Entrance for Studies in Finance

AIJ投資顧問事件(2012年)とMRIインター事件(2013年)

AIJ投資顧問事件(2012年2月)とMRIインター事件(2013年4月)
AIJ投資顧問の事件の余韻が残るなか、MRIによる資産消失事件が表面化した。
AIJ事件との違いは、こちらの事件の大半は個人でAIJのように企業年金から年金資産を受託運用していたわけではないこと。しかし開示内容と運用実態に差があったこと、資産の大半を消失させたこと、現時点で消失額1000億円規模はほぼ同規模の経済事件といえる。高齢者が老後の資金を失った例が多いという点で、犯罪が社会に与えた影響は似ている。こうした経済犯罪を被害が生まれる前に防止したり、取り締まることはできないものだろうか。

MRI資産消失事件(2013年4月26日)
 米金融業者MRIインターナショナルによる資産消失事件では米銀大手ウエルズ・ファーゴ口座に直接入金させることで安全性を装った。しかし実際は資金を分別管理せず口座には数億円しか残っていないとのこと。顧客には6-8.5%の利回りの高利回りと安全性を強調。出資金額に応じて高利回りを保証して、多額の出資をつのっていた。ちなみに1500万なら年6%。3000万以上出資者や多額の新規投資家を紹介した投資家を米国に無料で招くなど。米国の医療機関から安値で買い取った診療報酬債権MARSを保険会社から回収。
口座の資金をその投資に使い ここ々から顧客に配当金 償還金を支払うと説明していた。満期前の解約はできないクローズ型で解約するときは配当金は出ないとしていた。集めた資金は1000億円を超えるとのこと。
 円建てで高い投資利回りを保証していたため、円高によって、新規顧客の資金を別の顧客の配当にあてる自転車操業に陥り、顧客資産を喪失させたと推定されている。
 証券取引等監視委員会からの報告を受けて金融庁は2011年以降の過去2年間ファンド運用の実態がなかったとして、2013年4月26日に金融商品取引業者としての登録を取り消した。
(第2種金融商品取引業者。1000社以上あり定期検査の対象ではなく、今回は顧客の苦情等を受けて3月に検査に入っていたとみられる)。同社HPによれが2012年末で顧客数は8700人。預り金は1365億円。また同社日本支店の役職員数は同じく12年末で27人とのこと。
金融庁で今回の事件を受けて、事業ファンドについても有価証券届出書の提出を義務付ける方針。しかしこうした抜け穴を放置していた金融庁の姿勢は問題にされるべきだ。また今回の事件後も金融庁が、金融商品取引業者を野放しにしていることは大きな問題だ。
 伝えられる対策は、一定規模以上のファンドに対する検査監督を財務局から金融庁にうつすこと、嘘をついて顧客を勧誘した運用業者への懲役刑・罰金の引き上げなどである。
 
AIJ投資顧問による巨額損失事件 当事者4人の逮捕(2012年6月19日)
 こちらの事件の表面化はさらに1年以上前の2012年2月23日。それから4ケ月。2012年6月19日にようやく当事者4人が警視庁により逮捕された。さらに7月9日には浅川和彦AIJ投資顧問社長、高橋成子同取締役、西村秀昭アイティーエム証券社長の3人の容疑者が起訴された。その後、2012年12月には、この3人についての初公判。しかし判決までは、時間がかかっている。

AIJ事件で地裁判決(2013年12月18日)
 東京判決は2013年12月、浅川和彦被告に求刑通り懲役15年を言い渡した。浅川被告は2012年12月の初公判で起訴内容(契約に関する偽計と詐欺)をすべて認めたものの2013年7月の最終弁論では一転して詐欺を否定して争った。なお高橋被告は、全面無罪を主張した。共犯とされた高橋、西村被告に対しては求刑より1年減刑した7年の懲役が言い渡された。
 この事件に絡んでは年金に絡む、営業も浮き彫りにされたほか、浅川、高橋両被告が多年にわたり高額の所得を得ていたこと。破綻後も営業を継続し勧誘していたこと。最後の段階で浅川被告が無資産を装っていることなどがすでに報道されている。地裁判決が「厚顔無恥」と浅川、高橋両被告を非難したのは当然と思える。
 後述するように、この詐欺行為を働きながら、高橋、西村被告が得ていた所得は月当たり300万を超え、浅川被告に至っては600万を超える。金銭感覚そのものの麻痺を感じざるを得ないところだ。

ドイツ証券による贈賄の表面化(2013年12月5日)
 ところでAIJ事件の影の主役は、AIJの売り込みを受けた厚生年金基金である。営業攻勢を受けて、仲間の資産を消失させた厚生年金基金の担当者の行為も批判されるべきだろう。12月18日の判決に先立って、ドイツ証券が飲食や旅行などの接待を繰り返していたことがわかった。多額の収賄をする方もする方である。収賄側は三井物産の元社員で、接待を受けて年金の運用の判断をするなど、担当者として嘆かわしくみっともないことに思える。
 12月5日にドイツ証券の営業担当者そして三井物産連合厚生年金基金の運用担当者であった人物とが、贈賄そして収賄の疑いでそれぞれ逮捕された。この二人が逮捕されたのは、高額で頻度も多く目に余る行為であるということ。またAIJ事件のあと、年金担当者への証券会社による接待が社会問題になるなか、公然と贈賄、収賄を繰り返したことが、摘発の対象に選ばれたようだ。2014年4月の初公判でこの元ドイツ証券社員は収賄は、ドイツ証券ぐるみつまり彼単独の行為ではなく、会社一体の行為であることを主張した。判決が気になる所だ。

2009年の検査で見抜けなかった問題
AIJ投資顧問については、実は2012年2月のちょうど3年前にも摘発の機会があったとされる。
 すなわち、格付け情報センターほかの指摘を受けて証券取引等監視委員会は、2009年2月から投資信託の販売の窓口になっていたアイティエム証券(AIJ投資顧問の子会社に検査に入ったが、同4月これを問題なしと判定して、被害拡大に貢献したとの指摘がある。
 2002年ごろからAIJ投資顧問の前身のアイアイエムアセットマネジメント(2004年に商号変更)が運用受託開始。2004年3月期以降、一貫して損失が拡大。2007年には自転車操業化。2009年にはすでに解約に応じられない状況。2009年3月には損失は530億円に拡大していた。2009年の監視委員会検査後、委員会のお墨付きを得たとしてAIJは営業勧誘を続けた。2009年4月以降の新規契約・追加契約は92基金。約550億円の資金を追加で集め2011年3月期受託資産合計は1458億円に拡大した(消失額は1092億円。なお公表していた数値は2090億円で600億円ほど水増ししていた)。残っている現金は80億円。
 最終的に証券取引等監視委員会による2012年3月の検査で実態が明らかになった。それだけにつまり、実態を解明する力は委員会にはあったわけで、2009年2月の検査ではなぜ実態を見抜けなかったは検証される必要がある。

浅川和彦容疑者の主張と疑問
 ところで勧誘に際してAIJ投資顧問の浅川和彦社長は、高橋成子取締役に指示して作成させた水増しした虚偽の運用成績書を提示して勧誘を繰り返していた容疑で今回逮捕された。
 この浅川氏の行動で信じにくいのは、年収8000万円に加え私募投信の管理会社(管理会社は運用の結果にかかわらず管理報酬を受託基金から抜く仕掛けだ)からの5億円近い配当金(2005年1月から2011年末までの7年間で約6億円の役員報酬を受けたほか、約1億1000万円の配当を受けたっとことが割っている。)がすでに1円も手元にないとしていることだ。つまり年間で1億を超える収入7年間あって、今手元に1円もないとの主張だが、54万人の年金資産を毀損させた人物として、個人的に追及されることがわかっていて、資産を捕捉されにくい海外などに移した可能性を感じる。
 高橋氏についてはその人物像も主張も、また浅川氏との関係もよくわからない。入院しているとのことで事件発覚後、一切表に現れないことが不信感を募らせる。多年にわたり虚偽の報告書を作成して(犯罪の片棒を担ぎ)、年収4000万という常識を超えた年収を得ていた人物がなぜ、表にでてこないのだろうか。高橋氏による虚偽の報告書はどこまでが指図によるものでどこまでが高橋氏による意図的なものなのであろうか。
 浅川社長は2012年3月の衆議院財務金融委員会での参考人質疑では「だます意図はなかった」と主張した。しかし2012年12月5日 東京地裁の初公判で一転。起訴状の事実をすべて認めると述べた。高橋取締役、西村社長も起訴内容を認めた。なお検察側によれば、国内外の銀行口座に約98億円の資産が残されているとのこと。

AIJ事件 2012年2月23日金融庁公表 2月24日業務停止命令
AIJ投資顧問(東京都中央区 1989年設立 2002年6月に英領ケイマン諸島で私募投信を登記し本格的運用を開始(当初より運用利回りは虚偽) 2004年8月現商号に変更 資本金2億3000万円)
2006年3月末運用契約は61件運用資金は645億円
2009年3月末125件
2011年9月末127件 1984億円
2011年12月末94件 2043億円
(虚偽の運用実績で膨らんだ数値 顧客から集めた資金は1500億円程度 日本国内で先物取引をしていたとされる 残っている残高は現預金40億円 有価証券など海外資産20億円 浅川氏の主張はこのほか海外に180億円 合わせて240億円の資産が残っているとしている 実際に受託したのは1458億円 残余資産は251億円 うち国内銀行預金が32億円 香港の銀行に49億円 計81億円 AIJの顧客は94.ほかにアイテーエム証券kら直接投信を買った顧客が個人を含め12)
その後の報道では確認された資産は約250億円、すぐに返還可能な現預金は81億円。 
同社開示資料では2011年9月末で124の企業年金から1984億円の資産を受託(顧客の9割は総合型の厚生年金基金 3月末時点では)。なお企業年金のほか、事業法人、学校法人の資金を運用していた模様。2012年1月下旬より証券監視委員会の調査受ける。2月23日に運用している年金資産の大半が消失していることを証券取引等監視委員会が公表した。
2008年秋のリーマンショックでは1000億円の巨額損失。2009年春以降(2009年2月年金情報が警告情報を掲載)は、受託資産の大半を運用せず、そのまま顧客への払戻金に回していた(いわゆる自転車操業)。
 厚生労働省の調査(2月28日発表)では2011年3月末時点で84の基金が資金を委託(運用残高1852億円 影響を受けるのは加入者・受給者の計約88万人)。委託した資金の割合は、平均では9.7%。8基金では委託割合が3割を超え、もっとも割合が高い基金(神奈川県印刷工業)の比率は56.9%とのこと。影響を受けるのは現在の加入者53万9650人とすでに受給している34万4299人の合計で約88万人。
(2011年3月末で厚生年金基金の加入者数は447万人。加入者54万人に影響する今回の事件のインパクトは小さくない)
2011年12月7日現在についての同社提出資料(2月28日)では、AIJと投資一任契約を結んでいた企業年金などは94。そのうち厚生年金は81.
AIJ投資顧問社長の浅川和彦氏について オリンパスの事件に続き野村証券出身者である(なお浅川氏の経歴については1975年横浜市立大学出身 熊本支店長などを経て1994年外資系証券に転職 さらに投資顧問会社設立との)。取締役には野村で常務取締役を務めた松木新平氏。この二人の商品開発力(正確には虚偽の運用成績説明書を作成して説明する能力)や営業力は野村で培われたものとすれば、事件と野村証券との関係がないとは言いきれない。すでにオリンパスの事件で元野村證券社員の関与が話題になったばかりだ。このように野村証券OBの逮捕が続くことをどう考えればいいのだろうか。
 運用の中身が損失を重ねたものだったにもかかわらず(虚偽の成果による勧誘を続けたにもかかわらず)、浅川氏は月600万(年収7200万 11年3月期は7980万円だった)、事務担当の高橋成子取締役は月300万(年3600万 月350万年4200万という数値もある いずれにせよ極めて高額だ 運用実態を知っているこの人物は事件発覚後雲隠れを続けている)の巨額報酬を得ていたことも明らかになった(このほか間に入ったアイティエム証券、その社長の西村秀昭氏も巨額の報酬を長年得た。直近の年収は4000万円とされる)。これらの報酬は虚偽の運用成果報告書を基礎にしたもので、正当な報酬とはとてもいえない。この二人がどのように個人的に責任を取るのかも今後注目の的だろう。またアイテティエム証券の株式をめぐる取引で、浅川氏、西村氏、そして松陰女子学院の元学長の3人が個人的に巨額の利益を得たことが明らかになっている(2012年4月24日参議院財政金融委員会での質疑による)。54万人の年金を毀損させたこの二人が、この巨額報酬で優雅な老後を送るとすれば、社会正義上も問題があるだろう。
 このほか虚偽の報告書つくりに関わった公認会計士、人脈を使ってAIJの商品の売り込みを手伝ったとされる社会保険庁OB、販売に関わったAIJ傘下のアイテーエム証券、十分な知識がないのに資産の運用契約を結んだ基金側の責任者(委託していた74基金のうち47基金に計49人の天下り役人がおり彼らは高額の接待を受け遊興の末に基金の資金を委託し毀損させた)などの責任もそれぞれどのような中身と大きさになるのかはっきりさせたいところだ。

接待を受けて従業員の年金資産を毀損させた運用担当者はいたのか
 しかし反面、顧客には大企業の名前(富士電機 日本ユニシス SCSK コスモ石油 ライオン アドバンテスト 鬼怒川ゴム 大日本印刷 安川電機など)も並ぶ。この失態は企業としてとても恥ずかしく情けないことだ(これらの企業はAFJとの運用契約を結んだ担当者の責任を明確にするとともに、再発防止策を検討するべきだ)。なおその後、監視委員会がアイテイーエム証券(西村秀昭社長)を本格的に検査していることも分かっている。契約獲得には接待もあったとされる。接待を受けて従業員の年金資産や会社の財産を毀損させた人間が万一いたとすれば、大きな問題ではないか。その意味で各企業はこのAIJ投資顧問との契約の経緯をさかのぼって精査し、契約時点の担当者の判断が客観的になされていたかを検証する必要があるだろう。そして事件を再発を防ぐために運用ルールを見直す必要があるだろう。
 また企業年金として仕組みをみずから検証できない運用など論外とするべきではないか。

考えられた対策
企業年金について
・運用会社に改めてリスクや投資内容の説明・開示、監査報告書の提出を求める(監査内容の再確認)
・運用会社にリスク管理体制の開示を求める(内部統制監査を実施していない投資顧問とは契約しない)
・コンサル会社など第三者のチェックを強化する
・不適当と判断した運用先や商品を解約する 例 ヘッジファンド投資 不動産投資などいわゆる代替投資の打ち切り
・デリバテブ運用の比率を引き下げる

議論されたことがら
・年金運用の資産配分規制を復活させる(1997年に撤廃 債券50%以上 株式30%以下など)
・運用経験者の設置義務化
・運用担当者への研修を充実
・一つの運用先での運用を3割以下にする
・中小の年金資金の共同運用
・年金資産の分散計画の策定義務付け
・運用会社の選定過程や評価を開示
・基金の運用方針を決める資産運用委員会に学識経験者や実務経験者の配置を義務付け(外部人材を登用)
・運用コンサルタントの金融商品取引法上の登録義務付け
・生命保険や信託銀行の受託者責任の強化
・独立系投資顧問とは運用契約を行わない
・投資顧問を認可制に戻す(2007年金融商品取引法改正で認可制から登録制に規制緩和)
・投資顧問会社に厳しい監査報告やチェックを義務付ける
・投資顧問会社の情報開示の頻度、内容を改善する
・虚偽報告の厳罰化 最高6ケ月ー1年の懲役 ⇒ 1-3年程度に引き上げる 思い切った厳罰を
・投資顧問やファンドに外部監査を義務付ける
・外部監査を受けていない投資顧問とは運用契約を結ばない
・運用利回りの開示を義務付ける(運用成績の基準としてGIPS準拠で運用成績を開示することを求める)
・投資顧問会社の情報管理・不正防止体制をチェックするため日米いずれかの基準による内部統制監査の実施を求める
・代替投資の比率を3割以下にする
・運用経験社の助言を尊重する
・投資決定で外部のコンサル会社の判断を尊重する

厚生労働省
有識者会議報告(2012年6月29日)
基金を解散しやすく
・(解散基準の緩和 受給者の4分の3以上の同意)
・解散後の債務返済の軽減
・加入企業が連帯して債務返済する制度を廃止=代行部分の穴埋め負担の重さが解散の足かせ
基金の財務の改善
・運用計画の策定義務付け
・運用委員会に外部人材
・(一つの運用期間への集中投資の禁止)→ 各基金がそれぞれの運用方針を明確にすることが望ましい
・予定利率を引き下げやすく
・中小企業基金の共同運用
・OB減額基準緩和(両論併記)3分の2以上の同意+厚生労働省から認可の同意 3分の2から2分の1以上に変更できないか
厚生年金制度の存廃
・廃止の是非(両論併記)

金融庁
政府の対策案(金融庁 2012年9月4日発表)
 年金基金に対して 
・運用方針の策定義務付け
・資産運用委員会に専門人材登用(基金側に人材選ぶ余力と能力が必要)
・年金減額基準の緩和(受給者側が抵抗)は先送り
 信託銀行
・投資顧問が信託銀行に監査報告書ヤファンドの基準価格を3ケ月に一度提出義務 これを顧客に提出 これで運用監視 不正防止 問題の早期発見につなげる
 運用会社
・虚偽報告や勧誘への制裁 → 契約に関する偽計 懲役の上限 3年から5年へ
・顧客向け資料に基準価格算出方法などを含める

厚生労働省
厚生年金基金改革案(厚生労働省 2012年11月2日)
・財政難基金は5年内に解散
・国への返済額の減額か納付期間の延長を検討
・連帯債務返済制度の廃止
・最終的に残った積立不足額は厚生年金保険料で穴埋め
・中小企業向けに新しい企業年金を創設
・基金が確定給付企業年金に移行した場合、積立金不足額の償却期間を30年に延長
・10年後に厚生年金基金制度を廃止

厚生年金について
 厚生年金基金は同一業種の中小企業が集まってつくる「総合型」。一つの企業でつくる「単独型」。グループ企業でつくる「連合型」に分かれる。2011年3月末で総合型495 単独型47 連合型53の595基金。12年3月末では576基金(その半数の287基金が積立不足 総額は1.1兆円)(12年3月末で577基金 加入者440万人 資産残高約27兆円)。
 総合型は、保証利回りを5.5%(総合型の6割は5.5%という現実離れした利回りのまま)に対して積立が不足したままで、保証利回りを引き下げられない基金が多い(利回りを引き下げるためには積立不足の解消が前提 背景には企業間の意見の統一がむつかしいこと 母体企業の経営が苦しく積立不足の穴埋めや保険料率引き上げに踏み切れないことなどがある)。保険料収入より年金給付が多い。運用で高利回り志向などの特徴。
 総合型の母体企業は中小企業のため、非上場で会計基準に縛られなかった。これに対して単独型は上場企業が多く、会計基準が積立不足を財務諸表に表示するように会計基準が変更されたことの影響で、一斉に代行返上に走った(積立不足の場合:加入企業による穴埋め 見合う掛け金の一括拠出 掛け金の引き上げを伴う回復計画の策定が義務付け:現実には段階的な掛け金の引き上げも容認されていた)。
 年金積み立て不足を負債に計上する(すなわち負債が増え、それだけ自己資本が減る。現在は不足額を欄外に注記)という新たな退職給付会計の強制適用時期は当初2012年3月期からとされていたが、企業側の反対からたびたび延期。2014年3月期の連結決算から適用が固まっている。国際会計基準については、企業側の警戒感の高まりから2011年に導入スケジュールを見直す方針が、時の民主党政権で示された。この方針が、2012年末に成立した安倍政権で変更されるのかは、注目点だ。
 これに対して総合型では、代行返上が進まず、約半数が代行返上に伴う積立金がない代行割れの状況に陥っている(厚生年金保険料で穴埋めという考え方には、積立不足のない健全な基金は抵抗。また自己責任原則に反するとの批判もある。)。
現在、企業年金基金は、基金の規模、運用体制とは無関係に特定投資家(プロ)だと自称すれば、特定専門家限定の私募投信にも投資できる。金融商品についての細かな説明を、金融機関と年金基金は互いに省くことができる。金融庁では特定投資家となれる基準を設ける方針。また政府民主党では一投資顧問に委託できる割合に上限を設ける案が検討された。
 問題が基金のずさんな体制にもあることは、長野県建設業厚生年金基金のケースでも浮かび上がった。この基金の場合は、理事長が運用を主導して多額の損失を出したほか、基金の資金を横領して海外に逃亡している。AIJ以外に3つの投資顧問会社を通じて未公開株取引を自ら主導して、損失をだした(2012年10月に詳細が判明)。信託銀行や投資顧問は、しかるべき歯止めの役割を果たさなかった。このケースを見ると、基金側がプロを演じることにも「危うさ」が見える。

 民主党は厚生労働省内の反対を押し切って厚生年金廃止の方針を指示。9月末に厚生労働省は制度廃止の基本方針決める。厚生労働省では2012年10月末までに厚生年金基金(ピーク時には全国で1800超の基金。2011年3月末には595基金まで減少。同一企業の中小企業が集まってつくる総合型が495と大半とされる。現在の受給者と加入者合わせて700万人)を10年で廃止し、一部の基金の積み立て不足は厚生年金保険料で穴埋めする考え方をまとめた。
 しかしこれには積立不足のない基金の抵抗は強く、これまでの自己責任原則にも反するとの批判があった。2012年12月26日 政権を発足させた安倍政権は、この民主党の方針の見直しを指示したが、積み立て不足の厚生年金基金の解散を促すという方針は変わらないと見られている。

厚生労働省の責任
 なお厚生労働省は1997年に分散投資の数値基準(いわゆる5-3-3-2規制 債券5割以上 株式3割以下 外貨建て資産3割以下 不動産2割以下)を外した(数値基準撤廃は効率的な資金運用という視点から当然との主張だが、1997年の基準撤廃の狙いがリスクのある株式などへの年金資金の誘導=株価対策にあったことは周知の事実ではないだろうか)。
 しかし厚生年金基金に天下った社会保険庁OBがAIJを厚生年金に仲介したことが判明している。数値基準を外した無防備な状態で、これらの常務理事は資金運用に十分な知識がないまま基金の運用をAIJに委託した。監督先である厚生労働省は、天下り先は確保したものの資金運用の実態把握を怠ってきた。

特徴:年金と系列証券会社が組んでいたこと
 問題の年金運用はAIJが投資一任契約を企業年金とまず締結。そのうえで企業年金にケイマンの私募投信への投資を指図。それをAIJが実質的に運用という複雑な仕組みにして、実態を隠ぺいした。
 この私募投信を企業年金に勧誘する役割をアイティーエム証券が果たしたされる。同社はAIJと同じ建物のフロア違いとされる。つまりこの証券会社はAIJの営業部隊だったとされる。
アイティーエム証券 東京都中央区 資本金15億9050万円

運用内容:日経平均オプションの売りポジションで安定した利益を出せたか
日経平均オプションの売りで成績が安定していたことへの疑問 この取引をしていてリーマンショックや東日本大震災などで大きな損失を抱えないことは不自然。リーマンショック時に7-8%程度、東日本大震災時にも5%程度の収益を確保したとしていた。
Bloomberg Feb.29, 2012 不自然に運用成績が好調であったことへの疑問。

リーマンショックや東日本大震災でいかに大きな変動が生じたか
リーマンショック時のインプライドボラテリテイの上昇について 通常時の2-3倍に上昇した。
東日本大震災時のオプション価格の急騰について 5倍近くまで跳ね上がった。
2011経済白書より インプライドボラテリテイの推移
volatility indexについて

今後の議論
 年金の資産運用を担う投資顧問会社(投資一任勘定業務を手掛ける者=投資顧問業者は全国に263社 2011年9月末の契約資産は146兆円余り 2012年6月末の投資一任契約資産は138兆5000億円。投資判断や実行の権限を一任するもの=投資一任契約 国内顧客との契約が8割超 国内分の5割は公的年金 なお資金管理は信託銀行)に対する検査・監督が甘いという声も上がりそう。プロ投資家相手ということで規制が緩やかだった私募投信への規制(開示・監督など)を強めるべきではないか。2007年施行の金融商品取引法で、投資顧問業を従来の認可制から登録制に規制緩和。→ 事実上 投資顧問業は野放し状態。また厚生年金基金をプロの投資家として扱うことで国(厚生労働省)は今回の事態を招いた。
 金融庁では2月29日付けで265社に対して、会社の沿革 グループ会社 主要株主の状況 役員の兼職の有無 財務の状況 顧客の属性や契約金額 運用の概要 運用成果などについて金融商品取引法による報告命令を出した。3月14日までにすべての会社が回答を提出した。金融庁では早期に2次調査に入る予定。

年金運用の方向について
 リスクの低い運用へ移行 
 生命保険の一般勘定(一定の運用利回りを保証)増やす
 日本国債 高格付け社債増やす
 海外の国債 社債増やす
 代替投資増やす
 内外の株式を減らす(リスクの高い株式運用の比重を下げる)
  利回り追求資産は3割以下が多い
 注目されるインフラ投資

企業年金の今後の在り方について
 積立不足の解消(掛け金から拠出 一時的損失は費用処理)
 予定利率の引き下げ
 給付水準の引き下げ
確定拠出年金の導入 移行
 確定拠出年金+マッチング拠出
 キャッシュバランスプランの導入
  (無責任にリスク投資を勧めるFPに注意)

Written by Hiroshi Fukumitsu. You may not copy, reproduce or post without obtaining the prior consent of the author.
originally appeared in March 20, 2012
corrected and reposted in June 22, 2012, Jan.5, 2013 and June 14, 2014


参照 金山修一「受給者と現役の88万人に影響 中小企業は年金倒産の懸念も」『エコノミスト』2012年3月13日 p.14
   大久保勉「厚生年金基金を厚労省と金融庁の共管にすることも検討」『金融財政事情』2012年3月26日, pp.28-30.
北山桂「虚偽の運用報告はなぜ可能になったのか」『金融財政事情』2012年4月2日, pp.28-31.
杉浦宣彦「年金基金の金融リテラシー向上が再発防止のカギ」『金融財政事情』2012年4月2日, pp.32-33.

金融システム論 
マドフ事件(2008年12月)
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