Entrance for Studies in Finance

必要な産業技術への関心 

Hiroshi Fukumitsu

 財務を考える上で、国際化の問題を忘れていけないが、今一つ重要な視点として技術への関心を上げたい。
経済の問題を考えるとき、技術そのものへの関心は不可欠である。優秀な技術をもっている企業は、当然、競争力も強い。大事なのは、そうした技術革新を継続的に生み出せるかどうか。日本の企業の在り方が、それを可能にしているとして、それを今後も可能にするにはどうすればよいかである。ここではいくつか個人的に注目している技術に触れてみたい。

1.自動車に関係する技術
 自動車をとりあげても、それは極めて多くの産業の技術の集合体になっていてそれらの個々の強さが、日本の自動車技術を支えている。
 たとえばハイブリッド車の技術。ここでは日本のトヨタとホンダが先行している(トヨタが1997年に初めて商品化)。ガソリンエンジンと電気モーターを併用し、走行状態により切り替えるもの(制御用LSI:large scale integration circuitの装着)。これは排出ガス規制が始まった欧州・アメリカで人気だとされる。エンジンが発電用のみに使われるのではなく、車輪の駆動にも使われている。
注目されるのは様々な会社の技術がくみあわされていること。バッテリーはトヨタは松下電器から、ホンダは三洋電機から調達。三井ハイテックが担当するモーターに使われる電磁鋼板は薄いもので省電力効果が高い→これは冷蔵庫やクーラーにも採用され技術革新の成果の波及トリックルダウン効果tricke down effect*の典型とされる。
*余分な知識:経済学の方ではこの言葉を上層階級が豊かになるとそのおこぼれが下層階級におよぶ「おこぼれ効果」の意味でも使う。これに対してmarketing論でのこの言葉はやや否定的ニュアンスがある。上層階級が使用していたものが普及して価格が低下するともはや上層階級の使用品に適切でない品物とみなされるという含意である。それは大量消費を担う下層階級がむしろファッションのリーダー役になるとするmass-market theory(trickle across effect)の逆の議論である。

 日本の自動車のボディに使われる外板用鋼板は、軽量・高品質なもので特殊な表面処理が行われている。バンパーやセンターピラーには強度が強くかつ軽量の高張力鋼板が使われるなど、日本の自動車の素材には様々な高度な技術が使われている。
 ハイブリッド車のうちプラグイン式は家庭用コンセントからの充電を可能にしたもの。2009年6月に富士重工がプラグイン方式ハイブリッド車「ステラ」発売開始 Segway PTとTelsa Roadstar Fisker Karma
低価格化の圧力 自動車の将来(⇒TATA NANOのサイトへ) ミニノートの低価格化

2.携帯電話
携帯電話本体では、ノキア(2003-2004 折りたたみ型で出遅れたあと低価格路線で攻勢)やモトローラなど海外勢に日本メーカーは及ばない。世界シェアでTopはノキア(08/01-03 39.9%)2位はサムソン電子(15.9%) 3位モトローラ(1973年に世界初の携帯電話を試作した会社だが近年シェア低下に悩んでいる)(9.4%) 4位はLG電子(8.4%) 5位にソニーエリクソン(7.6%)である。ノキア(2006年にシーメンスの通信機器部門と統合しており正式社名はノキア・シーメンス)と韓国の2つのメーカーが新興国で売上を伸ばしている。アメリカや日本など先進国では市場の伸び悩み減速が明瞭になっている(2007年に10億台に乗った世界の携帯の販売台数は2008年には12億5000万台と見込まれる)。
 日本で販売が減速している背景には、携帯電話会社が販売奨励金を縮小して通信料を下げる料金体系に移行したことが大きい。その結果、平均的な端末の販売価格が従来の2倍以上の5万円前後に高騰し買い替え需要は一気に冷え込んだ。
 ところが中の部品では日本メーカーは健在だ。
 一時的に電気をためて回路上の電流を整えるセラミックコンデンサーでは村田製作所、TDK、太陽誘電、京セラの日本4社で世界の8割。小型で大容量の高機能品では日本は優位。1台あたり200-300個。電波の周波数を制御する水晶部品。エプソントヨコム、日本電波工業、京セラキンセキ、大真空の日本4社で世界の7割。プリントの配線基板。イビデン、日本CMKなど。
 リチウムイオン電池。携帯電話やパソコンなど小型電子機器の電源として利用されている。今後は電気自動車向けの急拡大が予想されている(以下 リチウム電池之部分は2011年9月に書きこみcorrected in Oct.2, 2010)。
 三洋電機(世界首位)、ソニー(1991年に世界で初めて実用化)、松下電池(松下電器産業:パナソニック)で世界の8割とされていたが。韓国・中国勢が急速にシェアを伸ばしている(これに対してたとえばパナソニックは中国での生産を拡大して製造コストを引き下げ、サムソンなどに対抗する構え)。なお素材メーカーには、古河電気工業、三菱化学、住友化学などがある。(使い捨てタイプの電池を一次電池、充電可能なタイプを二次電池と呼ぶ)。中韓台のメーカーの参入・台頭に対して、日本のメーカーは高機能化(効率化 耐熱性 耐久性 薄型化 小型化など)を売りにしているとのこと。
リチウム電池では、電気自動車やハイブリッド車に使う大容量リチウム電池(新世代電池)の開発も急務(トヨターパナソニック、三菱自動車ーGSユアサ、三洋電機ーフォルクスワーゲンが近く2009年内に生産開始。日産ーNEC)、ニッケル水素電池に比べ重さや体積を約半分に抑えられる。燃費の向上、走行距離の改善につながるなど基本性能にかかわる。1充電あたりの距離の改善(電池1キロに蓄えられる電力領を増やすこと)、安全性(発熱、発火を起こさない、衝突・水没時の安全性、リチウム電池は燃えやすい液体を使う、液体は液漏れによるトラブルや温度変化に弱い)、規格の統一(安全性試験や電気ステーションの整備コスト低下できる)が課題。
 そこで技術的に焦点になっているのは固体化(固体型電池)。発火の恐れがなくなり、構造は簡単に。また電導性能の改善により、同体積でより大容量が可能になるとのこと(金属空気電池など、そのさらに将来の革新電池の研究もすすめられている)。
 なお家庭用燃料電池という分野があるが、これは小型の発電装置の分野。水素と酸素を化学反応させる。二酸化炭素の発生量の抑制、エネルギー効率の改善につながるとされる。松下電器、荏原バラードなど。背後には都市ガスや石油会社など。現在は製造コスト高い(一台200万-250万)。
 リチウムイオン電池は、主流の鉛蓄電池(現在自動車やバックアップ電源に幅広く利用されている)により蓄電効率が高い(したがって非常用電源としても今後 リチウムイオン電池の普及が見込まれる)が、製造コストの高さが普及の障害。しかし2011年3月の東日本大震災による電力不足懸念は、非常用電源のほか自然エネルギーの蓄積目的を目覚めさせたほか、公共施設・事務所に加え家庭用蓄電池需要に火をつけることになった。もちろん電気自動車向け需要の拡大も予測されている。需要開拓が進み、製造コストが下がれば普及がさらに進むことが期待できる。
コンピューターの発熱問題 三洋電機の再建

3.ナノテクノロジー(超微細加工技術)
ナノテクノロジーとはナノスケール(10億分の1メートル)での原子・分子の配列換えによって可能になる加工技術のことである。ナノテクの技術的な説明は私は専門外だが、このような超微細加工が可能になることで、たとえば半導体をとってみると、装置の超小型化、メモリー容量の飛躍的拡大、使用材料の節約、生産コストの引き下げなどが生じることは理解できる。また処理能力の高速化、低消費電力が望めるともされている。
 このナノテクはすさまじい勢いで進んでいる。たとえば2004年9月の新聞記事をみるとNAND型フラッシュメモリーで韓国のサムソン電子が60ナノ級の微細加工技術を使ったメモリーを開発したとあるN04/09/21。ところが2007年4月の記事をみると、この時点ですでに56ナノの先端品の量産を行っている(この時点の主力は70ナノ)東芝は、主力を56ナノに移行するとともに、2007年後半には43ナノの量産を始めコストを4割引き下げを目指すとあるN07/04/21。そして最も先端では10ナノという大きさの加工技術が視野に入ってきているN07/05/25。
 半導体とともにプリント基板のナノテクも急速な進化を遂げており、このことが電子機器の小型化・薄型化を可能にしている。後述する水処理膜もナノレベルのフィルターを用いた水処理が議論されるので、ナノテクノロジーの応用分野の一つといえる。
 また回路ではなく可動部分がある微小部品はMEMS(微小機械)と呼ばれ、現在はマイクロメートル(100万分の1メートル)レベルの世界だが、この面の技術開発も注目されている。

4.技術革新が続く薄型表示装置
 液晶のディスプレイは急速に一般化し、現在、次の世代がどのタイプになるかに関心が集まっている。パナソニックやシャープは垂直統計型維持、日立や東芝は海外企業などにEMS委託。水平分業でコスト削減(N09/05/14)で競争力維持。
 まず白色LED(発光ダイオード)。その最大手は日亜化学工業。寿命が長く狭い範囲を照らすのに向いている。2007年に松下電工などが家庭用をまた小糸が自動車HLを実用化した(レクサスノハイブリッド車に搭載07/05/17)。
 LEDは現在の寿命は3-4万時間とされる。
 白熱電球との比較で初期費用は4倍以上。コスト面の課題が残る。しかし消費電力は7分の1から9分の1(10分の1程度とも)寿命は約20倍(40倍とも)。世界の在来型照明市場の規模は約10兆円(米GE、独オスラム、オランダフィリップスが3強)。
 半導体の白色LEDでは日亜化学工業が世界の4割、シチズン電子が1割から2割。
 蛍光灯との比較。寿命6000-12000時間に対し30000時間以上。価格は4-5倍。省電効果、長期的にみた経費削減効果が注目されている。発光効率は改善が進んでいる。交換の手間など保守費用面、低温下でも瞬時に明るくなるなどの利点もある。携帯電話やパソコンのバックライト、自動車の前照灯・室内灯、街路灯など幅広く活用が始まっている。パナソニック、東芝などがLED照明に進出、海外開拓に取り組む。
 LEDをバックライトに使ったLED搭載型液晶テレビも普及が進んでおり2009年後半には薄型テレビの主力に。画質の改善、省エネ効果、薄型化効果が高いとのこと(シャープ、サムソン、ソニーなど。2008年春にサムソンが販売で先行し人気集める)。
 有機EL(エレクトロ ルミネッセンス)。薄くて曲げられ明るいなどの特性がある。電圧をかけ有機物が発光する電子材料であるが、面で発光する点に特徴があり(面発光で広い面積の照明に優れている 有害物質を使わないので環境にやさしい)、次世代の照明器具としても注目されており、すでに三菱重工業が照明用有機ELの量産に入っている(N07/05/08)。寿命が1万時間と現在のところ短いことが難点だが、液晶にくらべ明暗はっきりしており画像応答速度早く極めて薄くできるなど長所も多い。とくに省エネ効果は注目されている。11型で3mm 27型で1cm ソニーが2007内に商品化を表明している(低分子系 実用段階 出光、三井化学 素子構造が複雑)。すでにAUが携帯電話主画面に有機EL採用端末を投入している。
 有機ELは1880年代の白熱灯。1930年代の蛍光灯に続く照明分野の技術革新だとされる。寿命のほか大型化がむつかしいなどの問題が残されている。低コストでの大画面化がむつかしいとされてきた。
 しかし有機ELはわずかに韓国メーカーの先行がみられる。2007年9月からサムソンSDIが、携帯電話用小型パネルの量産に入り、LGフィリップスLCD(LPL)が2008年上半期の量産開始を目指している。コニカミノルタが2009年度に参入。
 これに対して液晶・プラズマは日本のメーカーが大型化で先行するほか寿命が6万時間程度あることも優位点。パナソニックと住友化学は2010年度にも40型以上の大型パネルの生産めざす。
 他方、有機ELを高分子系で研究しているのは住友化学と昭和電工。こちらは素子構造が簡単で、インクジェット方式塗布可能だが、なお2008年度実用化目指している(07/04/14)。
このほかキャノンと東芝が開発中のSED:suface-conduction electronic-emitter displayもかねて注目されてきたが2007年1月に東芝は長年の公約を破りSEDの開発生産からの撤退を宣言した。画質面で優位とされたSEDであるが、液晶の普及大量生産により液晶のコストが急速に低下し、SEDが価格面で競争力を持つのは困難であること、また有機ELなど新たな技術へ市場の関心が移っていることなどが東芝の撤退の背景として考えられる。同じような動きにソニーによるFED(電界放出型display)からの撤退がある(2009年3月)。

5.炭素繊維と水処理膜
 化学工業の技術として、かねて注目しているのは炭素繊維である。炭素繊維は鉄の4分の1の重さだが強度は10倍とされる。腐食せず対熱性にも優れる。
 航空機、自動車、産業機械などで需要が増加している。年率15%の需要の伸びがある。航空機の機体、自動車のプロペラシャフト、風力発電の羽根、ゴルフクラブなど多方面に使用されている。メーカーとしては東レ(最大手)、帝人など。国内3社(東レ、東邦テナックス、三菱レイヨン)が世界シェアの7割を押さえる(炭素繊維は2011年度 東レ 帝人 三菱レイヨンの3社で7割 東レで4割)。東レは2021年まで米ボーイングの次世代機787に独占供給。機体の50%に使われる炭素繊維(実際には炭素繊維に合成樹脂を混ぜた複合材)でボーイング787の燃費は大幅に改善したとされる。かつて国産旅客機YS-11を生産した三菱重工業では、国産ジェット機の開発を進めているが、そこでも炭素繊維を使った複合材を使うことが燃費改善のカギの一つになっている。(なお帝人はGMと組んで車用途での主導権を目指す)
 質的に軽量で強度が高い 風力電力用風車が今後拡大
 シェールガス革命 輸送タンク
 現在は値段が高い(鉄の数十倍以上)ので利用は一部だが、自動車の燃費改善の切り札と考えられる。軽量化とともに強度も増すとされている。炭素繊維メーカーでは量産化によるコストの切り下げで、鉄との素材競争に挑んでいる。なお2007年10月26日に開幕した東京モーター賞ショーで、トヨタは、炭素繊維強化プラスチックの採用で車体重量を420KGと現行プリウスの3分の1とした「1/X」を出品して注目された。
 これに対して鉄鋼メーカーでは、強度のより高い次世代鋼板(高張力鋼板)の開発を進めている。強度を増すことでより薄い鋼板(軽量化)が可能になるとされ、現在は一般鋼材の5倍程度の強度の鋼板がすでに生産されている。新日鉄やJFEが目指すのは次世代鋼板は一般鋼材に比べて強度が7倍というもの。このような鉄鋼メーカーの技術水準の高さと日本のモノヅクリへの貢献は、しばしば指摘されるところでもある。
 もうひとつ水処理の技術として水処理膜の技術も注目される。汚染された水を浄化して工業用水として再生したり、海水を淡水に変えて水不足の解消することに役立つ。海外ではダウケミカルが知られるが、国内では旭化成や東レ、東洋紡などが高い技術をもっている。
このうち旭化成は水処理膜で中国に工場を設け、東レは水処理膜で中国に研究所を設立して中国ビジネスの開拓につなげているほか、東洋紡が海水淡水化で中東での営業を行っていることが知られる。また最近、帝人が水処理膜に参入することが明らかになった(N07/07/06)。
 このような造水に発電を組み合わせたビジネスについては、中東諸国で極めて高いニーズがあり、日本の商社がこれらのビジネスにあいついで取り組んでいることも知られている。日本の国際貢献としてもこれらのプロジェクトの成功が期待されるところである。
 
国名商社名事業規模供給開始
アラブ首長国連邦丸紅3600億円2010開始
東電・三井物産2700億円稼働中
三井物産はこのほかトルコ、タイで実績 メキシコで始める
カタール丸紅2700億円2010開始
サウジアラビア三菱商事2300億円2010開始
バーレーン住友商事欧州2社1500億円稼働中
アルジェリア伊藤忠商事


 なお水については水道事業や下水道事業を民間企業が行うということが海外では見られる。この面での民営化が進んでいない日本に比べて、フランスは実績があるとされ、フランス企業の「スエズ」あるいは「ベオリア エンバイロメント」などが最近注目されている。

むすび 注目されるレアメタル
 技術とともに今熱い注目を浴びているのはレアメタル(希少金属)の問題だろう。もともと生産量の少ないレアメタルの確保ができなければ、思わぬ成長制約となりかねない。また価格の高騰も悩みの種になっている(参照 商品市場)。
 たとえば白金(プラチナ)は排ガス浄化用触媒に欠かせない。自動車1台あたり約3グラム必要。次世代燃料電池車では80グラムから100グラム必要で現在価格で40万円超が必要とされる。しかし白金は南アフリカでほぼ8割が生産されている。超硬工具に使われるタングステンに至っては、中国での生産が9割を超える。液晶パネルの電極にはインジウムが使われるが、これは中国で5割以上が生産されている。日本は世界の中でもレアメタルの使用量が多く、世界で生産されるインジウムの6割、プラチナの2割を消費している(N07/06/21;07/08/20NE)。
 より使用量を削減する技術の開発、安い金属に代替させる技術の開発、さらにはリサイクルによる確保などが進められている。

Originally appeared in Aug.15, 2008.
Corrected and reposted in June 16, 2009.
(リチウムイオン電池之部分のみ corrected in Oct.2,2011)

技術のお話 新幹線、リニアモーターカー iPS細胞(新型万能細胞) 日本の淡水化技術 生体認証をめぐる規格の争い 富士フィルム(脱フィルムの模索) 原子力エネルギーへの懐疑と代替エネルギー SSD vs HHD 航空機 衛星など

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