海外における原発事故
原子力エネルギ-の活用について賛成派は、環境問題を挙げて温暖化ガスの排出削減を実現しつつエネルギー供給を賄うには原子力エネルギーに頼ることは不可避だと議論する。反対派は、事故の事例や放射性廃棄物処理の問題を挙げて、これがまだ完成された技術ではないと指摘して、導入普及に反対する。日本は唯一の被爆国のキャッチフレーズにもかかわらず、世界の中では原子力発電の導入が進んだ国になっている。
ビグロー監督、ハリソン・フォード主演のK-19:The Widowmaker(2002)は、ソ連の原水艦の船内被爆事故という劇的な事件を扱った映画だった。ソ連の事故を扱う形で、間接的に放射能汚染の危険をはらむ原子力エネルギーに疑問を呈したもの。原子炉の修理のため、死を覚悟して突入する船員が作業後、衰弱しきって担ぎ出される様子は迫真的だった。
原子力エネルギーへの懐疑を示した映画はこのほかにも例があり、たとえばThe China Syndrome(1979)はJames Bridges(1936-1993)の脚本・監督、Jane FondaとJack Lemonの共演の映画で、原子力発電所の炉心溶融(melt down)の恐怖を描いたものだった。1979年3月のこの映画の公開直後にThree Miles Islandsの原子力発電所で実際に炉心溶融の事故が起きたことで、その先見性も評価された。
Jane Fonda(1937-)は12 Angry Men(1957)などで知られるHenry Fondaの娘(なおPeter Fondaが息子)だが、生涯を通じて政治的にラジカルな立場を貫いたことで知られる。とくにベトナム戦争末期の1972年にハノイを訪問したことはアメリカ国内では利敵行為と取られ一つの事件になった。最近ではイラクとの開戦に批判的な立場を貫いた。愛国的な議論が中心のアメリカ社会の中で孤高を守ってきたとも言える。
なお原子力発電所についてのもっとも大規模な事故は1986年4月ロシアのチェルノブイリ発電所で起こったもので、この事故による被爆者は300万人を超えた。この事故を収束させるために死を覚悟して作業に従事した兵士や作業員の英雄的な悲劇は語り次ぐ必要があり、5万人を超える作業員が被爆により死亡したとされている(住民への影響や被ばくによる死者の数については諸説がある。死者数で低い数があるのは放射線の影響による断定できるものだけを死者数として把握する研究者がいるためである。)。この事故は、グラスノチ(情報公開)政策につながり、結果としてソビエトの社会主義体制が崩壊する一因ともなった。
今中哲二 チェルノブイリの死者数について
またこの事故は欧米各国が原発の新設に慎重になることともつながった。しかし2000年代に入って状況は大きく変化しつつある。太陽光、風力などの代替エネルギーの開発になお限界があるなか世界のエネルギー需要は拡大を続けている。化石燃料に頼ったエネルギー供給は、石油価格の高騰をもたらし、安全保障の観点から、これまで原発建設を凍結していた欧米各国政府が、建設再開を議論し始めている。中国やインドでの建設は加速している。これには地球環境問題に役立つという切り札もある。ただ使用済みの核燃料の処理問題は依然として見通しが立っていないし、欧米では原子力発電に批判的な声がなお少なくない。
日本の原発事故
日本でも死者を出す事故が繰り返されている。1999年9月30日にJCOが燃料加工中に起こした核分裂反応の臨界に達したとされる事故では、作業にあたっていた作業員3名が1シーベルト以上(自然界での被爆は2.4ミリシーベルト。250ミリシーベルトまでは有意な影響はないとされる)の多量の放射線を浴び、2人が死亡した。また2004年8月9日に福井県の関西電力美浜3号機で起きた配管破損事故では高温高圧の蒸気を11人の作業員が浴び、うち5人が死亡した。
JCO事故被ばく治療の記録
原発関係者の間では放射能漏れを起こしたJCOの事故の方が深刻だとされるが、高温高圧の蒸気を多年にわたり通す配管部分が摩滅破損に至ることが分かっているのに、建設(1976)以来、点検・配管換えを行わなかった電力会社を始めとする関係者のコストや効率を優先した意識の構造からすると、美浜の事故の方が深刻な問題だといえる。
原発偏重からの脱却急ぐ東芝
しかしこのような事故を忘れたかのように、日本の重電メーカーは原発新設の動きに敏感に反応している。2006年2月に東芝は米原子力発電大手のWHの買収を決めて、WH社が開発生産する加圧水型軽水炉(PWR)で優位に立つことになった。東芝はもともとGEと沸騰水型(BWR)で提携関係にあった。このWHの買収で東芝は、三菱重工業やGEなども競り合い、結果として買収価格は54億ドル(6400億円 2006年10月約4900億円とも)という高値になった。WHの企業価値はこの3分の1程度ともされる。
その後2006年10月までに、当初から東芝が出資交渉をしていた丸紅が、原発事業の長期性が社内基準に合わないこと、保守サービスの仕事が期待したほど大きくないことなどの理由から、出資を断ったため、東芝は原発事業のリスクを大きく抱え込むことになった。東芝は原発機器を半導体、家電とともに中核事業として経営資源を集中する構えである。しかしこの東芝の戦略は極めてハイリスクである。半導体や家電の収益を原発が食いつぶす可能性は高い(原子力に傾斜した東芝の戦略はわかりにくい)。
2005年6月に岡村正氏から西田厚聡氏に社長が交代して以降(2005-2009)、東芝は戦略的に選択した分野に高水準の投資を集中することによる成長戦略を明確化している。2006年3月には三重県四日市市に5000億円をかけてフラッシュメモリーの新工場を建設することを決めている。デジタル機器の分野では、市場が他方では急拡大しているので、高水準の投資により増産して生産コストを引下げ、市場シェアを維持することが生き残りのために必要だとはされている。しかし半導体投資と合わせて原子力事業へのシフトする姿勢に不安を感じたアナリストは少なくない。大丈夫だろうか。
他方GEはその後2006年11月、日立との間で原発事業を実質的に統合すると発表した。BWRはPWRに比べて構造が単純なので建設コスと安いがシェア競争では劣勢である。出力シェアではPWRが7割とされ、国際的受注競争にはPWR技術が不可欠となる。なお長年WHにPWRの技術面で協力してきたのが三菱重工である。しかしWHが東芝に買収されたことから2006年10月にはPWRに強い仏アレバと中型の共同開発で提携、さらにGEとは独自開発の大型PWRで米国での販売について提携交渉を進めている。2006年12月には三菱重工とWHは原発事業での40年以上にわたる提携関係を解消することを公表した。
東芝はGEとの提携関係があるにも関わらず、WH買収ではGEとの競合を辞さず、WH買収によって、WHと三菱重工業との多年の蜜月関係を終わらせたわけで、その買収はかなり強引ではあった。結果として買収金額が高騰することになった。
他方、WHを買収した東芝にも2007年6月末米NRGエナジーからBWR炉の新設受注獲得という朗報があった。背景には世界初の改良型BWRである東京電力柏崎刈羽原発6号機建設実績がうたわれた。2007年9月NRGエナジーは米原子力規制委員会に対して米国では1979年のスリーマイル島の事故以来30年ぶりの本格的新設申請を出した。
その後 2011年に東芝は次世代電力計大手のスイスのランデイスギアを23億ドルで買収。電力事業に極めた偏った投資を続けた。問題はこれらの巨額投資の成果が見えにくい点にある。とくに東日本大震災後の原子力発電をめぐる基本的な環境の変化を東芝はなお理解していないのではないか。
この東芝の戦略を支えたのは、原発事業部門出身の佐々木則夫氏(副会長2013- 社長2009-2013 副社長2008-2009)。重電事業を東芝の稼ぎ頭に育てた立役者とされる。原子力村を代表する人物ともいえる。確かに電力事業は火力発電の効率化、再生可能エネルギー、省電力システムなど新しい事業の余地はあるが、原子力自体は今後も東芝の足を引っ張る可能性は高い。原子力発電にそもそも反社会的な問題があるという考え方がおそらく佐々木さんはできないのではないか。インフラで安定した需要が見込めるのは効率のよい火力発電や送電変電設備など省電力技術。その意味で2013年1月に発表されたGEとの火力での合弁会社設立は正しい方向だろう(この合弁は2012年10月に公表された三菱重工業と日立の火力発電事業統合に対抗する側面がある)。
2013年に社長は交代。後任は田中久雄さん。資材調達部門出身者の社長就任は東芝では初めてとのこと。2014年3月期の収益事業は半導体事業。スマホ、タブレット向けのNAND型フラッシュメモリー。ビグデータ解析用のメモリーの出荷が好調(今後は高機能メモリーの生産を進める予定だが、サムソンを追撃する攻めの姿勢が大変喜ばしい)。あらたな事業分野の核として、東芝が掲げたのはヘルスケア事業である。すでにCT(コンピュータ断層撮影装置で東芝はGEやシーメンスに迫る世界3位)という実績もある。磁気共鳴画像診断装置(MRI)でも上位。今後医療用3D画像デイスプレー装置など社内技術の活用も期待されている。半導体技術を生かして呼気診断、インフルエンザウイルスの検出機器などの開発も進めているとのこと。
2013年12月東芝ハスペイン大手電力のイベルドロラから英原子力発電事業会社ニュージェネレーションの株式50%を取得することで合意した。取得価格は8500万ポンド(約140億円)。考え方は2012年10月にホライゾンを買収した日立と同じで原発設備の受注納入後に、経営権を再度売却するというもの。・・・しかし経営権というより設備納入という利権のやり取りのため企業の経営権を買収するというやり方は企業倫理として問題はないのだろうか。
日立
この間の2006年6月に日立製作所が重大な事故を起こした。それは中部電力浜岡原発5号機でタービンの羽根が破損脱落し原子炉が自動停止したという事故である。この原発は改良型BWRで2005年1月に稼動を始めたばかりのもので、国内では最新鋭かつ最大級。ところが事故後、調査したところ、ほかの羽根からも多数のヒビ割れがみつかった。この事件を受けてやはり日立製作所が製作した同型機が入っている北陸電力の志賀原発2号機を止めて点検したところ、まったく同様に羽根部分に多数の損傷がみつかった。一連の事故の原因は日立製作所の設計不良によるとの指摘がある。また羽根を回す蒸気には放射能が含まれており、点検・修理は長期化する見通しである。その間、石油発電に代替するコストアップ分は中部電力の2006年度分だけでも1300億円とされ、中部電力と北陸電力は2006年12月末に日立製作所と損害賠償請求交渉に入ることを正式に発表している。
日立が2006年11月に原発事業を本体から離してGEとの間で日米でそれぞれ新会社を立ち上げることにした背景には、北米での受注という懸案があった。事実、このあと日立=GEは相次いで米国内での受注に成功している。
もともと原発をめぐりGEはBWRに強く、WHはPWRに強く、重電機メーカーの間には複雑な対抗があった。東日本大震災で事故をこしたのはBWR型。
余談であるがGEとWHの対抗は電力発電の初期にエジソン=GEが直流発電を唱えたのに、テスラ=WHが交流発電を唱え争ったことを彷彿とさせる。なお直流DC・交流DCの争いは、電力ロスの少ない高圧送電が可能な交流方式が勝利している。ちなみにHZというのは電流の向きが入れ替わる回数を指し、西日本は60HZ(アメリカ式)、東日本は50HZ(欧州式)になっている。
ところがこの状況において、2007年3月北陸電力は1999年に志賀原発で臨界事故を起こしていたのに隠蔽していたことを明らかにした。現場の判断だったというのだがそれで済むかどうか。また前後して東京電力は1978年に福島第一原発3号機で臨界事故があったことを発表した。いずれも制御棒が抜け落ち長時間臨界状態が続いた。原発の製作はいずれも日立で電力会社の隠ぺいに協力していた。制御棒が落ちたのは水圧を調整する弁の操作を誤ったためとされる。しかしその後の調査で制御棒が脱落する事故が実は全国で多発していることもわかり日立と東芝は調査と対応を求められた。その中で日立の作成した手順書に問題があったと北陸電力は主張し日立はこれに反論している。
日立はその後 リーマンショックで2009年3月期に日本の製造業で最悪の7873億円最終損失を計上。事業の整理を優先して(上場5子会社の完全子会社化による利益流出抑制 デジタル家電の縮小)業績のV字回復を果たした(その後2011年3月にはHDD事業を米ウエスタン・デジタルへ43億ドル3500億円で売却を合意している。日立は2003年に20億5000万ドルをかけて米IBMのHDD事業を買収した。しかし価格競争が激しいHDDで苦戦07年3月期まで5期連続赤字で苦しんだ。2010年シェアは17.5%で世界3位。これを首位のウェウスタンデジタル31.3%に売却で合意した。同事業については2011年3月をめどに上場する方針を固めたとの報道が2010年9月になされていた。この時点では営業黒字に転換しているものの、事業の継続には多額の投資が必要であることが上場の背景にはあった。前後してサムソン電子10.3%も米シーゲイトテクノロジー30.0%へのHDD事業売却を発表している)。
2010年4月に日立の副社長から社長に昇格した中西宏明氏は2005年から米国HDD事業子会社トップとして建て直しに汗をかいた。その再建手腕を買われて2009年に副社長に返り咲き(もともと2006年に副社長で社長候補だったが米子会社に転出)翌年の社長就任となった。
日立はなお原子力発電事業の再生を期しているというべきか(世界のなかで国策として原発を進めてきた日本は原発技術大国になった)。2012年11月に英国の原子力発電会社(ホライゾン・ニュークリア・パワー)の買収を決めている(同社はドイツの電力会社であるイーオオンとRWEが2009年に設立。2ケ所で最大6つの原発を新設する計画だったがドイツ政府の政策変更を受けてイーオンなどは計画撤回を表明。売却先を探していた。イギリス政府の意向もあったとされる。日立はとりあえず全株取得ののち出資比率を下げてリスクを軽減する計画。日立はカナダのエンジニアリング会社SNCラバリンと組んだ。強豪は東芝傘下のウエスチングハウス)(運営保守 資金調達まで考えると事業の成否はどのような国際チームを組織できるかにもかかっている。2009年ニアラブ首長国連邦の原発商談で韓国に負けたことが背景にあるとされる。決めては低価格+60年の運転保証)。英国は欧州諸国とは異なり原子力発電を継続する構え。同社を買収することで、発注元そのものを確保する戦略。受注後、株を売却する戦略という。しかしながら原子力発電に伴うリスクから、逃れようがないこのやり方は理解を超えてリスキーだ。
同じことがリアトニアでの原子力発電についてもいえる。すでに2012年12月の国民投票で原発新設に対して反対多数という国民の意思は示されている。なぜ日立がリスクの塊である原発(12年度の原発事業の売上高は1600億円)にこだわるのかは理解しにくい。
2013年11月 日立と三菱重工業は両社の火力発電事業の統合を発表した。総人員2万3000人。売上高1兆2000億円の大きな会社である(2014年1月発足 三菱日立パワーシステムズ 主力はガスタービン。日立は中小型を得意で欧州、アフリカに実績多い。三菱は大型のライアップが豊富でアジア、中東に強く補完性が高い。出資比率は三菱重工業65% 日立が35% 統合実現に向けて日立が譲った形)。
2014年3月期。業績の押し上げは建設機械や高機能材料。ハイブリッド車向け材料。スマホ向けフィルム。大企業向けストレージ(外部記憶装置:データの長期保存設備であるストレージ需要は拡大傾向 2010年の日立の世界シェアは6%で世界6位。トップは米EMC26% 2011年9月に米ブルーアークを約500億円で買収 2006年から同社からOEM供給を受けていた)。水処理プラント。高速鉄道向け車両と保守サービス(イギリスから866両を受注。2014年中にも鉄道事業の戦略立案機能を英国に移管。グローバル展開を加速する)。
日立は2013年3月末の連結子会社939社。うち海外が599社。4年前より約100社増えている(他方国内は減っている)。グループ32万人のうち11万人が海外だが、今後海外が急速に増える見込み。大卒社員の海外勤務は全員が前提。採用人数の1割は外国人とし、10月入社も始めた。国際化にも力を注いでいる。
柏崎刈羽原発の被災(2007年7月16日)
ここで衝撃的な事件が起きる。2007年7月16日に発生した新潟中越沖地震での東京電力柏崎原子力発電所の被災である。3号機の変圧器の火災が騒がれたが、放射能漏れやクレーンの破損などが起きたのは東芝の6号機だった。この事件では、東京電力から地元自治体や政府への連絡が遅れたことが表面化し、東京電力への不信感が広がった。しかし東芝の発電機の破損はどう考えればよいのか。原発本体の耐震基準は高度で、耐震基準が低い施設が想定外の揺れで破損するのは当然という東大教授の合理的コメントに住民は納得できないのではないか。必要なのは不安の解消であって、起こったことの客観的な分析ではない。原子力エネルギーについては地元住民などの安全確保を何よりも優先する姿勢が電力会社や原発メーカーには求められる。様々な耐震基準の施設を組み合わせることが合理的であるかも問われる必要がある。この結果、柏崎原発が停止したことにより火力発電を増やしたり他社から電力を購入したりで東電のコスト増は2000億円規模とされる。
原発再開は何をもたらすか
その後の原油価格や為替相場の問題もあり、2008年度の代替燃料負担額は5850億円に膨れ上がった。2009年2月に柏崎刈羽7号機(国内最大級135万6000kw)の使用停止命令解除がだされた。2009年度の年間負担予想額は830億円程度だった。つまり年間で800億円の収益改善効果が生ずるという。2009年6月下旬の営業運転再開のあと、6号機も運転再開の見通しである。 1kwの発電原価は原子力5-6円、火力7-8円、水力8-13円という数値である。
1-7号機すべての能力は800万kw 原発全体の17%
規模の大きな柏崎の停止は原発の稼働率8割から6割にさげた。電力をつくるときのCO2排出量が、原発は火力発電の30分の1以下。柏崎の停止で2007年度の日本のCO2排出量は7割方増加した。逆にいえば政府の排出量抑制(低炭素社会の実現)の前提にあるのは、原子力発電の増加だ。したがって原発再開により、CO2排出量抑制は一挙に進むというのだ。しかしこれだけプラス効果を並べられると、使用済み核燃料の問題など、発電に伴う問題が未解決であることや、しばしば起きる原発の停止は、原発固有のリスクであるとして、正常稼動を前提にしたコスト計算に疑問をだすことも必要だろう。
日本で最初の炉心溶融事故 福島第一原子力発電所の炉心溶融事故(2011年3月11日)
北米産シェールガスの輸入
東日本大震災後、原子力発電の稼働がとまる(2013年9月関西電力大飯原発が定期検査で稼働停止。2014年6月現在 国内のすべての原発が稼働停止中。このような事態は2012年にも一時生じたが、今回は1年近く続いている。原発停止で燃料費の高騰のほか(この結果として電力各社の経営が赤字化している。ただ電力会社は投資額も大きいことに注意。たとえば電力会社は火力発電所の増設:新設建て替えなどを急いている。また他社との提携も活発化している。東電―東京ガス、中部電力、大阪ガス)、夏場の電力需給ひっ迫が心配されている。しかし原発が停止しても問題がないことも明らかになりつつある。ただし原子力発電の依存度が高かった関西電力や九州電力は余裕がないとされる。政府としては、原子力規制委員会の安全審査を急ぎ、原発の再稼働をめざすほか、企業の自家発電増強を補助金で支援)なかで生じたLNG価格の上昇により、電力会社の経営は圧迫されている。そこで期待されているのが安価とされる北米産シェールガス由来のLNGの調達。
なお電力のひっ迫という電力会社の宣伝にもかかわらず、電力需要は実は減少している。電気料金の上昇も影響してる。2011年3月から14年3月までで電気料金(家庭用)は30%上昇。夏場のピーク時の電力需要は東京電力管内で15%も減っている。
注目される石炭発電の効率化
石炭は排ガスの面で悪者にされがちだが、燃料コストは安い。またガス化すると一挙に発電効率も改善する。これを石炭ガス化複合発電ICCCという(ガスタービン発電+蒸気タービン発電)。さらに燃料電池による発電を組み合わせた石炭ガス化燃料電池複合発電ICFC(+燃料電池発電)になると、通常の液化天然ガスLNG発電の発電効率を上回るとされる。設備費は高いが、燃料費の安さから、トータルノコストは引き下げられるという。
また従来の固形の石炭での蒸気発電でも高温高圧を高めることで効率を上げる研究も進んでいる。発電効率を高め、排ガスを抑える研究(二酸化炭素は分離回収)を進むことが期待されている。大型の最新鋭石炭火力発電所の建設がコスト切り下げの切り札として活発化する見込みだ。
驚異的な伸びを示す代替エネルギーの開発
原子力発電とはちょうど逆になる太陽光、風力など代替エネルギーの問題をここではつぎに考えよう。そのうち、太陽光や風力は、コスト的には割高である上に、天候に影響されやすいため、安定的電力源としにくい。
2007年10月にフランス政府が発表した温暖化ガス削減策によると2020年までに風力発電など再生可能エネルギーの割合を2割程度にまで高める。再生エネルギーに関する研究費を来年から原発と同じ水準にする。今後高速道路と空港は新設しないとも。
このフランス政府の方針はEUの方針を受けたもの。EUではすでに2020年までに風力や太陽光など再生可能エネルギーを7%から20%に高める目標を掲げている。CO2については2020年までに1990年比で20%以上引き下げ、先進国全体では30%削減としている。
原子力発電のメーカーがこうした代替エネルギー開発を合わせて行っていることもある。たとえば三菱重工業は風力発電機の開発や生産を行っている。小型が1メガワット。2006年末から生産を始めた大型は2.4メガワット。売上は2005年度に300億円程度だったものがアメリカを中心2009年度には2000億円に達するという。このほかGE,ドイツシーメンス、フランスのアレバ、アルストムなど。世界最大手はデンマークのヴェスタス・ウインドシステムズ。
風力発電とともに驚異的な伸びが見られるのは太陽光発電。2006年の世界の生産量2500メガワットは前年比4割増。主流は多結晶シリコン型。シャープ、京セラ、三洋電機など。発電効率高く量産技術確立。原料のシリコン調達難。またこの前段階になるのがシリコンウエハー。そのメーカーにはエム・セテック、SUMCOなど。2007年度中に新日本製鉄が量産開始。JFEスチールが量産プラント建設。ホンダや昭和シェル石油が非シリコン系化合物半導体型太陽電池の量産開始。三菱重工業、カネカが非晶質(アモルファス)型(ガラス基板)。富士電機システムズが(フィルム基板)の生産を行っている。多結晶シリコンに比べ発電効率は悪いが薄く軽量。設置費用も安い。
なお太陽光パネルは2009年に2008年からの金融危機の影響で中心的市場の欧州で需要が減少。パネルの在庫が発生する一方、新興国で割安なパネルの生産がはじまった。この結果、パネル価格が大幅に低下、コスト競争が激化している。2009年ドイツのQセルズが赤字に転落。シリコンを使わない太陽電池を開発した米ファーストソーラーが業績を伸ばした。なお昭和シェルも、シリコン不要の太陽電池の生産を2011年下期にも開始するようだ。
ゴルフ場や遊休地を利用するメガソーラー(大規模太陽光発電所)が急増している。画期となったの2012年7月に導入された再生可能エネルギー買い取り制度。出力1メガキロワットの一般的な建設コストは3億円前後。電力収入は年間5000万円弱(1千キロワットの発電能力で年間売電収入は約4000万円 この売電権の相場は300万から1000万)で経費を含めても8年程度で投資を回収できるとのこと。
太陽光の買取価格は2012年でキロワットあたり40円(税抜き)から13年度36円 14年度32円と毎年低下している(他方、風力発電の買取価格は引き上げられる 買い取り価格が高すぎたという判断と太陽光以外を促すことが想定されている 風力や地熱の買取価格を引き上げる方針。地熱と風力は適地が限られるため、今後は洋上風力が注目される ただ洋上風力ハコストが高いため現在の22円では採算が取れないので引き上げることに。また洋上風力については騒音や振動。漁業者との交渉対立。海中での送電網設置などの困難や生態系への影響を懸念する意見もある)。
太陽光パネルの価格が急速に下がっているため、国から発電計画の認定を早めに受けて、着工を遅らせる業者が急増して問題になっている(2013年7月末までで設備認定を国から受けた設備の発電量は2300万キロワット超 その9割超が太陽光に集中している また認定済みの7割近くが稼働していないとも)。そこで経済産業省によると、計画の認定をうけながら発電をはじめていないものが4700件におよぶ(申請の8割が運転をはじめていないとも 融資の不調 地権者との調整不調)。このうち土地あるいは設備のいずれも確保していない570件と調査に回答しなかった100件の認定を取り消す方針。いずれかか一方しかを確保していない780件については8月までに両方を確保することを求めて、確保しなければ認定を取り消す方針とのこと(2014年2月)。
他方、新たに注目されているのは太陽光発電より効率がいいとされる太陽熱発電。大きな面積は必要だが仕組みはシンプルでコストが割安であるため、注目されている。
このほか風力発電も金融危機の影響は受けつつ伸びている。しかし太陽光、太陽熱、風力は天候の影響を受けやすい(出力が安定しない 太陽光については積雪に弱いことも知られている)問題はある。
温暖化排出ガスの少なさと安定した出力という点で地熱発電も注目されている。石炭火力に比べて時間と経費が難点。米国、フィリピン、インドネシア、NZなどで計画が進んでいる。
数値としては再生可能エネルギー買い取り制度の対象として認定を受けた件数で測られるものが一つであるが、もう一つの尺度賭しては2013年春から新電力と呼ばれることになった、「新電力」の事業者の数でも示される(2000年の電力自由化で導入されたもの 2010年度末46社が2013年度末153社に)。これは従来 特定規模電気事業者PPSとよばれていたもの。契約電力50キロワット以上の工場、ビルなど大口需要家に電気を小売りする事業者を指す。電力会社が計画停電や値上げに陥るなか、自社の工場の能力を生かして安定的に発電するもので、とくにガス会社(東京ガスや大阪ガスなど)、製鉄会社(新日鉄住金や神戸製鋼所、JFEなど)、製紙会社(日本製紙など)、石油元売り(JX日鉱日石エネルギーなど)などは、安定的収益源として本格的に発電事業に取り組む構え。電力会社そのものも子会社として新電力を設立し、ビジネスに参入している。また商社(丸紅―東電によるフィリッピンでの発電事業のほかインドネシアでも発電事業を展開など)は海外でも発電事業を本格化させている(2016年には家庭用も含めて電力小売りの全面自由化が予定されている)。契約する企業側からは、競争により大手電力より安い電気料金の実現が期待されている。
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original in Feb. 2008
corrected in June 15, 2014
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