Entrance for Studies in Finance

Case Study: JT、船井電機、ミスミ

船井のビジネスモデル:OEMの徹底による効率経営
 船井電機はOEM(original equipment manufacturer: 相手先ブランドでの生産)で知られる。最近までは高い利益率を実現していた。OEM生産の利点は注文生産のため、売り残り在庫を抱えないこと。販売のための広告宣伝費も不要であること。黒子になるものの、このような高利益率になるビジネスモデルを船井はあえて選んできた。OEM生産のほかウオルマートでの販売で、北米のDVDシェアは5割近いとされていた。また国内に工場をもたないことも特徴であった。中国の工場では、あえて機械化を進めず、人手に頼ることでフレキシブルに様々なサイズのテレビを生産できるとしてきた。このような船井の戦略は、OEM生産とともに「逆張りの発想の経営」として知られる。2007年7月にはポーランドにも新工場(DVD録画再生機工場)を立ち上げた。

2010年3月期をピークに船井の業績は急降下している
 しかし北米依存型(2010年3月期で売上高の73%が北米のため北米景気の影響をうけやすい 後述するようにフィリップスの北米の液晶テレビ事業を2008年4月に取得。おかげでテレビ事業が2009年4-9月期黒字に転換。中国の委託生産工場で製造した廉価品をウオルマート等向けに販売している。)米国の景気悪化をうけてフィリップスブランドの高級機種が伸悩み、値引き販売で採算も悪化。2010年3月期は4期ぶりの黒字だったが、続かず2011年3月期は再び赤字に転落。2012年3月期 2013年3月期と売上の急激な落ち込み(売上は2010年3月期がピーク)。損失の拡大が続いている(2011年3月期から3期連続最終赤字でしかも赤字額拡大)。
 2013年3月期の売上高は前期比22%減の1920億円。営業利益が52億7000万の赤字。前期の4億6100万の黒字から赤字化。さらに純利益は前期46億2900万の赤字が,今期85億4200万の赤字に赤字額を大きく拡大した。船井は国内販売の不振を主たる理由に挙げているが かつての勢いはどこにもみられない。

独自ブランドによる新興国市場開拓 
 そもそも液晶テレビ事業はパネル価格の上昇と製品販売価格の下落で利益率が低下。2007年3月期には最終赤字に転落した。これには税金をめぐるトラブルも大きく影響した。そこで従来の生産のありかたの見直しを進めている(2008)。北米の販売では、高機能品にシフト。高機能AV、大型液晶TV、次世代DVD再生機など。しかし大手との価格競争で苦戦。
 このような変化を先読みする形で、2006年からは家電最大手のヤマダ電機と組んでFUNAIブランドの液晶テレビの国内販売を始めていた。あえてOEM生産から離れたのは、ブランド力をこれからの生き残りの重要な課題と意識したからだという。しかしこの国内販売が船井の足を引っ張ったのは皮肉だ。船井は得意とする北米でのテレビ販売では成果を上げたものの(2008-2009当時 船井の主力のテレビ販売事業は8割を北米に依存。後述するように2008年にはフィリップスブランドを取得。2008-2009 北米の景気減速の影響をうけたものの 2010年には業務用テレビ事業に参入など)。
2013年1月になってこのフィリップスのオーデイオ事業を取得するとの発表があった。チグハグなのは現在の船井の業績が必ずしも良くない中で、180億円を投じての買収とされた点だ。そしてさらに2013年4月には,米国のプリンターメーカーであるレックスマーク・インターから、インクジェットプリンター事業を95億円で譲りうけるとの報道が続いた。すでに見たように2013年3月期の船井は85億円余りの赤字。巨額の赤字のなかでの企業買収は、少し変だ。
 この北米事業についての一極集中をリスクととらえた船井は国内、そして新興国戦略を強化。中国(2011年春にも)。インド(2012年春にも)にそれぞれ自社ブランドでも参入したと伝えられる。しかし新興国でのブランド力はなお低く、現地メーカーとの競争も厳しい。国内で2010年夏の地上デジタル放送移行後の反動減。2011年大震災。さらにタイ水害による品不足。円高ドル安による為替差損などの影響を受けた。事業環境も厳しかったといえる。

価格競争に巻き込まれる
 2007年には価格下落ペースが速く採算の合わない、プラズマテレビの生産や42型液晶テレビの生産から撤退などの手を打ったものの、税負担が増えたことも響き08年3月期は2期連続赤字の見通しとなった。台湾のメーカーからの液晶パネル調達に手間取り販売機会損失もあった。
なお船井電機のOEMの特徴はアッセンブラー型といい、液晶パネルなど基幹部材の供給を外部メーカーに頼るやり方。これに対して日本の大手電機メーカーは、基幹部材の内製化producing in-houseを重視している。
 これは技術革新が激しく市場価格の低下の激しい部材を使った商品の場合、肝心の部材を生産していないと、技術革新のメリットによるコスト低下のメリットをうけにくいからである。船井の事業モデルは、日本の大手家電メーカーとは差別性を保っていても、新興国の競合メーカーとの間で決定的といえる差はなく、比較優位性を失っているのではないか。

ビクターとの業務提携(2008年1月)
 こうした中で同様に液晶テレビ事業で調達コスト上昇で収益悪化に苦しむビクターと船井が2008年1月に業務提携を発表した。将来的には製品の共同研究や共同開発に踏み込む計画だ。
 当面は、ビクターのメキシコ工場で作った液晶テレビを北米で船井ブランドでの販売を開始する。またその後、船井のポーランド工場で生産開始する液晶テレビを欧州にビクターブランドで販売する。こうして互いにOEM生産することでそれぞれの工場の稼働率を引き上げ、製造コストを引き下げるとしていた。
 将来的には、ビクターは大画面テレビ、画像処理技術に優れており、船井は中小型が得意で、トヨタ生産方式に学んだ低コスト生産技術を誇ることを生かして共同開発したテレビをビクターブランドで全世界で販売するとした。
 もともと松下電器の子会社だったビクターは、2007年6月ケンウッド(音響・映像メーカー、カーオーデイオでパイオニアに次ぎ2位)と経営統合ですでに合意している(両社は上場廃止、持ち株会社が上場の見通し)。松下は、1954年にビクターを傘下に入れたものの、事業分野の重複があり、価格競争が激しいAV製品を抱えるビクターの業績は低迷。松下電器は売却先を長年探してきた。
 そしてビクターの経営再建はケンウッドとの統合でなお十分とは、考えられなかった。大きな問題は規模の問題で、両社を合わせても大手の10分の1という規模。さらなる生き残り策が必要だった。ビクターにすれば、そこに船井との提携の意味があったのだろう。

フィリップスの北米液晶TV事業を取得(2008年4月)
さらに2008年4月に船井電機の次の一手が出て注目された。船井電機はオランダの電気大手、フィリップスの北米液晶TV事業を取得することで基本合意に達したと発表した(これはフィリップスとの間でブランドライセンス契約を結ぶという手法による)。船井は将来、北米でフィリップスブランドで液晶TVを販売することになるという。フィリップスにとっては北米の同事業からの撤退だが、船井は、北米での販売額を従来の9位(3.1% 2007)から、フィリップスの販売高を加えて4位(9.4%)に躍進させ、攻勢に転じるものと見られた。
 すでに見たように船井の売上高は2010年3月期をピークに減少。2013年3月期にむけて2011年3月期から3期連続して最終赤字を増やすに至った。船井は北米の経済状況に左右されただけというには、この傷は深い。船井の復活はあるのだろうか。

ミスミ:独自の事業モデルと積極的国際展開で堅調 
船井電機と同様に独自の事業モデルに有名になった企業にミスミがある。船井と違ってというと船井に悪いがこちらは元気である。
2013年3月期(連結)売上高は3.6%増1348億円 営業利益が1.0%増168億円 純利益5%増の98億円である。売り上げの地域別構成を見ると米国金型部品メーカーを買収したことも作用して、海外売買比率が平均で26.4%大きく伸び、売上高に占める海外の比率は27.5%から33.6%(これには日本での売上高が5.1%減ったことも大きい)に増加した。
 ミスミはある意味で一気に国際化し、そのことが売上高の減少を食い止めたともいえる。ではこのミスミの独自の事業モデルとは何かであるが、それは機械部品の調達において、まず小規模部品メーカーとの協力の上で商品を「標準化」してカタログに掲載、部品一つでも短納期を実現したことにある。部品調達に必要だった手間と時間が、顧客メーカー、部品メーカーで節約できるというもの。標準化と豊富なバリュエーションとの矛盾を解決するのが、「半製品」の在庫をもち、注文に応じて最終製品に仕上げるというもう一つの考え方。この事業モデルを今ミスミは世界に問うようになっている。

購買代理商社ミスミの行き過ぎたアウトソースの軌道修正
 購買代理商社と自らを呼ぶミスミであるが、そのもともとの業務は小ロットの部品の供給を中小企業から請け負うというもの。その事業モデルは、経営資源の徹底した外部化に特徴があり、もともとファブレスだけでなくたとえば物流センターのほか、社内外の情報システムなどを外部化して急成長した。
 ところが近年に至ってミスミはこの事業モデルの修正を進めたことが注目されている。行き過ぎたアウトソースによって、経営資源となるべき重要な情報やノウハウが社内に蓄積されていないことが、反省されるようになった。
 2005年4月に最大の協力メーカーであった駿河精機を経営統合。グループ内に生産機能と技術力を備えるようになった。その後、2008年3月には精密機械メーカーのSAパーツを統合している。中国、韓国、タイ、北米、ベトナムと海外生産拠点拡大(海外生産拠点は18拠点)。また海外営業拠点は47拠点 配送センター10拠点に広がっている(2013年5月現在HP

参考文献
クロスボーダーM&A成功事例:JT(大和総研2011)
船井と奇美Gの提携(20060215)
無署名「常識にとらわれない戦略を戦う(船井電機)」Create Value社メルマガJan.5, 2005
小林秀雄「ミスミ:アウトソーシングの真髄ここにあり」CIO Magazine Jan.2001
松尾順「ミスミのコアコンピタンス修正」Insight Now Oct.31, 2007

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Reposted in May 23, 2013

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