにMBOについては、第三者の評価書添付や公正性を担保するための措置などの記載も義務化している。
 しかしMBOの買取価格への疑いは払拭されたわけではなく、投資家保護のためにはなお一段の透明化が必要である。これと類似した問題は、経営統合における株式交換比率でも起こっている。買取価格や交換比率に必要な算定のルールを関係者は早く整備する必要がある。
 MBOでは、株主は、もちろん納得して買取に応じることもあるが、株式が非公開化により無価値化するというリスクの前に、提示された買取価格に妥協する可能性もありうるからである。

安易なMBOへの警鐘:訴訟・MBOの不成立
 MBOをめぐっては、このように経営陣と株主利益との対立が表面化しやすい。
 2007年4月末に上場廃止が決まったレックスHの場合は、一部の株主が買い取り価格が不当に低いとして訴訟に発展した。
 また2007年5月には、2007年4月にテーオーシーがMBOを発表したものの、大株主のダヴィンチアドバイザーズが買取価格が不当に低すぎるとしてより高値での経営陣の同意を前提にしたTOBを提案。MBOが不成立となる異例の展開となった。この場合、MBOに対抗する企業が現れたことが注目される。
 2007年7月に経済産業省が検討しているMBOの指針が明らかになったが、そこではTOB期間(法律上は20日から60日 実際には20日強ガ多い)を最低でも30日として、MBOに対抗する企業が登場しやすいようにされている。また、社外取締役や独立した第三者委員会などにMBO実施について諮問することも盛り込まれている。
 MBOが経営戦略の手法として定着した反面では、安易なMBOに対して批判が強くなっているといえるのではないか。

発表時期企業出資者買収金額
2005/07ワールド*経営陣2300億円
2005/08ポッカコーポ経営陣、アドバンテッジP
2006/06すかいらーく経営陣、野村PF CVCCP2700億円
2006/07ヤギコーポレーション経営陣50億円
2006/10東芝セラミックス経営陣、ユニゾンC、カーライル900億円
2006/10キョーサイNIFなどと経営陣422億円超
2006/11レックスH経営陣 アドバンテッジH900億円
2007/02サンスターSSA(創業者一族が影響力もつスイス法人)
最大242億円
2007/10サイバードHD155億円
2008年5月オークネット215億円

1962年創業のすかいらーくには「ガスト」「バーミヤン」などさまざまな業態がある。06/9上場廃止。
ヤギコーポは1967年創業のユニホーム製造大手。
東芝セラミックスは大企業の上場子会社が完全独立したケース。
レックスは2004/08にam/pmを。また成城石井を2004/10に買収している
レックスの場合はMBO前に業績が下方修正。ワールドの場合はMBO後に業績が上方修正。
*優良企業が株式非公開化を選択した国内初の事例。

 すかいらーく
  SPCが公開買い付け(06/6) → SPC と すかいらーく が合併
                   新すかいらーく(07/1)

すかいらーく 表面化した思惑の違い
 2008年8月 すかいらーくの横川社長(創業家の3男)は投資会社側(野村P と英CVC)の意向で社長を解任された。MBO当初から改革に5年は必要とした横川氏と早期の収益改善を求める投資会社は対立。横川氏は09年中の再上場を飲まされた。その後全業態4000店のうち不採算の150店以上を閉鎖したものの、消費者の外食離れで郊外店を主力とする同社は苦境に立ち同社は07年12月期まで二期連続の最終赤字に陥った。すかいらーくの業績低迷が続くと、投資会社の株が担保として銀行団に移る特約があり、投資会社は社長退任を急いだとされる。興味深いのは労組が社長解任支持に回った点。社長一族はMBOを通じて2割近かった持分を3%まで減らしたとされ、これはMBOとして異質なものだったのかもしれない(日経2008年9月22日による)。
 その後 投資側の野村HDは500億円の追加出資。不採算店の大量閉鎖を進めた。2011年10月21日には、すかいらーくを米大手ファンドベインキャピタルに売却すると発表した。これにより投資額を若干超える資金を回収するとのこと(日経2011年10月22日による)。

参照

Written by Hiroshi Fukumitsu. You may not copy, reproduce or post without obtaining the prior consent of the author.
Originally appeared in Aug.11, 2008
Corrected and reposted Feb.20, 2013



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