英大手銀行バークレイズがロンドン銀行間取引金利LIBOR(ライボー)での不正操作で処分を受けた。
(2012年6月27日 米英当局に対しバークレイズに2億9000万ポンド=約350億円の課徴金支払いを発表
7月3日 バークレイズ首脳が辞任)
この事件は2つにわかれており、第一の事件では。
トレーダーがデリバテブで荒稼ぎするため、LIBOR担当者に不正をもちかけたとされる。
不正は2005年から2009年までの長期間繰り返された。
また2008年の金融危機のときのもう一つの事件では、
自行の信用を補うため、幹部の指示で低く偽ったとのこと
この問題は、ロンドンの金融市場で、自分たちがもうかれば
それでいいという道徳のない世界が広がっていることを示した。
現状は、問題を監督する側と監督される側は仲間意識で包まれ不正摘発に進みにくい
(英銀行協会BBAの外為資金市場委員会は金利提示行で構成される内部組織、
監督組織のFSAは実は身内の民間組織。
中央銀行であるイングランド銀行も銀行関係者との仲間意識に包まれている。
今回の問題ではイングランド銀行のタッカー副総裁の直接の関与が暴かれている。)
LIBORについては英国銀行協会が1986年から公表導入。仕組みは主要行が午前11時にまとまった金額を借りられるという
金利水準を銀行協会に申告。協会では上下4分の1ずつを除いた残りの平均を算出するというもの(ドルの場合で18行
円の場合では13行)。毎営業日の午前11時に収益して公表している。LIBORが基準となる取引は全世界で総額300兆ドル。
国際決済銀行の報告書(2008年春)が低い金利の提示問題を指摘して以降、議論が広がっていた。
デリバ取引を有利に進めるためたびたび虚偽の金利を申告、
あるいは金融危機に際しては信用力の低下を隠すため低い取引金利を示したとされる。
不正の指摘に2011年4月ころから米欧当局が捜査に着手 20前後の金融機関が調査の対象になっていた。
米シティG JPモルガンチェース 英ロイヤルバンクオブスコットランド 独ドイツ銀行
スイスUBSなど。
そのうちバークレイズが不正の事実を認めて2012年6月末に罰金を支払い。問題に火がついた。
なお捜査対象には東京三菱銀行(ロンドン)の行員も入っている。
2009年2月の円建て取引が問題になっているとのこと。
2005-2007年 バークレイズノトレーダーの荒稼ぎはスワップの共謀相手はみな昔の同僚。
こうした金融機関を超えた交友関係が不正の温床になっていた。
LIBORを使った取引は世界で300兆ドル(約2京4000兆円 金利スワップが230兆ドル シローンが10兆ドル 変動利付債が3兆ドル)とされ
その影響は極めて大きく金融システムをゆるがほどの大きな問題とされる。
取引金額から金利スワップ取引の拡大が重要なファクターであることがわかる。この取引は1980年代に拡大した。そこでイギリス銀行協会は1985年にイングランド銀行と協力して変動金利の指標となる金利を作成。1986年には貸し出しとスワップ取引の基準金利となるBBA・LIBORの公表を始めた。1986年はイギリスが金融改革に着手した年。LIBOR公表には米国外のドル取引きを主導する戦略的な狙いもあった。
2012年9月9-10日にスイスのバーゼルで開かれた国際決済銀行の中央銀行総裁会議では議題の一つにLIBOR改革問題が取り上げられた。
改革の一つの焦点は想定借入金利ベースである点。想定される借入金利の自己申告という現在のデータの集め方には
確かに「不正」が入りやすい(とくに金融危機時の適正な金利設定にはむつかしさがある)。
またもう一つは金利を提示する参照銀行の数をふやすことだ。
そして最後は監視体制だ。銀行協会任せはやめて、第三者が監視して、必要に応じて立ち入り検査をして不正防止を徹底することだ。
さらには、商業銀行と投資銀行を分離して、とくに商業銀行の利益追求を厳しく制限することも必要だろう。
この問題をめぐってはNY連銀が2008年にイングランド銀行に改善を促したにも
かかわらず、イングランド銀行が長年にわたり問題を放置してきたことが明らかになっている。
加えてタッカー副総裁の場合はバークレイズに金利が高いことを注意する電話を入れて
バークレイズに偽装操作を指示した電話内容が明らかにされておりこの不正事件に直接関与した。
このことはイングランド銀行、そして次期総裁とされていたタッカー氏に対する信頼感の低下につながった。
バーゼル会議でキング イングランド銀行総裁が議論を呼びかけたとしてもむなしさは残る。
と同時にアメリカとしてはこの機会に英国主導でない新たな基準金利を目指したいところ。
同じ動きは欧州連合からも出されている。
2012年9月28日には英国政府がLIBOR改革案を示した。まず算出を銀行協会から新組織に移して英金融サービス機構(FSA)の
監督下に置くこと(FSAの機能は来年初めにイングランド銀行に吸収されるので、これはイングランド銀行が監督にあたるのと
同じ意味)。想定借入金利ではなく実際の銀行間取引を裏付けに算出したものとし、150にまで増えた基準金利
(10種類の通貨に15の貸し出し期間設定)
を20種類に絞り込むこと。申告を義務付ける金融機関を現行の16機関からできるだけ拡大すること。
申告金利は3け月以上経て公表とのこと。
その後2012年10月 英ロイヤルバンクオブスコットランドは過去の不正を見つけたとして行員4人を解雇したことを
明らかにした。バークレイズに続き不正が発覚したことで、この不正がイギリス銀行業界の体質になっていることも
明らかになったといえよう。
2012年12月11日 英重大不正捜査局(SFO)はLIBOR不正操作に絡んで英国人3人の逮捕を発表した。そのうちの一人は
金利操作の疑いで2011年にシティの東京オフィスを解雇された人物で元UBSに在籍(→トレーダーは移籍が多く
業界内の個人的つながりが強く、それが不正の背景になったとされる)。
2012年12月19日にはLIBORの不正事件でスイスの大手銀行UBSに総額14億フラン(1300億円)の課徴金を求める
行政処分が米英スイスの金融当局から発表された。UBSは2005年から2010年まで日本を含む複数の国で組織的に不正を
行っていた。不正対象はLIBORのほかEURIBOR。日本拠点での取引 円建てLIBORも不正の対象となった。
すでに日本の金融庁は2011年12月にUBS証券に対して、LIBORやTIBORを不正に操作しようとしたとして
UBS証券に一部業務停止命令を出している。円取引が不正の舞台であった可能性が浮上している。
LIBORと同じ問題が東京で全国銀行協会が算出する東京銀行間取引金利TIBORタイボー
(16の金融機関から申告を受け上下2行ずつを除いた12行の平均を算出)についてもあり、銀行協会では調査して
問題はなかったとしたが(8月10日)、しかしそれを信じるべき根拠はない。
算出基準のあいまいさ(みずからが優良銀行だったら出すであろう金利)
提示金利が横並びであること など
基本的には業界団体がこのような計算の算出・管理を行い、第三者が監督しないことの妥当性がある。
イギリスでの議論を受けて日本でもTIBORの見直しをするべきだろう。
(TIBORはコール市場の長めの取引使われるほか、スプレッド貸しの基準金利に活用されている)
イギリスでは銀行協会が算出権限を返上したとのこと。とはいえ
信用不安をさとられないように低い金利を今後も申告する誘惑は残る。
この問題は
業界団体の自主管理=金融業界の性善説、自由主義を盲信した金融規制緩和は転換点にあるといえよう。
もともとロンドンの金融センター機能を重視してきたイギリスは、ゆるやかな規制を売り物にしてきた。
なお1997年FSA発足は中央銀行の権力が弱めた一方 FSAにはきっちりした監督権限がなかった。
イギリスではFSAを解体(売り物は財源の独立で金融機関の納付金で賄う その長官の年収は1億円を超える。
金融業務に精通した人物ロいう名目のもと業界幹部が就任)。
イングランド銀行が来年から銀行監督の役割を担うことになった。
しかしイングランド銀行と市場関係者との仲間意識が問題にされているときに
この解決法はすごく奇妙だ。本当はFSAを監督組織として権限を強化するのが
正しい方向だったのではないか。
次のステップとして金融機関を投資銀行と商業銀行に分割すべきとの声もある。
しかしこれまでの経緯、とくにイングランド銀行の振る舞いからすれば
監督権を取り戻したイングランド銀行が不正の排除にどこまで真剣かはなお疑問かもしれない。
このLIBORをめぐる問題追及は2013年も続いた。関係したとみられる金融機関は拡大を続けた。
バークレイズに続き 2012年12月にはスイスのUBS.そして
2013年2月にはイギリスのロイヤルバンクオブスコットランド(RBS)さらにドイツ銀行が摘発された。
そして全銀協が不正はないと言い張った日本の市場でも問題があったことが判明する。
英RBSが荒稼ぎしていたのは2006-2010年の日本円やスイスフランでの取引だった。
欧米ではNYSEユーロネクスト(傘下にロンドン国際金融先物取引所)がLIBORの算出運営の権限を
英国銀行協会から引き継ぐとのことになった。
しかし日本で対策として出てきたのは全銀協に外部監査を導入。運営を独立の監視委員会で監督するというもの。
基本的な問題である業界団体がこの数値を算出するという仕組みには手をつけていない点でこの改善は
不十分なのではないだろうか。
2013年12月4日 欧州連合の欧州委員会は
複数の欧米金融機関がカルテル行為を実施したとして合計で17億1000万ユーロの制裁金を科した。問題に
されたはユーロ建て指標金利 さらに円建て指標金利。円建て東京銀行間金利
が改めて問題になった。全銀協の不十分な改革姿勢は問題とされてよいのではないか。
0riginally appeared in Sept.19, 2012
Corrected and reposted in January 5, 2014
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